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新しい国で自由を問う @南スーダン・デール

写真:クオル・デング・アゴックさん。たぶん、周りの子どもはみな親類=12日、デール、江木慎吾撮影拡大クオル・デング・アゴックさん。たぶん、周りの子どもはみな親類=12日、デール、江木慎吾撮影

写真:クオル・デング・アゴックさん。周りはみんな親類=12日、デール、江木慎吾撮影拡大クオル・デング・アゴックさん。周りはみんな親類=12日、デール、江木慎吾撮影

写真:リベッカ・アビエイ・アンゴックさん(中央)=12日、マコルチュエイ、江木慎吾撮影拡大リベッカ・アビエイ・アンゴックさん(中央)=12日、マコルチュエイ、江木慎吾撮影

写真:ジョディ・ジャングレイ・ボヨリスさん=13日、ボル、江木慎吾撮影拡大ジョディ・ジャングレイ・ボヨリスさん=13日、ボル、江木慎吾撮影

 ジョングレイ州まで来て、さてどうする。

 国という新しい形ができたけれど、この州では古くからの対立がなお続いている。ここに住んでいる人たちは、新しい国ができてよかったと喜んでいるのだろうか。生活は変わったのか。国というものを、一体どのように感じているのか――そんなことを聞いてみよう。

 できの悪い新聞記者が付け焼き刃で考えそうなことだ。自分の身に置き換えれば、わかりそうなのに。突然、家に人がやってきて「あなたにとって、国とは何ですか」とか「いま、幸せだと感じますか」なんて聞かれたら、「いったいなんです? 何かの勧誘ですか」と思うのが関の山だ。

 でも、修正がきかないのも、できの悪い記者のならいだ。

 聞き手の資質にもかかわらず、この一帯に住むディンカの人たちは温かく迎えてくれた。

 ボルから小一時間、北へ走ったデール村は、道路の左右にわらぶき屋根と土壁の小屋が三つ四つずつまとまり、全部で100ほどある。家の周囲にはソルガム(モロコシ)が植えられ、牛やヤギが草をはむ。半農半牧畜の暮らしだ。

 クオル・デング・アゴックさんは自分が50歳ぐらいだというが、もう少し上に見える。話を聞きたいというと、木陰にプラスチックの椅子を並べてくれた。この椅子、ソマリアでも南スーダンでも至る所にある。

 敷地にはわらぶきの家が四つある。一番大きな円形の家はクオルさん本人と牛の居場所だという。牛はいま2頭いるだけだが、以前は50頭いた。1年半ほど前に、ムルレ族が襲ってきて奪っていってしまった。そう話す。

 ――どうして奪い返さないのですか?

 「私たちは新しい国づくりのため、武装解除に応じた。だが、武器を離さなかったムルレがいる。盗難の届けは出しているが、何の音沙汰もない。独立のために戦った部族同士が争うのはよくないが、いまは食料もないからサバイバルゲームのようになっている」

 独立してもあまり状況が好転しているように聞こえない。そこで、考えてきた質問をしてみた。

 ――家族とは。

 「子どもができ、その子どもに子どもができ、私は幸せになった。それはとても大事なことだ」

 ――国家とは。

 「自由に住み、石の家をつくり、タイルを敷いて、見栄えをよくして、そんな風に何でもできる。私も石の家をつくりたいが、今はムルレに攻撃されるかもしれないのでつくらない」

 抑圧されていた思いが、国と自由を結びつけるのだろう。それにしても、またムルレの話になった。クオルさんの家の屋根のてっぺんに木の十字架が飾られていた。それを眺めながら聞いてみた。あなたは夜寝るとき、明日はきょうよりいい日であるに違いないと思って眠りますか。それとも、明日はきょうよりいい日でありますようにと祈って眠りますか。

 すると、次のように答えてくれた。

 「もちろん、寝るときは必ず祈ります。戦争中は、私たちの指導者に力を与えて独立させてくださいと神に祈りました。今は、平和をください、ムルレの人たちが問題をおこさないで済むようにしてください、と祈ります」

 デールからさらに北に進んだマコルチュエイ村にさしかかった。道から少し離れた木陰に座っていたリベッカ・アビエイ・アンゴックさんにお願いして話を聞く。また、プラスチックの椅子に座って話し始めると、次から次へ人がやってきて、周りを取り囲む。後ろの方でどこかのおばさんがひどいせきをしていて、始終、たんをはいている。

 リベッカさんは9人家族。夫とは死別した。70歳になっていないと思うので60歳ぐらいと言うが、孫に娘がいるとも言っていたし、もう少しお年を召してみえる。

 独立後1年、生活は変わりましたか。そう聞くと、「何も変化がありません。前と同じくらい治安は悪い。食料も不足しています」。それにしても、周りにやけに子どもが多い。平日の昼前なのに。ここには学校がないのですかと尋ねると、「学校はあるのだけど、少し離れていて危険なので、子どもは通わせていない」と言う。

 ――学校に通うのが危険というのは?

 「つい昨日もムルレ族に襲われそうになった人がいます。ムルレの連中は家畜を奪い、子どもを拉致するのです。少子の民族なので私たちの子どもを奪っていくのです」

 また、ムルレだ。州知事の言うように治安はもう大丈夫、とは感じていないようだ。

 ――ところで、あなたにとって幸せとは。

 「現代的な生活がいい。きれいな服があって、薬がたくさんある暮らしが幸せな暮らし」

 ――家族とは。

 「私が子どもを育てれば、子どもが後に私を支えてくれる。それが家族」

 ――国とは。

 「自由。ここで眠ることをだれにもじゃまされない。それさえあれば、ほかのことが何でもできる」

 質問すると、周辺から横やりが色々入る。どうやら、どうしてそんな質問をするのかと言っているらしい。そこで、変な質問だと思いますかと聞いてみた。

 「おかしいとは思いません。きっと何かよい結果をもたらしてくれるのだろうと思っています」

    ◇

 ちょうどボルで州議会が開かれていた。東部ピーボル郡から選出され、ムルレ族の立場を代弁するジョディ・ジャングレイ・ボヨリス元議長を開会直前に捕まえて聞いてみた。

 ――ボルの周辺でもムルレ族が家畜を奪ったり子どもを拉致したりしていると住民が言っていますが。

 「以前にムルレが家畜を略奪していたことは、確かに事実です。しかし、今年の5月に当事者の間でそういうことをなくす取り決めができてから、襲撃や略奪はなくなった。いま、もし問題を起こしている集団があるとすれば、それはヤオヤオ派に違いありません」 本会議が始まり、元議長はそちらに急ぎ、聞けたのはそれだけだった。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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