メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

12月17日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

新着記事一覧へ

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

切られた両手、「許すが忘れない」日常 @フリータウン

写真:メムナツ・プラットさん=いずれも22日、フリータウン、江木慎吾撮影拡大メムナツ・プラットさん=いずれも22日、フリータウン、江木慎吾撮影

写真:オカダの混乱。ご覧の通り、どうやって行き交うのか拡大オカダの混乱。ご覧の通り、どうやって行き交うのか

写真:アラハジ・ジュス・ジャルカさん拡大アラハジ・ジュス・ジャルカさん

 フリータウン最後の22日に、戦争の傷から立ち直ることについてもう少し聞いてみたいと思った。実はこの後、さらなるドタバタが待っていたのだけれど、恥ずかしくてどう書けばいいか悩ましく、それは次回、ということにする。

 マケニやボーを訪れて元戦闘員に話を聞いたとき、心のケアを受けたと話した人は一人もいなかった。そんな彼らが、どう社会に取り込まれるのだろう。

 メムナツ・プラットさん(49)は、精神的なケアを含めて語れる平和構築の専門家だ。広島大学でたびたび講演している。

 加害側の心のケアと社会復帰の関係について尋ねると、プラットさんはうなずいて、政府や国連はとにかく武装解除を急ぎ、心のケアにまで手が回らなかったと批判する。元戦闘員に異常行動がみられたにもかかわらず、なおざりになった。このため、真の意味での社会復帰、社会の再建は進んでいないという。

 たとえば、「オカダ」と呼ばれるバイクタクシーの運転手たちだ。日本人にとってはあいきょうのある名前だが、オカダは前にも書いたように恐ろしい。ところかまわず突っ込んでくる。ののしりあいは茶飯事で、ぶつかろうものなら殴り合いのけんかが始まる。運転手の多くが、元戦闘員で、彼らの社会復帰のために大量のオカダがフリータウンに導入されたらしい。

 彼らが何かに追われるように急ぎ、乱暴に振る舞うのには理由があるとプラットさんは言う。多くは雇われ運転手で厳しいノルマを課せられる。そのノルマを達成しようと必死になる。「フリータウンの通りはジャングルなのです。デスパレート(必死)な若者たちのジャングルです」

 シエラレオネは戦争犯罪を裁く特別法廷を設けている。リベリアなどより戦後の処理が進んでいるが、正義が末端まで行き届いているとは言えない。被害弁済にも被害者救済にも手が届いていない。残虐行為にかかわった武装勢力の幹部が、いまも元戦闘員の間で影響力をもっている。

 プラットさんが町で聞き取りをしたところ、何かあればまた武器を手にする、という元戦闘員が少なくなかった。ケアを受けることのなかった荒れた心が、いつまた爆発するかわからない。「社会的に自立していない人間が、社会復帰したとは言えないでしょう」

 戦後の立ち直りがうまくいっているかどうか、国際社会は判断の根拠を選挙に置きがちだ。公正といえる選挙が、大きな混乱なく実施されれば、民主主義回復の軌道に乗ったとみる。シエラレオネの場合、先月の大統領選は大きな混乱なく実施されたというのが大方の見方だ。

 「選挙がうまくいけば、その国はうまくいっているという尺度は、65%ほど事実だと感じます。でも」とプラットさんは言う。「選挙は平和を運んではきません」。むしろ、分裂が顕在化し、深まることすらある。

 心のケアをするべき時期を逃したいま、何ができるのだろう。「平和省」を設けて、国の平和を総合的に追求するぐらいのことをしないとだめだと、プラットさんは大きな構想を語る。

 でも、できなかったことをやることですら大変なのに、より大きな構想を立ち上げることが現実的だろうか。むしろ、ダイヤモンドや金のほかに石油が見つかったいま、経済発展の波に乗って、置き去りにされたことが忘れ去られていく方が現実味を帯びるのではないか。「その可能性は大いにあります」とプラットさんは話した。

 戦争の傷痕をどうするかと色々聞いてきたけれど、一番重要な人たちが抜け落ちている。残虐行為の被害者だ。シエラレオネの戦後処理で加害者が十分にケアされないまま、形ばかりの社会復帰をしていることを見てきた。被害者のケアこそ全くされていないも同然だ、とアラハジ・ジュス・ジャルカさん(48)は言う。

 軍に13年間いた後、英国系の銀行に勤め、内戦の激化で職を失って5年ほどたった1999年1月20日のことだ。ジャルカさんはフリータウンの自宅にいて、反政府武装勢力の革命統一戦線(RUF)の襲撃を受けた。家の地下に家族とともに隠れた。RUFの戦闘員は「出てきて、我々に加われ。出てこないと皆殺しにする」と言って一軒一軒の家をしらみつぶしに回っていた。

 ジャルカさんは迷った。迷った末に出て行った。ジャルカさんの娘に向かい、武装勢力の一人が「俺の家族は政府軍にめちゃくちゃにされた。お前は俺と一緒に来い」と言った。娘は「服をとってくる」と言って家の中に戻った。ジャルカさんは娘に逃げるように言って、時間を稼ごうとした。

 銃を持つ相手ともみ合いになって、組み伏せたが、相手の仲間がかけつけて取り押さえられた。後ろ手に縛られて、マンゴーの木の下に連れて行かれた。根っこのところに18歳ほどと思われる若者が座っていた。顔の一部を布で覆っていたので、しっかりみていない。着ているTシャツに赤い文字で「CO HANDCUT」、“手切り司令官”と書かれていた。

 連れてこられたのはほかにもいた。最初の男が両手を切り落とされ、銃で撃ち殺された。2人目も同じだった。3人目がジャルカさんだった。「同じ国の兄弟じゃないか。助けてくれ」と言ったが「兄弟ならば我々とともに戦っているはずだ」と言い、草刈りに使うマシェットで腕を切られた。

 血が噴き出た。手が地面ではねた。撃たれると思ったが「弾が無駄だ。どうせ死ぬ」と言って放置された。着ていたシャツをあてがったが、血でずぶずぶになった。何とか家にたどり着き、妻が手伝って血を止めようとした。なかなか止まらなかった。病院にたどり着いて、一命は取り留めた。出血したところが腐り、さらに腕を切らなくてはならなかった。

 その後は、フリータウンにあった、手足を切り落とされた人たちのキャンプにいた。だが、政府は何もしてくれなかったと言う。だから、戦争が終わってシエラレオネの「真実と和解委員会」ができたときも、けっして協力はしまいと思っていた。証言を求められたが何度も断った。

 それでも、国際NGOなどの説得を受けて、協力するようになった。方々に出かけて、体験を話した。真実と和解委員会では、自分と同じような目にあった人たちが、加害者と向き合うところに立ち会った。記憶が戻り、涙が出た。

 いま、ジャルカさんはノルウェーのNGOが建ててくれた、戦争被害者のための住居に住む。6人の子どもを抱えて生活は苦しいという。

 戦争で重い被害を受けた人たちが暮らしていけるようにジャルカさんは運動している。シエラレオネが資源から得る収入の一部を被害者に回すこと、被害者の子どもに無料で教育を受けさせることなどを求め、政府は一部を受け入れた。だが、今に至って何も実現していないという。

 「暮らしていくことができないのに、和解も社会の再建もありません」とジャルカさんは言う。もし暮らしが安定し、加害者が心から悔い改めれば、「許します。でも、決して忘れません」と話す。マケニでも、全く同じ言葉を聞いた。だが、本当にそんなことが可能だろうか。

 「同じ言葉を、ほかの方からも聞きました。申し訳ありませんが、許すけれども忘れない、ということが理解できないのです。忘れないということは許せないということではないのでしょうか」とあえて尋ねた。

 「私はいつも神に祈ります。祈るときにはいつも神に許しを乞います。私が犯した罪に対して。知らずに犯しているかもしれない罪に対して。神に許しを乞うているのに、人を許さないわけにはいかないのです。許さなくてはいけないのです。でも、両手のない現実は私の日常なのです。どこにも去っていってはくれない。忘れようにも忘れられないのです」

 ジャルカさんは、そう語った。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

PR情報
検索フォーム

注目コンテンツ

  • 写真

    【&BAZAAR】そこにあるだけでうれしい

    アメリカの伝統的ミキサー

  • 写真

    【&TRAVEL】自然豊かなオーストラリア

    エネルギーを充電〈PR〉

  • 写真

    【&M】米国の郊外が似合う名車

    GM製歴代サバーバン

  • 写真

    【&w】19世紀のカップでコーヒーを

    鎌倉から、ものがたり。

  • 写真

    好書好日実は昭和の肝っ玉母さん?

    モデル・亜希さん、家族語る

  • 写真

    WEBRONZA米国気候変動評価が示す現実

    今日の編集長おすすめ記事

  • 写真

    アエラスタイルマガジン最高の眺めと最高のグルメ

    日本を代表するイタリアン

  • 写真

    T JAPAN坂東玉三郎が舞台に託す思い

    難役「阿古屋」を継承する

  • 写真

    GLOBE+ホワイトハウスが暗くなった

    カメラマンが気づいたある変化

  • 写真

    sippoストーブ猫には虐待の過去

    その姿が男の人生を変えた

  • 働き方・就活

  • 転職情報 朝日求人ウェブ