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「お前たちは標的だ」記者たちの日常 @モガディシオ

写真:アブディ・モハマド・イスマイルさん(右)=中野智明氏撮影拡大アブディ・モハマド・イスマイルさん(右)=中野智明氏撮影

 右から左から、声がかかる。アブディ・モハマド・イスマイルさん(35)は笑って言う。「みんな、シャバブに気をつけろ、だって」。今年に入ってソマリアでは17人のジャーナリストが殺された。だれも捕まっていないが、みな武装勢力シャバブの仕業だと思っている。

 イスマイルさんはいま、もっとも狙われている一人と言われる。モガディシオから100キロ圏内でもっとも影響力のあるラジオ局の一つシャベレ・ラジオの編成局長のような立場にいる。直接、殺害予告を電話で受けたのも一度や二度ではない。もう気にしなくなった。

 子どものころからラジオが好きで、ラジオ記者になったのは18歳のころ。2002年にシャベレ・ラジオが設立されたのと同時にこの局の記者になった。

 ソマリアは1991年から内戦状態にあった。武装勢力同士が対立し、国連の平和維持軍も95年に撤退した。でも、基本的には武装勢力同士の争いだった。シャバブが急速に勢力を拡大する07年ごろまでは。

 特にこの1年はひどい状態だという。シャベレ・ラジオはしつように狙われている。「私たちに影響力があり、事実を報道するからだ」

 イスマイルさんに話を聞いた前日の10月29日も、銃撃がもとで1人が死んだ。シャベレ・ラジオの犠牲者は今年だけで4人、07年以降で9人になった。

 みなが踏みとどまるわけではない。いや、02年の設立からずっとシャベレ・ラジオで働いているのは、もうイスマイルさんと社長だけだという。300人が来ては辞めていった。隣国ケニアへ、ヨーロッパへ、脱出する人もいる。

 シャベレ・ラジオだけではない。標的になることを避けるため、ペンを一時おくことにした人に会った。

 親が遊牧民だったアリ・デックさんは自分の年齢が42歳ぐらいとしかわからない。フリーでラジオに出演したり、評論や文芸記事を書いたりしてきた。今年、その活動を一時、停止することにした。「シャバブは簡単に人を殺す。標的になっているのに、ジャーナリストはあまりに無防備だ。警備がついているのは局の上層部だけ。その上層部も腐敗している」と話す。

 イスマイルさんは、なぜとどまるのだろう。親友が殺された時、「自分は何で逃げないのか」と何度も自問した。だが、子ども5人を抱えて国を脱出して新たな暮らしを始める経済力はない。

 シャベレ・ラジオは、09年まで市内のバカラ市場に局舎があった。シャバブは一帯を勢力下に収めた。何度も局に押し入られ、自分たちの意に沿わないと殺すと脅された。局の前で見せしめのように人が撃ち殺された。

 イスマイルさんたちは機材を持ち出して夜逃げし、3キロほど離れた今の位置に拠点を移した。2階建ての局舎にはラジオ用二つ、テレビ用一つの、小さなスタジオがある。ここに十数人のスタッフが働く。廊下や階段にはマットレスが立てかけてある。帰宅時が危ないので、寝泊まりする局員も多いという。

 今では警備員つきの車を3台、市内の移動用に確保している。高くめぐらされた局舎の塀には監視台があり、出入りも小銃をもった警備員がチェックする。

 イスマイルさんは拳銃を持ち歩いている。「いまのソマリアのジャーナリストには自己犠牲しかない。ソマリアが平和になって、もっと実入りのいい仕事があればそっちにいくよ」。別段、斜に構えた風もなく、そう言う。

 使命感に燃えて何事にも屈しない。そんな戦時下のジャーナリストを期待していると、軽く裏切られる。それはシャベレ・ラジオの屋上から見下ろすモガディシオの海岸線の景色のように、心地よい裏切りでもある。みんな普通の人なんだ。そう改めて思わされる。

 10月30日、また1人ジャーナリストが亡くなり、これで今年の死者は18人になった。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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