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シーラカンス 姿なき観光資源、群青に輝く夢 @ツンズ

写真:ゴンベザの海へ向かう=いずれも12月31日、江木慎吾撮影拡大ゴンベザの海へ向かう=いずれも12月31日、江木慎吾撮影

写真:ツンズ村の外れの浜に、12年前と同じよな舟が、同じように置かれていた拡大ツンズ村の外れの浜に、12年前と同じよな舟が、同じように置かれていた

写真:ケルディ・モハメドさん(左)。通りかかったロブスター漁師とともに拡大ケルディ・モハメドさん(左)。通りかかったロブスター漁師とともに

写真:ツンズ村に建設中の建物には「シーラカンスセンター」と書かれた看板が拡大ツンズ村に建設中の建物には「シーラカンスセンター」と書かれた看板が

写真:ゴンベザが潜む海拡大ゴンベザが潜む海

 気分も新たに紛争やクーデターからは少し離れて、夢のある話を追うのはどうだろう。12年前にコモロを訪れた時、マンゴーの木をくりぬいた漁師の丸太舟に乗せてもらい、ゴンベザのすむ海へこぎ出した。

 ゴンベザ。コモロの人たちはシーラカンスをそう呼ぶ。岸からほんの500メートルほどだったが、群青の海を進む心地よい櫂(かい)の音が忘れられない。

 そのときの村ツンズへ、タクシーに乗って走った。モロニを走っている車の半分はタクシーという印象だけど、まともな車がほとんどない。特に運転席側のサイドミラーが壊れたりなかったりする。モロニの郊外を走って、そのわけがすぐにわかった。

 元々細い道路の舗装が、洪水などではがされ、車同士がすれ違うことのできないほどしか残っていない。そこですれ違おうとするところに、そもそも無理がある。当然、ミラー同士がぶつかる。

 さらに郊外に行くと、舗装が魚の骨ほどにしか残っていない。穴が深く、よっこらしょと最徐行で抜けないと車体がすぐに壊れてしまいそうだ。12年前の方がまともだったのではないかというほど、道が傷んでいる。

 モロニから南に向かうと、進行方向の左側にはずっとカルタラ山が雲間から見え隠れしている。巨大なジャックフルーツやマンゴー、ヤシの実が道路に垂れ下がるように周囲を覆っている。

 沿道の女性の多くは黄色い仮面をつけているように見える。シンダヌといって樹木の粉らしい。日焼けどめに塗るのだという。

 記憶の中では、モロニからさほど遠くなかったはずだが、たっぷり2時間かかってツンズに着いた。

 当時の記事には、名前だか名字だかよくわからない漁師2人の名前が書いてあった。その時のノートを日本にいるうちにひっくり返せばよかったのだけれど、そういう準備は一切してこなかったので、いまさらどうにもならない。

 記事にあった名前、それも中途半端に書かれた名前を頼りに探そうとするのだから無理がある。まあ、会えたら感動の物語かと言われれば、たぶん互いにさほどの思いはない。

 世の中が狭いのか、ツンズ村が狭いのか。もちろん後者だが、すぐに1人の家は見つかった。ゴンベザ釣りの名人と紹介したイシラヒさんだ。残念ながら、この日は不在だった。

 もう1人、一緒に自慢の舟に乗せてくれたイブラヒムさんについては、知っている人がいなかった。もうここに住んでいないのだろうか。イシラヒさんの親類だというケルディ・モハメドさん(55)が、漁師たちの舟置き場に連れて行ってくれた。

 昔のままのような舟が、昔のように置かれていた。「そうそう、マンゴーの木をくりぬいて作るんですよね」と言うと、「マンゴーもあるけれど、ほとんどがジャックフルーツの木だ」とモハメドさんは言う。

 浜だったところには砕石場ができていた。舟の縁に腰掛けて、ゴンベザ協会の会計係だというモハメドさんに話を聞いた。

 さすがに時代は移っていた。以前は、政府がシーラカンスの捕獲を許可する場合があると聞いたが、ゴンベザ協会はツンズなど12の村の代表や漁師たちが集まって、ゴンベザの保護のためにつくったのだという。いまはたまたま針にかかったとしても、放すのだとモハメドさんは言った。

 「国にとって重要な観光資源だから」。でも、どうやって観光客を呼ぶのか。ホエールウオッチやイルカウオッチと違い、深海にすむシーラカンスは容易には姿を現さない。なにせ、1930年代に南アフリカ沖で見つかるまで、6千万年以上も前に絶滅したと思われていた存在なのだ。

 ヌジャジジャ島の周囲の海は、岸の近くで急に深くなる。シーラカンスは水深250メートルの深さに潜んでいるが、たくさんすむ場所は岸からほんの数百メートル離れたところにあるのだという。具体的な計画には至っていないそうだが、ダイビング客を呼ぶとか、水中カメラなどの機材をそろえて水中の様子を陸で観察できるようにするとか、モハメドさんたちの夢は膨らむ。

 村にはシーラカンスセンターもつくられていた。会議室や研究室を備えた協会の建物で、完成後は入場料もとるのだという。会議室の壁には、シーラカンスが群れて泳ぐ写真が張ってあった。棚が深海へ落ち込むその壁面にところどころ洞ができていて、そこをシーラカンスがすみかにしているのだという。

 建物を出て海を見ながら、すぐそこにゴンベザはいるんですよ、とモハメドさんは繰り返した。そこでまた、意地悪な質問をしてしまう。「ゾウやサイの密猟は後を絶ちません。ゴンベザについては、そういうことはないといえますか」

 モハメドさんが言うには、ゴンベザを捕って売っても、それを罰する法律がいまはない。でも、村々にはおきてがあって、もしそういう人間が見つかったら、もう村には二度と戻れないような状態になるのだという。

 小さな島国らしい、村社会が息づいている。「ゴンベザは、国全体が守るべき、世界の遺産です」と、さっきの観光資源から少しモハメドさんの口ぶりは変わった。

 雲が多いせいか、かつてこぎ出した群青よりは暗い色の海が広がっていた。大陸と違って土のにおいのしない、湿った風が吹いていた。

    ◇ 

■2000年10月に書いた記事です。

〈ゴンベザすむ海(特派員メモ・ツンズ)〉

 これを群青というのか。透明な青を、幾重にも重ねた海。下にゴンベザがいると思うと、神秘の色も加わる気がする。

 ヌジャジジャ島南部のツンズ村から、漁師の1人乗りの舟で、ゴンベザのいる海に連れて行ってもらった。マンゴーの木をくりぬき、安定のための「翼」を両側につけた舟は、イブラヒムさん(30)のこぐ大きなかいでジョワ、ジョボと進む。

 火山の山すそが急な角度で海に没する島では、沖合300メートルもいくと水深は200メートルを超える。この深い海にゴンベザが潜む。「生きた化石」と言われるシーラカンスのことだ。

 コモロ近海は貴重なすみかとされるが、政府がここ10年ほど、ゴンベザ釣りを禁止してきたという。ところが約2カ月前、米国向けに1匹だけ、生きたまま釣り上げる許可が出た。

 夕刻から夜半がゴンベザ釣りの本番。夜を明かす漁師もいる。5センチほどもある針に小魚をつけ、小石2個を重しに海に沈めて、当たりを待つ。4匹釣った経験をもつイシラヒさん(54)によると、慎重な魚で、2、3度つついてからガブリと来る。160センチを超え、100キロほどになることもあるという。

 カマスなどの漁で暮らしている200〜300人の貧しい村は、幻の魚の姿を待ち望んでいる。「だれが釣ったってかまわないさ。きっと、村に多くのものをもたらしてくれるに違いないから」。きょうもゴンベザのいる海で、夜明けを迎える漁師がいるはずだ。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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