メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

09月20日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

新着記事一覧へ

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

12年後の3人を追って @ムバンバニハマンブー

写真:ファトゥマさんのレストラン「天国の島のレストラン」。12年前は左手の建物だけだった拡大ファトゥマさんのレストラン「天国の島のレストラン」。12年前は左手の建物だけだった

写真:ファトゥマさんのレストランには、9組が泊まれる宿泊施設、あずまやのようなバー、それに庭ができていた拡大ファトゥマさんのレストランには、9組が泊まれる宿泊施設、あずまやのようなバー、それに庭ができていた

写真:ナドイムさん。その後、副大統領を務めた拡大ナドイムさん。その後、副大統領を務めた

写真:スフィアニ・ムバエさん=いずれも2日、江木慎吾撮影拡大スフィアニ・ムバエさん=いずれも2日、江木慎吾撮影

 12年前にクーデターの頻発するコモロを訪ねた時の記事には、3人の名前が登場する。クーデターで職を追われた元首相のジュスーフさん、建設資材会社社長のナドイムさん、それにレストランの女性経営者のファトゥマさんだ。

 この3人のその後を追うことにした。たぶん元首相は簡単にたどり着けるだろうが、ほかの2人はどうだろう。なぜかみな、フルネームを書いていない。こちらの人は名前を尋ねるとたいてい三つ答えるのだが、どれが氏なのか順番がまちまちで面倒なので一つだけにしたのかもしれない。

 地元に顔がきく観光業者に頼んで捜してもらう一方で、前日1日の賢者取材がうまくいかなかったので、その観光業者ともう一度、知恵の泉のような長老を捜すことにした。

 海岸沿いの道路を離れ、溶岩の間のくねった山道を車で上る。「いい話を聞くには、やぶをかき分けていかなくてはならない」と観光業者の青年は哲学的な物言いをする。

 竹林の七賢でもないのだろうに。そう思っていたら、やぶをかき分けることもなく、道路のすぐ脇に目指す家はあった。

 スフィアニ・ムバエさん(77)はヤシの枝を乾かして編んだ壁にトタン屋根の小さな家に住み、ヤシの木でつくったサンダルを履いていた。溶岩を細かく砕いた敷石の真ん中に平べったい石が置いてあって、その上に金属の小さなテーブルがある。

 今は調子を崩しているが、バナナ、キャッサバ、パイナップルなどを作っているのだという。政治に色々口を出す地域の長老ということらしい。ベッドに腰掛け、時に少し横になって話をした。

 「コモロの人は心の中では、マヨットが戻るまで安心して眠ることはないと思っている。だが、現実に戻るかといえば疑問だ」「マヨットのために、コモロは問題を抱え込んでいる。毎年、何人もの人たちが、海を越えようとして死んでいる」

 それは、独立、自由を選んだコモロの人たちが、よりよい生活を求めてフランス領にとどまることを選んだマヨットの人たちに負けたということなのか。

 「マヨットの人たちにとっても負けなのだ。兄弟姉妹が海で亡くなっている時に、それを勝利と呼ぶことができるだろうか」

 クーデターがなくなっただけではなく、自由に政府も批判できるようになったとムバエさんは話した。だが、政府の腐敗は相変わらずひどいという。

 クーデターが頻発した時代なら、腐敗を一掃する次なるクーデターはすぐにやってきた。今はどうなのか。選挙までの期間を耐えるのか。それとも、またクーデターの時代に戻ってしまうのか。

 「もうクーデターは起きない。起きる可能性があるとすれば、それは民衆の反乱だ」。ムバエさんは言った。そう、エジプトで起きたようなことだと長老は付け加えた。

 国際空港に降りる飛行機が眼下に見える。モロニの、体に絡みつくような風と違い、標高300メートルほどの風は涼やかだった。

 たとえ話の好きな前日の賢者と違い、ムバエさんの話はわかりやすかったが、聞く側の不見識もあり「そうだろうなあ」という話ばかりだった。こうなると、けむに巻かれる方が「ありがたみ」を感じるから現金なものだ。

 気を取り直して、街にとって返した。女性経営者のファトゥマさんがまず見つかって、建設資材会社のナドイムさんではないかと思われる人とも会う約束がとれた。

 一番簡単だと思ったジュスーフ元首相に連絡はつかなかった。それもそのはずで、街で尋ねると数年前に亡くなったとのことだった。存命なら71歳だったはずだが、12年の月日を感じる。

 午後3時にナドイムさんの自宅に向かう。その途中に、この街ではまず見かけない、ぴかぴかのトヨタ四輪駆動車に乗った人物に出くわした。人の顔を全く覚えられないダメな新聞記者なのだけど、見覚えがある。だれあろう、ナドイムさんだった。

 本当に約束を取り付けたナドイムさんが12年前に会った人物か、このときまで自信が持てずにいた。というのはこのナドイムさん、つい半年前までコモロの副大統領を務めていたというからだ。

 人口80万足らずの国だから、そういうこともあるのかもしれない。越後の縮緬(ちりめん)問屋だと思っていた老人が、さきの副将軍だったようなものだ。

 押しの強そうなおじさんだったけど、政治家になるようなことは言っていなかったからなあ。でも、自宅に移動して話してみると、すっかり政治家になっていた。

 12年前にクーデター頻発の取材で来たと記憶を喚起しようとすると、「クーデターが毎年のように起きているなどというのは、そもそもコモロを陥れるデマだったのだ」と言ったから驚いた。

 でも、あなたは親類からクーデターへの力添えを持ちかけられた話をしましたよ。そう言うと、「そんな話はしたかな。覚えていないな」と歯切れが悪くなった。

 それはさておき、政治の話になると意気盛んだった。06年からサンビ大統領の副大統領だった5年間、ナドイムさんが腐心したのは、何とかアラブ諸国との関係を強化し、投資や援助を呼び込むことだった。

 「ここにはヨーロッパ人を引きつける資源もなければ、コーヒーもなかった。バニラは値崩れしていた」。そこでアラブに目を向けたのだという。それは十分な成果として結実していないが、カタールを中心に関係は次第に深くなっていると話した。

 マヨットの話になると、口ぶりは滑らかさを失う。「誠実なコモロ人は、けっしてマヨットのことは忘れない。でも、フランスと戦えるか? 国連に問題を持ち込んでも、フランスは大国らしく振る舞うだけだ」「問題は確かに深刻だ。毎年、マヨットに渡ろうとして千人以上が海で命を落としている」

 でも、マヨットの問題は喫緊の問題というわけではないとナドイムさんは言う。コモロにとっていま一番重要なのは天然ガスだというのだ。

 16年からの次期大統領を、ナドイムさんは目指すという。いま、コモロ大統領は三つの島の出身者で持ち回る珍しい仕組みになっているが、それも次回からはなくなるという。

 「これまでの大統領候補は、道路を整備します、学校をつくりますと、予算の裏付けのないままに公約し、後で援助国に資金提供を頼み込むというやり方だった。これではダメだ。自分たちで資金をつくりださなければならない。それには天然ガスしかない」

 ここ数年、モザンビーク沖では次々と天然ガスが見つかり、世界の企業が採掘、探査に入っている。コモロはそのモザンビーク海峡に位置していて、天然ガスが出るのは確実だとナドイムさんは言うのだ。すでに探査は始まっている。

 でも、こんなことを言って申し訳ないのですが、資源が呪いになるのはアフリカの歴史が示していますから。ちゃんと資源を管理できるのでしょうか。

 そういうと「確かにそうなのだ。この前もエネルギー省の副大臣と、財務省の副大臣が天然ガス採掘に関して矛盾し合う契約を海外の企業と結んで問題になった」。さらりとそう打ち明ける。言いたいことは、みんなダメだから、自分でなければ、ということらしい。

 建設資材会社はたたみ、今は海外との資金送金会社を経営しているという。立派な造りの家といい、車といい、コモロではかなりの暮らしぶりがうかがえる。話している間も5分と座っていないせわしなさだ。

 少なくともこの人には、12年間は発展の年月だったようだ。

 ファトゥマさんには、彼女の経営するレストランで会った。こういう言い方をすると問題かもしれないけれど、いかにも女傑という感じの人だ。12年前はクーデターが頻発していただけあって、あまり表だって話をしてくれる人がいなかった。ファトゥマさんはそんなことは気にしていなかった。

 彼女は2千円たらずの資金でジュース売りから始め、レストラン、宿泊所、服飾店などを経営するようになった。以前、来たときはトタン屋根の小さなレストランだけだったが、同じ敷地に9組が寝泊まりできる宿泊所をつくり、あずまや風のバーを建て、庭も整えていた。イスラム教の国だが、この店ではアルコールを出していた。

 「毎朝起きるとね、昨日より後ろにいる気がするのよ、この国は」。そう彼女は怒る。以前は24時間、電気がきていたのに、今は2時間しかこない。道路もひどくなっている。

 「私のように、何とか前に進もうとする小さな市民を国は援助するどころか、くじこうとする。許可はどうなっているかとか、あそこに届け出ろとかいっていじめるのよ」。何度か施設を閉鎖されながら店を拡大し、今は10人を雇用するようにもなった。

 外国人のサポートが大きいのだと彼女は言う。そして「私はくじけない。国が発展するということは、私たちのような、前に向かおうとする市民が発展するということなの。市民は周りに声をかけ、支え合って前進するしかないのよ」と力強く語った。

 店のTシャツを着てビールを飲む彼女に写真を撮らせてくれと頼んだら、「ダメダメ、私が大統領になったら撮らせてあげてもいいけど」といなされた。

     ◇

■12年前に書いた記事から

 12年前の11月に書いた記事です。国際面で「アフリカはいま」という月に1回程度の企画を始め、その2回目に登場した話でした。末尾についていた談話は割愛しました。 

《コモロ 「未遂」含め19回(アフリカはいま クーデター)》 

 コモロ諸島はインド洋にある人口70万人ほどの美しい島国だ。しかし、25年前にフランスから独立して以来、未遂を含め19回のクーデターが起きている。国の富がその時々の権力者とその取り巻きに食い物にされ、国民は貧困にあえいでいる。アフリカには、民主主義が機能しないまま、1990年代に入っても武力による政権転覆を経験する国が少なくない。「クーデターの島」で政情不安の実態を見た。

 「クーデターを計画しているんだ。手を貸してくれないか」

 建設資材会社のナドイム社長(51)は親類の男に誘われた。昨年4月のことだ。取り合わなかったら、3日後、軍の実力者アザリ大佐(現大統領)によるクーデターが起きた。ナドイム氏は、親類を呼んで「本気だったのか」と話すと、男は「それが、先を越されたんだ」と答えた。男が話したのは、別のクーデター計画だった。 

 ●簡単

 クーデターが年中行事のようになっているコモロならではの話だ。そのクーデターで首相の座を追われたジュスーフ氏(59)は、1週間前に動きを察知していた。「マダガスカルで開かれた国際会議で、クーデターが数日後に迫っていると各国の出席者に話した。それが土曜日。クーデターは確か翌週の木曜日だった」と振り返る。クーデター3日前の閣議にアザリ大佐を呼んで不穏な動きを止めるよう説得したが、止められなかった。

 そんなにクーデターが簡単なのか。ジュスーフ氏は「フランスに力のある友人が3人いれば十分だ。雇い兵を使って簡単に起こせる」と答えた。

 独立後わずか1カ月で、初代アブダラ大統領が追われた。ほとんどのクーデターに雇い兵が絡む。特に有名なのは、「最後の傭兵(ようへい)」と呼ばれたフランス人のボブ・デナール氏だ。78年には初代アブダラ大統領の政権復帰に加勢し、89年には逆に同大統領殺害事件の首謀者になったとされる。95年にも雇い兵を使ってクーデターを起こしたが、仏軍特殊部隊が介入し、鎮圧された。

 クーデターで誕生した政権は、最初は腐敗一掃などを掲げるが結局、周辺の人間の利益のみを考えて行動するようになるという。 

 ●商店

 昨年4月のクーデターの後、国内のガソリンスタンドを一手に経営する政府系企業のトップにアザリ大佐に近い人物が就任した。ガソリンの値段は上がったのに、この企業から国庫に収められる売り上げは3分の1に減った、と立法委員会の委員の一人は糾弾する。外国からの援助食料を売却して得た政府収益の流用疑惑も浮かんでいる。

 この委員は「コモロは一つの商店のようなものだ。政権に就いた者が商売をすべてさらっていく」と語る。

 恒常的な政情不安は市民生活を犠牲にする。ガソリンスンタンドには行列ができ、砂糖などの生活必需品の価格は上がる一方だ。公務員給与は9月の時点で7カ月、兵士の給与も2カ月払われていない。

 1人あたり国民総生産では、同じインド洋の島国のセーシェルが1万ドル、モーリシャスが3千ドルを超え、アフリカでも飛び抜けた繁栄をみているのに対し、コモロは300ドル台に低迷している。アフリカ統一機構(OAU)のサンダ・コモロ駐在代表は「ずっと政情不安が続いているのに、海外からの投資が呼べますか。美しい島ですが南アフリカからわずかな観光客が来るだけ。彼らは南ア資本のホテルに泊まり、地元に恩恵をもたらさない」と指摘する。

 ●屈折

 デナール氏のクーデター騒ぎの後、96年に初の複数政党制の選挙があり、タキ大統領が就任した。しかし、「全く何もせず、外遊ばかり繰り返した」と、民選大統領に対する人々の評判は最悪だ。同大統領は98年11月に急死し、大統領代行は昨年4月のクーデターで放逐された。

 モロニ市内でレストランや洋品店を経営する女性起業家ファトゥマさんは「若者は皆、フランスにさえ行ければ貧困から抜け出せると思っている」という。渡航のための偽の書類が出回っている。しかし、国外に出られない多くの人々は、どうするのか。「政権の腐敗を目の当たりにしながら、『次のクーデターはいつだろう』と期待するしかない」と市民の屈折した思いを説明する。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

PR情報
検索フォーム

注目コンテンツ

  • 写真

    【&BAZAAR】誰でも手軽に特撮ごっこ

    遊べる特撮加工アプリ

  • 写真

    【&TRAVEL】一つの宿に15もの温泉が

    楽しいひとり温泉

  • 写真

    【&M】横須賀でのイベントに20万人

    ポケモンGOの進化が変える未来

  • 写真

    【&w】コーヒー農園を訪ねて

    ネスプレッソ〈PR〉

  • 写真

    好書好日LGBTヘイトは自殺を誘発

    トランスジェンダー男性が自伝

  • 写真

    WEBRONZAさくらももことガロとたま

    今日の編集長おすすめ記事

  • 写真

    アエラスタイルマガジン宿泊先のアメニティを使う?

    ライフスタイル世論調査!

  • 写真

    T JAPANせきねきょうこが選ぶホテル

    新・東京ホテル物語 第27回

  • 写真

    GLOBE+無償ボラ成功の秘密

    サッカーロシアW杯に学ぶ

  • 写真

    sippo多くの猫を預かり夫婦で世話

    「どの子も幸せに」

  • 働き方・就活

  • 転職情報 朝日求人ウェブ