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無風の街…におい、日差し、けだるい空気@モガディシオ

写真:ソマリア・モガディシオのバカラ市場にて=10月30日、中野智明氏撮影拡大ソマリア・モガディシオのバカラ市場にて=10月30日、中野智明氏撮影

 「風に吹かれて」って、全然、風が吹いていないじゃないか。そう言われそうなので、街角の様子を書いておく。といっても、実際に風はほとんど吹かない。夜中に連日、激しい雨が降るけれど、日中、水分は生きているものの肌を伝うのみだ。風でも吹けば、少しは違うのに。

 モガディシオの街中に移動して4日目になるが、ひと目でソマリア人ではないとわかる人をこれまで一人も見ていない。モガディシオは比較的安定を取り戻しているものの、まだ外国人や国際援助団体が活発に活動するところまでいっていない。

 街を歩くと、「トゥルキ」「トゥルキ」と声がかかる。この街にもっとも貢献しているのはトルコの援助団体なので、外国人を見るとまず「トゥルキ」とくるようだ。

 道ばたで営業する喫茶店に立ち寄る。喫茶店といってもタープのように日をさえぎる布で頭上を覆っただけで、プラスチックの椅子を好き勝手に並べて一杯飲む。コップを洗うおけの水は茶色く濁ってあまり大丈夫そうに見えないけれど、まあ仕方ない。

 ものすごく甘いカプチーノをすする。新聞や雑誌を売りに人が来る。体重計を持った子どもがやってくる。お金をとって、体重を量るのだ。「あれ、昔ケニアにもありましたよ」と中野智明さんが言う。中年というにはまだ若い男たちが何人か量り、お前もどうだと手招きする。いや、結構ですと下腹に手をやる。

 ソマリア人の楽しみの一つに「ミラ」がある。覚醒作用のある草で、ケニアでは「カーット」と呼ばれる。内戦中に定期旅客便が止まっていた時も、このミラを運ぶ軽飛行機だけは毎日、飛んでいた。

 くちゃくちゃやると、夜寝なくてもよくなるそうで、そういえば朝、赤い目をした男たちに出くわすことがある。

 ミラ専門の市場があるというので、行ってみた。まず入り口に軍服を着て小銃を持った警備員が7、8人。奥に進むとさらに小銃を持った連中がいて、なにやらここから先は入れないと言っている。

 入れろ、入れないとしばらくやってさらに進むと、サッカー場2面ほどの大きさの広場に出た。真ん中にビーチパラソルが50〜60ほど並べられ、その下でミラの取引が行われていた。

 ちょうど、ミラを載せた飛行機からの荷が到着したところのようだ。買い物のレジ袋のような黄色い袋に小分けして売っている。だが、カメラを持って近づこうとすると、銃を持った男たちがなにやら文句をまくしたてる。商売している人たちも迷惑顔で「あっちに行け」と手を払うしぐさをする。

 イスラム武装勢力のシャバブは、ミラを禁止していた。写真が出回って、その残党に見られると、何をされるかわからない、と警戒しているらしいのだ。仕方なく、早々に引き揚げた。

 一番の繁華街のバカラ市場に行ってみた。小さな商店や露店がひしめいている。その一角にたたずみ、ふと既視感を覚えた。そう、この場所に確かに立ったことがある。

 米同時テロ後の2001年の12月、米軍がアフガニスタンに次いでソマリアを攻撃するのではないかと言われていた。そのうわさにおびえる街を取材した。

 その時、多くの人に取り囲まれた。わざわざ取材に来るということは、やはり米軍が攻めてくるからだろう。本当のことを教えてくれ、と詰め寄られた。当時は攻撃の開始の日時までうわさで広まっていたが、もちろん、米軍がやってくることはなかった。

 立っていたところにはかつて、市内一のビルがあった。「アルバラカット」という金融機関だった。内戦下のソマリアの人たちを支えたのは、海外に脱出した親類からの送金だった。その海外送金を「アルバラカット」は担っていた。

 しかし、米政府がアルカイダと関係しているとしてアルバラカットの海外資産を凍結したのだった。かつてのビルのそばには、別の近代的なビルが立っていた。ホルムートという携帯電話の会社だった。聞けば、金融の道を閉ざされたアルバラカットが業態を変え、ホルムートになったのだという。ソマリアの携帯電話の伸び率は世界でもトップクラスだという。

 舗装されていない緩やかな坂道を車が行き、トラックが行き、ロバ車が行く。その隙間を縫うように、人が行き交う。丸い盆にカプチーノを入れたグラスをたくさんのっけて、若い男が通り過ぎる。

 露店の多くは小さな拡声機を備え、そのうちいくつかは宣伝のテープを流している。繰り返されるその音が、なぜかチャルメラのように聞こえる。

 肉を焼くにおいと、熟し過ぎた果物のにおいをほこりが包み、そこに強烈な日差しと湿気が降り注いで、けだるい空気がよどんでいる。

     ◇

■10年前に書いた記事から

 10年前に、ミラについてこんな記事を書きました。 

 貧国への定期便(特派員メモ・バイドア)

 滑走路に胴体着陸した飛行機を避けて、バイドアの小さな空港に着陸した。3日前に事故を起こしたという。ケニアから、覚醒作用のある木の若枝「カーット」を運んできた双発プロペラ機だった。

 ソマリア南部とケニアをつなぐ定期旅客便はない。11年に及ぶ内戦が、隣国との人の行き来を遮断している。それでも、カーット便は毎日両国を往復する。止まったのは、ケニアが治安悪化を理由に国境を閉鎖した時ぐらいだ。ケニアの生産者とソマリアの消費者が悲鳴を上げた。

 葉と茎をクチャクチャやると、渋みとほのかな甘みが口中に広がる。かみ続けると、興奮して眠気が飛ぶらしい。精力剤のような効果もあるという。国によっては、禁止薬物に指定している。

 モガディシオには、カーット屋台が並び、夕暮れになると女性店主たちが荷の到着を待ちうける。男は自分でかんでしまうので、売り手は女が多いのだという。片手いっぱいの束が約4ドル。ソマリアでは結構高い買い物だ。

 貧しい国に、毎日届く定期便。余計なお世話かもしれないが、酒代わりの、人々の軽い楽しみ程度に収まっているならいいのだけど。崩壊寸前の国の、骨の髄までむしばまれようとしていなければ、いいのだけど。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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