メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

09月19日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

新着記事一覧へ

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

領有権めぐる混迷、すっきりしない賢老の知恵@ミツジェ

写真:スエフ・アリアマニさん=いずれも1日、江木慎吾撮影拡大スエフ・アリアマニさん=いずれも1日、江木慎吾撮影

写真:巨大な実のなるジャックフルーツ。甘いらしい拡大巨大な実のなるジャックフルーツ。甘いらしい

写真:モロニの港の静かな正月拡大モロニの港の静かな正月

 コモロで1月1日を迎えた。イスラム教の国なので特に祝うことはないとみんな言っていたが、外国人の集まるホテルでは、カウントダウンがあって年が改まってもなかなか騒ぎが収まらなかった。

 前日にぎわっていたモロニ市街の店は、半分ほど閉まっている。静かな年の始まりだった。

 コモロで何をするか。クーデターを繰り返していた時代を抜け出して、何が変わったのかが知りたい。もう一つ、コモロが抱えているフランス領マヨット島の統合をめぐる問題がある。

 そういうことについて、だれに話を聞いたらいいのか。この日から仕事を手伝ってくれることになったツアー業者が「それなら、何でも知っている老人に聞きに行くべきだ」と言う。

 こういう誘いに、とても弱い。

 日本から1冊だけ持ってきた森本哲郎さんの「人間へのはるかな旅」は、1970年代、イラクのバグダッドにひっそりと住む「カリズマ」という日本人の老人を捜し求める構成になっている。この老人は、迫り来る現代の問題を、あふれる知恵で解決できるというのだった。

 本当にそんな老人がいれば、世の中はこんなに問題だらけにならないはずだ。でも、つい「行こう。年初から頭のすっきりする話が聞けるに違いない」と思ってしまった。

 モロニから南へ、前日もたどった道を40分ほど車で走る。ミツジェという村で山の方へそれて車を止め、そこから歩いて15分ほど。ジャックフルーツやパンノキ、マンゴーが道ばたに茂り、パイナップルが地面からニョキッと出ている。

 賢老は、果樹園に囲まれて悠々自適の生活をしているという。その家は、青と緑に塗られた質素な平屋だった。

 「迷える旅人よ、聞きなさい」と立て板に水のごとく、といけば素晴らしかったのだが、残念ながらそうならなかった。2時間ほど話をしたけれど、通訳を介したこともあり、意味のよくわからないたとえ話をたくさんされたこともあり、わかりやすくここに再現する自信がない。

 クーデターの話は置き、せめてマヨット島の問題を少しだけ。この問題に少しこだわっているのはもちろん、尖閣諸島、竹島、それに北方領土の問題があるからだ。

 元々は4島そろって植民地をへてフランスの保護領だった。コモロ独立に際し、フランスはキリスト教徒の比較的多かったマヨットで住民投票を実施、フランス領にとどまるという結果を得た。

 コモロは国の統合を主張して国連に裁定を求め、国連はたびたびマヨットのコモロ帰属に沿った決議を採択している。フランスは国連安全保障理事会の決議には拒否権を行使、次第にマヨットへの支配を強めていった。いまは海外県の扱いになっている。

 フランスにとどまったマヨットと、フランスの影響を受けたクーデターを繰り返したコモロの間には、大きな経済格差が生じた。コモロから船でマヨットに脱出しようとして水死する人が相次いだ。

 コモロの3島の中でも最大のヌジャジジャ島に富が集中しているという不満がヌズワニ、ムワリ両島にはある。90年代には2島がフランスへの再帰属を求めた独立騒ぎがあった。

 モロニ市内には「マヨットはコモロに所属する」という看板がかかっている。理はコモロにあるように見えて、現実はとなるとその文字がむなしく映る。

 高等裁判所、税関、憲兵隊に勤めた経験をもち、歴史研究家として数々の著作のあるスエフ・アリアマニさん(83)は「確かに、本当にマヨットがコモロのものになるかと言われれば、大変に厳しい。今のままでは無理だろう」と言う。

 そこで得意のたとえ話に入り、「結婚する前に妻となる女性に色々と贈り物をして、結婚から時がたって贈り物が滞れば、妻の方からもう一緒にいたくないということもあるかもしれない」。この話はわかるので、そのまま書いておく。

 もう一つ。「日本はコモロに大使館を置くべきだ。中国を見習いなさい。中国は政治の問題は、見ざる聞かざる言わざるで、援助に徹する。ここから真の友情が始まる」。話の筋とは関係なく、そうスエフさんは繰り返した。

 やたらと蚊に刺され、終わってみれば禅問答でけむに巻かれたようで、どっと疲れが出た。うーん。偉大な知恵が諸問題の答えを出してくれる時代はとうに過ぎている。もしもそんな時代が過去にあったのだとしても。GPSの位置登録もうっかり忘れた。

 そういえば、コモロとマダガスカルの間には、無人島のグロリオ諸島がある。ここもフランスが実効支配し、コモロ、マダガスカルとの間に領有権争いがある。

 もう一つの問題、クーデターの時代を抜けて何が変わったのかは、12年前に会った人たちを探して尋ねてみることにしよう。記事に登場する名前だけが頼りなので、うまくいく保証はないけれど。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

PR情報
検索フォーム

注目コンテンツ