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地下にもぐった人身売買@コートジボワール・アビジャン

写真:バンバ・クンバさん。「卒業」した子どもたちの写真が壁に=写真はいずれも7日、アビジャンで江木慎吾撮影拡大バンバ・クンバさん。「卒業」した子どもたちの写真が壁に=写真はいずれも7日、アビジャンで江木慎吾撮影

写真:建物全体が市場。市場の市場と呼ばれる拡大建物全体が市場。市場の市場と呼ばれる

写真:この階段に家出少女たちが寝泊まりしていた拡大この階段に家出少女たちが寝泊まりしていた

 ナイロビから5時間半、赤道を北へまたぎ、グリニッジ子午線を西へ越え、コートジボワールの中心都市アビジャンに6日、降り立った。乾期に入っているはずなのに、蒸し蒸しする。

 まずは、シエラレオネとリベリアのビザをとらないと。間抜けなことに、ここに来てから思い出した。12年前はアビジャンの英国大使館がシエラレオネのビザ発行を代行していて、そこでとったのだった。

 その英国大使館は機能をガーナに一時期移転し、こちらに戻す過程にあるものの、ビザ発行業務は月初めの数日しか行っていないという。今月はすでに過ぎてしまっている。

 仕方ない。シエラレオネのビザは、リベリアでとることにして、そのリベリアのビザをとらなくては。街中にある古いビルの2階で申請した。3営業日で出すというけれど、土日がはさまってしまうので何とか1日でと頼むと、翌日に出してくれることになった。

 問題は、コートジボワールからリベリアへの移動だ。隣国なのに飛行機の直行便が週に1便しかない。その便が金曜日で、ビザが出るのがその金曜日。間に合わない。1週間以上をコートジボワールで過ごしたら、ほかのところに行く余裕がなくなる。

 街の旅行会社に駆け込んで、直行でなくても行ける方法を探してもらうと、トーゴ経由で火曜日に飛行機があるという。6時間かかるというから、ナイロビへ飛ぶより長時間だ。予約はしたが、すでにオーバーブッキング状態だった。

 そう、西アフリカの移動はこのオーバーブッキングとの闘いだった。乗れなくてもなかなか払い戻してもくれない。何度かの貸しを残したままなくなってしまった航空会社もある。

 ナイロビで土曜日まで待てば、リベリアのモンロビアまで飛ぶ便があったのに。前の回に「こういうのを愚かな選択という」と書いたけれど、まさにその通りになった。

 ドタバタを続けていると実は楽しんでいるのではないかと思われるかもしれない。全くそういうことはない。こうなると、取材どころではなくなる。

 そう、ドタバタを書くだけではなく、取材をしなければ。気になっていることがあった。11年前にここに来たとき、政情不安の芽とともに、コートジボワールが子ども労働や子ども取引の拠点になっていることを取材した。

 子どもが奴隷のように取引され、カカオ農場で働かされたり、家の掃除などをほとんど無給でさせられたり、売春に追い込まれたり、ということを記事に書いた。その後、どうなったのか。

 騒いでいる時にはすぐ取り上げるが、忘れるのも早い、というマスコミ批判は耳に痛い。アフリカを担当していると、50近い国を1人で見なくてはならず、なおさら十分に追跡はできない。それも2年半で帰国した後は顧みることもあまりなかった。

 11年前、この問題に取り組んでいたキリスト教系の人権保護団体BICEがまだ現地で活動してたので、そこに連絡してみた。事務所で聞いたが、いまはストリートチルドレンや、主に家庭の暴力に悩む子どもたちを支援する取り組みをしているという。そんな子どもたちが一時身を寄せるセンターがあるというので行ってみた。

 「救いのセンター」には性的に、暴力的に、経済的に虐待された子どもたちがいまは30人ほど身を寄せる。傷ついた子どもたちに希望を与え、親と一緒に住めるようにするのがセンターの役割だという。

 このプログラムの責任者、バンバ・クンバさんによれば、時にはガーナやトーゴから連れてこられて街中に放置された子どもも保護するという。

 11年前には、アビジャン市内で子どもや女性を取引する場所があり、「クンタ市場」と暗に呼ばれていた。「クンタ」は、アメリカの黒人が自分の先祖をたどる小説をもとにしたテレビシリーズ「ルーツ」の主人公の名前からとったと当時聞いた。

 バンバさんによると、主に売春の拠点となっていたその場所は、今は市の取り組みによって排除された。ただ、完全になくなったわけではなく、表でやっていた事務所が地下にもぐったのだと言っていた。

 クンタ市場と呼ばれていた一角に行ってみた。昔もすごい人の波だったが、今は歩くのも苦労するにぎわいだ。大きな駐車場のようなつくりの、コンクリート3階建ての建物ができていた。1階部分が生鮮市場、薄暗い2、3階には小さな店がびっしりと並ぶ不思議な空間だった。

 「市場の市場」といった感じの名前がついている。以前は、この2階部分が売春の巣窟になっていた。市が2階と3階にも店を誘導して売春事務所を立ち退かせたのだとバンバさんは言っていた。

 ここを拠点にしている建築作業員バニャレ・エステファンさんが言うには、以前は家出少女たちがここを根城にして、夜になると売春に繰り出していた。朝になると階段で固まって寝ていたが、やはり数年前に市が主導して閉め出したのだと彼も話した。

 その階段付近は、1階の魚や肉を売るなまぐさい市場のにおいが立ちこめ、臓物を洗う女性の奥の方に屋台のような店が見える。若い男たちが寝転がったり、壁にもたれかかったり、何ともいえない倦怠感(けんたいかん)が漂っていた。

 建物の外に出ると、魚や肉を焼くにおい、食べ物の腐ったにおいに包まれる。その中を歩いていると、ほかのにおいを消し去るさわやかさを放って、オレンジの鮮烈な香りが突き刺さる。

     ◇

■11年前に書いた記事から

〈国境越え、年20万人 売買される西アフリカの子ら〉

 西アフリカで、子どもが国境を越えて取引されている。貧しい場所から、少しでも豊かな場所へ。多くの子どもが地域の「先進国」コートジボワールにたどり着く。待っているのは、行商や家事、農場労働、売春などに明け暮れる「奴隷」のような生活だ。

 13歳の女の子はアビジャンで魚の行商をしていた。昨年末、親せきの女性にガーナから連れてこられた。給料はもらえず、学校にも行かせてもらえなかった。

 寝泊まりしている女性の家で、その夫にレイプされた。見かねた近所の人が、アビジャンのガーナ人長老宅へ連れていった。女の子は消え入るような声で言った。「早くガーナに帰りたい」

■養育できぬ親

 女の子たちは親せきに仲立ちされるケースが多い。給料は親せきに支払われ、親せきは女の子が成人する時の儀式費用を立て替えるのが習わし。費用は子どもの3カ月分の労働に見合う程度だが、養育費用すらまかなえない親が子どもを手放すケースが多いという。

 コートジボワール第2の都市ブアケは、カカオ農場で働かされる子どもの取引の中継地だ。4月、ブルキナファソ人11人が逮捕され、一緒にいた25人の子どもが保護された。地元のマルグレット検事によると、25人の中には女の子が数人含まれていた。「男たちは自分の妻だと主張している。新たな手口だ」

■家政婦3万人

 アビジャンの人権保護団体「BICE」によると、アビジャンだけで約3万人の子どもが家政婦として働いている。うち約1割が外国から来た子どもたちだ。

 市内にはあっせん業者が事務所を構える「クンタ市場」がある。事務所の外には20歳前後の若い女性が並んでいた。BICEなどは、14歳未満の子どもをあっせんしないよう、業者に働きかけている。多くの業者に声をかけたが、取材は拒否された。

 ユニセフによると、毎年20万人以上の子どもが、西アフリカで国境を越え取引されている。それ以上に多いのが、国内で取引される子どもだ。

 アビジャンの夜。人混みの中に、あどけない女の子が何人もたたずんでいた。身長140センチぐらいの子に尋ねると、地方から来た15歳だという。短い毛を整髪料でなでつけ、ヒョウ柄のズボンをはいていた。

 説明のないまま、親からアビジャンの姉の家に預けられた。その姉が行方不明になり、12歳で売春を始めた。抜け出したいが、ほかに稼ぐ方法を知らない。「病気が怖いので時々、注射を打っている」

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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