メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

11月14日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

新着記事一覧へ

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

準備不足の旅へ、本は一冊だけ @東京、出発前に

 アフリカに来るにあたってどんな準備をしたのかを書けと、このコラムを担当してくれている国際報道部のデスクに言われました。恥ずかしいことにほとんど準備らしいことはしていないというのが実情なのです。

 アフリカに来ることを決めて最初にしたのは、笑ってしまうのですが、ちょうど公開されていた「キリマンジャロの雪」というフランス映画をみたことです。とてもすてきな、心温まる映画でぜひおすすめしたい一本です。でも、アフリカはほとんど出てきません。そんなことも知らずに映画館に入りました。

 ほかに一日3キロ走るか、10キロ歩くかということを始めました。ナイロビ支局に勤務したのは10年以上前のことです。その時ですら、体力的にも、精神的にも、とてもきつい場所だと感じました。

 だから、にわかではありますが、体力づくりが一番大事だと感じたわけです。走り出すと、どうもムキになるところがあって頑張ってしまいます。しばらくするうち、ひざの裏のほか左半身の色んなところが痛くなってきました。運動もやり方を考えないと、害になるというよい例でしょう。

 黄熱病の予防接種を受けたのは8月末でした。いくつかの国がビザ発給の条件にしているのでこれは受けざるを得ません。

 黄熱病を受けると約1カ月はほかの予防接種は受けられません。ほかに必須のものはないので、それでいいと思っていたのですが、最後になって「破傷風ぐらいは受けておくか」となぜか思い、受けに行った先で勧められてA型肝炎と髄膜炎も受けてしまいました。押しに弱い性格です。

 さて、あとは何を持って行くか。

 仕事に使うものは別にして、まず買ったのは蚊取り線香。蚊取り線香には前のアフリカ勤務で随分、お世話になり、蚊取り線香を主役にした特派員メモも書きました。

 ところで、芯まできたとき蚊取り線香がどうなるか知っていますか。あるとき、それを目撃したのですが、それにはこういうわけがありました。

 マラリア汚染地域に泊まった時のことです。宿の部屋で蚊取り線香をつけて寝ると、燃えている間は静かでも燃え尽きてしばらくすると蚊が飛び出すことに気づきました。夜を過ごすには2巻きが必要なのです。そこで、夜中に一度起きて新しい線香をつけることにしました。

 ちょうど渦巻きの中心に朱色の炎が近づくのを見ていました。すると最後に真ん中が線香花火の中心のように、ぱっと一瞬、明るい玉になります。そして次の瞬間、真っ白な玉に変わります。こんなことを力説しても仕方がないのですが、あの瞬間を見たことのある人は、何ともいえずしみじみと澄んだ気持ちになれたはずなのです。まあ、一瞬だけですが。

 本は一冊だけもってきました。元朝日新聞記者の森本哲郎さんの「人間へのはるかな旅」(角川文庫)です。実に、こんな旅がしてみたいなと思う本なのです。今は亡きつかこうへいさんが学生時代に森本さんにあてた「ファンレター」がついているのもいいのです。

     ◇

■12年前に書いた記事から

 次は2000年9月に書いた記事です。衛星電話は今も使うことがありますが、通信事情は大きく変わっています。

 〈衛星電話の天敵〉

 電話回線のよくない国の取材に、衛星電話は欠かせない。使うには、まず人工衛星をみつけることから始める。確かインド洋と大西洋の上にそれぞれある。箱のふたのようなアンテナを、あっちに向けたり、こっちに向けたり、上げたり下げたりしながらそいつを探すのだ。電波を遮る建物があるとみつからないので、結構苦労する。

 アフリカを旅していて、ホテルの部屋で衛星をとらえられる幸運はめったにない。外にパソコンと衛星電話を持ち出し、やおら「東はどっちだ」とばかりに空を見上げる。外には衛星電話で仕事をする記者の天敵も潜んでいる。マラリア蚊だ。

 記事2本に写真2枚を送ろうとすると、軽く1時間はかかる。途中で通信が切れることもあり、パソコンと衛星電話の働きをじっと監視していなくてはならない。その間、手といわず足といわずあの羽音が襲ってくる。そこで、「日本の夏」、蚊取り線香の登場である。

 蚊取り線香は風に弱い。地面に置いて、横に立っていると、細く煙はたなびいて、あらぬ方向に消えてしまい、蚊が煙幕をかいくぐって波状攻撃を仕掛けてくる。

 下品な話で恐縮だが、研究の結果、地面に蚊取り線香を置いて、その上に「うんこ座り」するのがいいという結論に達した。みっともなさを忘れて夜空を見上げると、蚊取り線香の煙に乗って、原稿が空に立ち上っていくように思えてくるから不思議だ。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

PR情報
検索フォーム

注目コンテンツ

  • 写真

    【&BAZAAR】思い出を濃縮!

    スマホ動画をもっと楽しく!

  • 写真

    【&TRAVEL】繭の街で発酵食品食べ歩き

    にっぽんの逸品を訪ねて

  • 写真

    【&M】木村文乃さんインタビュー

    映画『体操しようよ』で娘役

  • 写真

    【&w】樹木希林さんの登場号に反響

    ほんやのほん

  • 写真

    好書好日宝塚の美、元スターが伝授

    ヅカファンの男性が試してみた

  • 写真

    WEBRONZA海を漂う魚の幼生の謎を追う

    今日の編集長おすすめ記事

  • 写真

    アエラスタイルマガジン現代の社長が語る若き自分

    実績がなくても行動が大切

  • 写真

    T JAPANクリュッグの新しい愉しみ

    6代目当主オリヴィエに聞く

  • 写真

    GLOBE+検査は万能ではありません

    連載「英国のお医者さん」

  • 写真

    sippo野生化した猫も元飼い猫

    都内で「森ネコ」の飼い主探し

  • 働き方・就活

  • 転職情報 朝日求人ウェブ