ナイロビのジョモケニアッタ国際空港から「JET AIR」という比較的新しい地域航空会社の双発ジェット機に乗る。ターミナルから飛行機までエプロンを歩き、機体の横に置かれた預け入れ荷物を確認すると、それを積み込んでくれる。ソマリアのモガディシオ行きの便はどれも混雑すると聞いていたが、3分の1も乗客はいない。
あらかた乗り込んだ様子だが、まだ2個、大きな荷物がエプロンに置かれたままだ。客室乗務員が、自分の荷物を確認していない人がいないか、アナウンスする。預け入れた時につけられた乗客の名札を読み上げて、名乗り出るように促す。客のほとんどはソマリア人だが、客室乗務員はソマリ語を話せないようだ。
すると、客のソマリア人男性が名前を呼んで、出てくるようにほかの乗客に促しだした。だれも出てこない。別の乗客が「いつものことだ。チケットをちゃんと確認しないから、乗客はほかの便に乗っていってしまったんだ。私の荷物も全然違うところに送られたことがある」と英語でまくしたてた。
わいわいがやがややっているうち、後ろの方の席にいた女性が「私のだわ」とばかりに笑って出てきて、機内の空気はなごんだ。でも、最後に残った1個は結局、持ち主が現れず、地上のスタッフが持ち去ってしまった。
預け入れ荷物が行方不明になるのは珍しいことではない。でも、普通、出発を遅らせる出来事は、イライラの種でしかない。機内が1個の荷物をめぐってああでもない、こうでもないと修学旅行のように盛り上がるのは、ここがアフリカだからなのか。機体の横にぽつんとある荷物のかもし出す哀れさゆえなのか。
そんな出来事があったにもかかわらず、飛行機は時間前に出発した。こちらの方が、珍しいかもしれない。

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。