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「大地に生まれ、大地に戻るように」@モガディシオ北西

写真:装甲車両の周りに集まった人たち=ソマリア南部のワンラウエインで、中野智明氏撮影拡大装甲車両の周りに集まった人たち=ソマリア南部のワンラウエインで、中野智明氏撮影

 27日午前9時過ぎ、アフリカ連合(AU)軍の装甲車両6両を連ねてモガディシオを出発し、北西に向かった。前線近くまで連れて行ってくれるという。そもそも、地域に溶け込んだイスラム武装勢力シャバブを相手にするとき、前線というのは何なのだろうと考えながら、重い防弾チョッキを着込んで車両に乗り込んだ。

 基地を出たところでソマリア人記者6人が加わった。うち1人は新華社通信の記者だった。ソマリア人記者は防弾チョッキなど着ていない。

 装甲車の中は冷房が利いている。でも、どんどん足元から暑くなる。

 モガディシオ郊外に出ると、木の枝に布や紙をかぶせた避難民の小屋が道沿いに延々と続く。人が通りにあふれている地区があるかと思うと、人通りのない場所もある。一行を指揮するウガンダ軍のヘンリー・オボ大尉(35)は「人がいないということは、シャバブが隠れている可能性があるということだ」と言う。それぞれの車両の上に機関銃が据えてあり、兵士が警戒した。

 出発前にAU軍の司令官、ウガンダ軍のアンドリュー・グッティ中将に話をきいた。シャバブが周辺の人々に溶け込んでいることや、彼らが標的を選ばず、攻撃しては逃げる戦術をとることが戦いを難しくしていると話した。しかし、資金源を断つ努力が実を結び、3週間前には一度に263人の大量の投降があったという。

 戦いは着実に前進している。そういいながら、中将はゴールは戦いの先にあると言った。

 「人が大地から生まれ、大地に戻るように、市民の中から生まれるシャバブの戦闘員が戻るべきところは市民の中なのだ」

 モガディシオから100キロあまり北西にあるワンラウエインの町に正午ごろに着いた。一帯を襲った洪水のため、町の道路はグジャグジャになり、池になったところで装甲車両が立ち往生した。

 シャバブの勢力下にあった町は3週間前にAU軍が制圧したばかり。モガディシオに近い町では人が手を振ったり笑ったりするのだけれど、この町の人はあまり笑っていないことに気づく。

 装甲車から降りると、たくさんの人が集まってきた。地元記者が通訳を買って出てくれて、話を聞こうとしたが、なかなか話したがらない。

 エデン・シェクオスマンさん(30)は、家畜の取引をなりわいにしていると教えてくれた。でもシャバブが支配していた9月と今では何が変わったのかと尋ねると、「そんな質問には答えられない」。このように大勢の人の中には、必ずシャバブがいる。だから話せないということらしい。

 それにしても、町の人に防弾チョッキを着てインタビューするというのは、何とも礼を失している。これじゃあ、まともな話をしてくれるはずもないなと思っていると、オボ大尉が「人が集まりすぎて危険な状態になった」と言い出し、装甲車に乗るよう促された。

 「1時間も人混みの中で車両を止めたことなどなかった。でもこれだけいて何も仕掛けてこないということは、シャバブはもうこの町で我々を攻撃する能力がないということだ」と、オボ大尉は言う。

 さらに前線の方にあるバイドブレの空港に向かおうとした時、見知った顔があるのにフォトジャーナリストの中野智明さんが気づいた。8月に朝日新聞の杉山正ナイロビ支局長と中野さんが一緒にインタビューしたヤハヤさん(39)だった。シャバブの幹部として330人ほどの戦闘員を率いた後、今年AU軍に投降した。その彼が地区の行政幹部になっていた。

 AU軍やソマリア軍に協力し、シャバブの戦闘員に投降を呼びかけたのだという。町の人たちは自分の犯した過ちを許してくれた。「でも、シャバブからは脅しを受けている」と話した。

 ワンラウエインの町から、シャバブはさらに数十キロ北へ追いやられているという。確かに「面」でとらえれば、シャバブはどんどん支配地域を失っている。前線に近づいても、この日は一発の銃声も聞くことはなかった。

 夕暮れ時、洪水に覆われたばかりの土地を、腰を曲げて耕す人たちを走る装甲車両から見ながら、「市民は市民に戻るべきだ」というグッティ中将の言葉を思い出した。ヤハヤさんのように、市民に戻れた戦闘員はむしろ幸運なのだろう。同じ国の中で戦った者同士の和解がいかに難しいか、多くのアフリカの紛争が示している。

 ちょうど日が落ちるころ、モガディシオに戻った。道路脇の店に明かりがともり、屋台に人が連なる。「夜がふけると、家々の醜い銃弾の痕は闇に隠れ、明かりのともった町は美しく変身する」。道中、しゃべり通しだったオボ大尉は、なぜか詩人に変身するのだった。

     ◇

■壊れたGPSロガー

 実は、ご報告しなくてはならないことがあります。「GPSロガーという装置で、訪れた場所が正確にわかる」というのが、このシリーズの数少ない売り物だったのですが、この装置、ナイロビからソマリアに向かう前に壊れてしまいました。

 決して居場所を探られたくないとか、行ったところを少しごまかしたいからとかいうわけではないのです。装置はパソコンにつないで充電する仕組みだったのですが、出発前に充電しようとしてパソコンにつないだら、ケーブルの差し込み口の金具がとれて、どこかへ行ってしまったのです。つまり充電できなくなり、使えなくなってしまったのです。

 というわけで、ナイロビ出発後の位置は、緯度と経度をできる限り調べて送っています。最初の原稿の時のように、どんぴしゃりというわけにはいきません。もちろん、高度や移動距離も正確にはわからなくなりました。大変申し訳ありません。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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