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11月21日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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200キロの旅路 「当たり前」の日常を願う @ボル

写真:黒っぽい牛のふんの向こうのナイルの孤舟=11日、江木慎吾撮影拡大黒っぽい牛のふんの向こうのナイルの孤舟=11日、江木慎吾撮影

写真:牛に導かれボル参り=11日、ボル、江木慎吾撮影拡大牛に導かれボル参り=11日、ボル、江木慎吾撮影

 11日はジュバからジョングレイ州のボルに向かった。丈夫な車がなかなか手に入らず、出発が昼になってしまった。悪路で、ボルの宿泊先も確保していないので、できるだけ早く着きたい。ほとんどが舗装されていない200キロの道のりを、車でひた走った。といっても、こちらはただ助手席に座っていただけだ。

 ジュバから出てまもなく、低木のあいだの一本道になり、家はなくなる。小さな川をいくつか越える。ひらけたところに出ると、集落になる。丸い土壁にわらぶき屋根の家が立ち並ぶ。ふいたばかりの屋根は日を受けて金色に輝いている。時をへた屋根は、これも灰色の壁と同化して味わい深い。金閣、銀閣の趣と言ったら、大げさだけど。

 集落が近づくと道が少しよくなり、集落が去るとまたでこぼこに戻る。茶色だった道が、次第に白くなっていく。進行方向の左側を、ずっとナイルが流れているはずだが、時々ちらちらと流れが見えるだけだ。

 あちらこちらに検問があって、兵士がいる。一度だけ、荷物の中身まであけさせられた。

 途中、バディンギロ国立公園に入る。時折、サルの群れが道路の近くまで出てくる。一頭だけ、ぽってりしたニホンジカのような動物を見かけたが、何だったのかわからない。

 ジョングレイ州に入るあたりから、沿道に兵士の姿が目立って増えた。この州には、部族同士の対立がまだ残っている。街道沿いの強盗も過去に頻発した。このため、政府軍の兵士が配置されているらしい。

 ディンカ族の集落が目立つようになる。いままで見てきた家とつくりは似ているけれど、屋根のふきかたが段々になっていて、てっぺんに飾りをつけている家が多い。アメリカ国旗をかざしているものもある。

 ナイルの流れが車道のすぐそばまできたところにあった集落で一度だけ止まった。降りて川の方向を写真で撮っていると、文句をつけに初老の男がやってきた。やっぱり。なんで写真を撮っているのだ、それでもうけるつもりだろう、われわれには何の見返りもない。そうまくしたてていたと、通訳兼コーディネーター兼運転手は後で笑って話した。

 燃料に使うため、牛のふんが円形に並べて干してある。その向こうに見えるナイルの輝きの中に、手こぎの舟がすーっと流れてゆく。

 何台かトラックを追い越したり、すれ違ったりしたけれど、幹線道路の割に交通量はほとんどないに等しい。この道路では大量の物資を運ぶことはためらわれるだろう。途中、立ち往生したまま放棄されたトラック、バス、車を何台も見た。日本車だと、少し残念な気分になる。

 性能のいい車と走りやすい道路があることが、経済活動にとっていかに重要かという、わかりきったことが、腰と尻の痛みを通して伝わってくる。それだけではないことを、後に州知事のインタビューで繰り返し聞かされることになる。

 遠く離れた場所を訪れると、ふだん当たり前にしていることが、当たり前ではなくなる。当たり前だと思っていたことが、当たり前ではなかったということは、遠く離れるまでもなく、3・11で知らされたことでもある。

 家にあれば笥(け)に盛る飯(いい)を草枕旅にしあれば椎(しい)の葉に盛る

 短歌も俳句もたしなまないのでおこがましいのだけれど、有馬皇子の歌を思い浮かべた。謀反のかどで死出の旅にある有馬皇子の心情と全く比べるべくもないのだが、笥に盛ってご飯を食べる当たり前の日常の崩れる哀切が、椎の葉に盛るというただそれだけの言葉ににじんでいる。そう浪人時代に教わって、ああ、なるほどと思った。

 と、まあ、とんだりはねたりするうちに、小さな石油基地が見えてきて、ボルに近づく。ボルのあるジョングレイ州は、石油や金、国立公園の動物たち、ナイルの水、家畜など豊富な資源を抱えている。

 牛の群れに先導され、出発から5時間ほどでボルに入った。ホテルはどこも満室に近い。なぜだろう。仕方なく、コーディネーターの彼とは別々のホテルに泊まることにした。電気は夜の5時間ほどしかこないけど、こないよりはるかにましだ。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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