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09月26日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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ダイヤめぐる謎と泥沼、掘りきれず @セムベフン17

写真:モハメッド・コワさん=いずれも21日、セムベフン17、江木慎吾撮影拡大モハメッド・コワさん=いずれも21日、セムベフン17、江木慎吾撮影

写真:ダイヤの村は質素だった拡大ダイヤの村は質素だった

写真:採掘場。稲が植えられている拡大採掘場。稲が植えられている

 どこかの呪術師に聞くまでもなく、呪いを受けていると言うだろう。21日、ボーの町で取材している間に車のファンベルトがまた切れて、運転手は修理しに行ってしまった。

 ボーに来たのは、ここがダイヤモンドの露天掘りの地域だからだ。シエラレオネの内戦では、ダイヤが武器を手に入れるために使われた。愛を語るべきダイヤが、戦火に油を注いでいるとして「紛争ダイヤ」「血のダイヤ」と言われた。その取材に11年前、訪れた。

 いまも露天掘りをしている場所に行ってみようと思っていた。乗ってきた車が使えないと言うと、案内してくれる人権保護団体の男性が、バイクタクシーを止めた。ここではオカダという日本人には親しみのある名前で呼ぶ。「大丈夫か」という表情でこちらを見る。

 こちとら、南スーダンのボダボダで鍛えた身だ。大げさだけど。「遠いのか」と尋ねると、「近い。ほんの17マイルだ」と言うので「じゃあ、行こう」となった。

 てっきり2台で行くのかと思ったら、1台に運転手を含めて3人でまたがっていくという。しかも真ん中に座れと、人権保護団体の若者がうながす。真ん中が一番きついと相場は決まっている。渋々またがってから、「待てよ。17マイルというと30キロあるぞ」とようやく気づいた。

 フリータウンではこのバイクタクシーが砂糖にむらがる軍隊アリのように通りを席巻している。ヘルメットをかぶっているのがせめてもの救いだが、ないと怖くて乗れないだろう。

 ここボーではヘルメットをかぶっている人は、まずいない。

 3人乗りはバイクタクシーではよくあるので、見かけても違和感はないのだが、いざ自分が男2人に挟まれて乗るとなると。何とも気恥ずかしい。後ろから押され、前からは押し返され、しかも接点が腰のあたりというのはどうもよろしくない。昨夜はあまり寝ていなくて、朝も慌ただしい出発だったので、微妙な振動がおなかを刺激するのもよろしくない。

 それでも風を受けると、まあまあ気持ちがいい。止まっているとかなり暑いので、さわやかな風とはいかないけれど。車とすれ違うたびに細かい砂粒が目に飛び込んでくるのには参った。ボダボダの時と同様、老眼鏡をかけなかったことを後悔する。

 真ん中は脚を大きく開かないと邪魔になるし、運転手に抱きつくわけにもいかないので、手の置き場がない。両のひざに手を置いて、床机に腰を据える戦国武将のような格好になった。内ももがきつい。運動を怠っているつけが回る。でも、風に吹かれるのではなく、向かって進むのは悪くない。ボーから17マイル、その名もセムベフン17という村に30分ほどで着いた。

 一帯の人口は4千ほどだと村長のモハメッド・コワさん(65)は言う。多くの人がダイヤモンドを採って暮らしている。最近はダイヤの収入の一部を地域に還元する仕組みがあるというが、家のたたずまいからみると、さほど潤っているようには見えない。

 どれだけもうかったことがあるかとか、何カラットが採れたことがあるとか、具体的な話はなかなか教えてくれない、でも、ダイヤの利益は採掘者と、土地の採掘権者と、資金提供者の3者で均等に分けるのが仕組みなのだと教えてくれた。

 ダイヤ採掘は1955年以降、続いてきた。昔は知識と経験の不足につけ込まれ、白人の支配階級に言われるままの値で売っていた。そのころは生活費はいまにくらべて格段に低かったので、それでも楽しく暮らしていたとコワさんはいう。

 いまはみなダイヤの価値を見抜けるようになった。ただ皮肉なことに、地表に近い場所ではなかなか採れなくなった。コワさん自身、昔はバイク5台と冷蔵庫を買い、家を建て替えたことがあるが、生活が苦しくなってバイクも冷蔵庫も手放したという。

 深く掘れば必ずダイヤがあるとコワさんは言うのだが、深く掘るには水をくみ出すポンプや、いいショベルが必要だ。それを買う資金がない。あまり採れないので資金を提供してくれる人もなくなり、負の連鎖から抜け出せない。

 採掘場は、村のすぐそば、ヤシの林を抜けたところにあった。沼地にしか見えない。稲が植えてあって、採掘と農業が1カ所でできるようになっている。きょうはイスラムの休日の金曜日で、だれも作業していない。女性が3人、上半身裸で洗濯をしていた。さすがにそちらにはカメラを向けられず、無人の沼を写すしかなかった。

 それにしても、少しはダイヤの景気のいい話も聞きたい。最近、一番大きなダイヤはいつとれましたか。一気に金持ちになった人はいないのですか。さもしく聞いたが、「誰かが大きなダイヤをとったとしても、それがその年に話題になることはないね。たいてい、次の年以降に、みんなが知るところになるんだよ」。答えになっていないが、はははと笑ってしまった。負けだ、これは。

 ついでと言っては申し訳ないが、コワさんに元戦闘員の受け入れについても聞いてみた。最初は抵抗もあったが、政府やNGOから復興について学び、受け入れるしか道はないとみんなに納得してもらったと話した。全部で150人以上がこの地域に受け入れられた。村で所帯をもった元戦闘員もいるという。

 村ごと皆殺しにする、手足を切り落とす、子どもや女性を拉致して戦闘員に仕立てるなど、シエラレオネは残虐な内戦を経験した。それを許し、受け入れることは簡単ではないはずだ。個人の許し、受け入れと、社会としての受け入れは少し違うのかもしれない。世界の最貧国に名を連ね、国全体で受け入れて前に進むしかないということもあるのかもしれない。

 もう少し別の角度からも、戦争から立ち直るということを見てみたいと思った。

     ◇

■紛争ダイヤについて、書いた記事です。

《紛争ダイヤ、暗い輝き 排除の対策は手探り(アフリカはいま)―世界発2001》

 20世紀終盤、アフリカで新種のダイヤモンドが「発見」された。戦火に油を注ぎ、紛争を維持するために使われることから「紛争ダイヤ」と呼ばれる。血塗られたダイヤを市場から排除する有効な手だては、まだ確立途上にある。

●国が鑑定・認証

 首都フリータウンにある銀行ビルの3階に、シエラレオネ政府のダイヤモンド認証事務所がある。この国で採れた原石は、8畳ほどの事務室で鑑定される。鑑定価格の3%を輸出税として払い、正規のシエラレオネ産として輸出が認められる。

 認証制度は昨年導入された。その目的は、反政府勢力・革命統一戦線(RUF)の支配下にあるダイヤが、シエラレオネ産として市場に出回らないようにすることだ。RUFは東部のダイヤ地帯を支配し、ダイヤの密輸で10年に及ぶ政府との戦闘を維持してきたとされる。

 政府鑑定人ローレンス・ヌドラマイヤーズさんは「3カラット(0.6グラム)以上の石なら、どこから来たかわかる」という。ダイヤは採れた場所で、大きさやひび、光沢に違いが出る。

 鑑定部屋の隣室のコンピューターに、緑がかった4カラットの原石の資料が残されていた。RUFの支配地から持ち込まれたと確認された、唯一の原石である。持ち込んだ人物は「武装勢力の土地のものとは知らなかった」と話したという。政府の調査を経て、輸出は認められた。

 中部のボーは、政府の支配下にあるダイヤの町だ。町から約25キロ離れると、道路わきが遺跡の発掘現場のようになっていた。若者が3人、2メートルほどの穴の底からスコップで泥をすくっていた。

 シエラレオネでは、大規模な機械を用いなくてもダイヤは露天掘りで採れてきた。スコップとふるい、砂を水にくぐらせる箱があれば、ダイヤ掘りはできる。

 政府はダイヤ業者の認可制度も導入した。だが、28歳の仲買人は「非現実的な制度だ」と言う。仲買人は登録業者からしかダイヤを買ってはいけないが、実際に掘る人たちは貧しく、登録料など払えない。多くのダイヤが、正規ルートから外れて密輸される。

●航空機を調査

 RUFは、リベリアの手を借りてダイヤを密輸しているとされる。リベリアはブルキナファソを経由地に使い、ダイヤと引き換えにRUFに武器を供与しているとして、国連安全保障理事会から要人の国外旅行の禁止を含む制裁を受けている。

 シエラレオネのダイヤに関して、安保理の専門家パネルが昨年まとめた報告は、ダイヤの密輸に航空機が使われることに着目し、リベリアの関与を指摘した。報告書作成にかかわったという人物に、シエラレオネで会った。「航空機の移動からダイヤの経路をたどるため、一帯を飛行する航空機の管制記録をしらみつぶしに調べた。リベリアのテーラー大統領の側近から情報も得た」

 専門家パネルは、リベリア登録の航空機で、アラブ首長国連邦、コンゴ(共和国と旧ザイール)、ガボン、アンゴラ、ルワンダ、ケニアの空港を基地にするすべての機の飛行を禁止すべきだと提言。また、紛争ダイヤが市場に紛れ込まないよう、政府の認証制度を西アフリカ各国に広げるべきだとしている。

●内戦とダイヤ 武器購入の原資に、利権争いで衝突も

 アフリカの内戦ではダイヤが常に大きな影を落としてきた。1975年の独立以降、内戦の続く南部アフリカのアンゴラでは、反政府勢力・アンゴラ全面独立民族同盟(UNITA)がダイヤを武器に替えていると指摘されてきた。

 国連は98年、UNITAにダイヤ禁輸の制裁を科した。昨年3月の国連報告は、UNITAが武器輸入の便宜を求めて、アフリカの複数の国家首脳にダイヤ原石を贈ったと指摘した。UNITAがブルガリアやルーマニアから武器を買っているとの国連報告も、12月に出ている。

 ウガンダ、ルワンダは、UNITAのダイヤ密輸に関与しているといわれた。98年に始まったコンゴ(旧ザイール)紛争でも、両国はコンゴのダイヤを収奪していると指摘されている。

 国連は今年4月、コンゴの資源収奪に関する報告の中で、ダイヤ産出国ではないウガンダやルワンダの原石輸出が、紛争中に急激に伸びたと指摘した。コンゴの反政府勢力の支配地で昨年、ウガンダ軍とルワンダ軍が衝突したのも、ダイヤの利権争いが原因といわれる。

●密輸の現状 第三国で「原産地証明」

 ダイヤ産出国38カ国は昨年来、紛争ダイヤを市場から締め出す方策の確立に取り組んできた。ダイヤ製品の最大の輸入国である米国でも、上下院の議員らがこうした動きを支援する法を制定しようとしている。

 紛争ダイヤは市場の4%程度といわれるが、これらが市場に紛れ込むのを助けているのが、その10倍ともいわれる密輸ダイヤの存在だ。

 シエラレオネ政府が最近、「RUFダイヤ」の抜け道になっているとにらんでいるのが、西アフリカのガンビアだ。この国は、近年、急に「ダイヤ産出国」になった。紛争ダイヤがいったん、第三国に密輸され、その国の原産地証明がつけば、「きれいなダイヤ」として市場に出回ってしまう。

 抜け道をふさぐため、国際NGOの「グローバルウイットネス」などは、ダイヤのデータベースづくりを提唱している。原産地ごとに科学的データを蓄積し、輸入国の税関がデータベースを利用し、出どころを判断できるようにする方法だ。しかし、データベースづくりをめぐっては、各国やダイヤ産業の意思が統一できていないとされる。

●解決への提案

 資源収奪と人権抑圧を監視する国際非政府組織(NGO)「グローバルウイットネス」は昨年、紛争ダイヤの報告をまとめた。ダイヤ産出国から小売業者までを視野に入れた提言をしている。南アフリカ政府などの主導で国際的なダイヤ認証制度の導入をめざす「キンバリープロセス」の中で、いくつかは実現している。以下はその抜粋。

▼産出国 ダイヤ採掘に認可制を導入、原石は公的なダイヤ管理事務所を通し売却、輸出する。

▼貿易・輸入国 輸入書類に原産国が明記されるよう輸出入規則を整える。包装物の中身を点検する。産出国ごとのダイヤのデータベースを設け、各国の税関がアクセスできるようにする。

▼ダイヤ産業 改革委員会をつくり、自主規制づくりに取り組む。規制や罰則の監督を委任する国際ダイヤ委員会を産出国やNGOと協調して設立する。取引業者の登録制を導入する。

▼仲買商 ダイヤの取引先についての情報を、国際ダイヤ委員会に提供できるようにする。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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