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09月23日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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奴隷制の名残、今も 幸せのトンボは @アンタナナリボ

写真:幸せの?トンボ=いずれも江木慎吾撮影拡大幸せの?トンボ=いずれも江木慎吾撮影

写真:2009年1月に暴徒によって破壊され野ざらしのままの、当時のラバロマナナ大統領系スーパー拡大2009年1月に暴徒によって破壊され野ざらしのままの、当時のラバロマナナ大統領系スーパー

写真:イグナス・ラコトさん拡大イグナス・ラコトさん

写真:アンタナナリボ中心部から西を眺める拡大アンタナナリボ中心部から西を眺める

 ここのところ長渕剛さんの「とんぼ」が知らないうちに頭の中でぐるぐる回っている。特に好きな曲ではない。なぜかと考えると、ずっと昔に会社の先輩が酔っぱらってよく歌っていたことは別にして、きっかけは二つある。

 一つは、アフリカに来てどこの国に行ってもトンボを見ること。多くは日本の赤トンボのようなやつだ。そして、もう一つが随分前に「ナイロビ・ハーフ・ライフ」という映画をみたことだと思う。

 ケニアの田舎からナイロビに憧れて出てくる若者が、その都会に翻弄(ほんろう)されながら生き抜こうとする姿を描いた、少し陰惨な映画だった。「死にたいくらいに憧れた 花の都大東京」というフレーズ、特に「死にたいくらいに憧れた」という大げさに思える言い回しが、映画の青年にはぴったりあっていた。

 と、ほとんどの人が見たことのない映画を引き合いにしても共感など得られないだろう。あえて書こうと思ったのは前日、国立公園近くのレストランで食事したときに、テーブルにとまったイトトンボの写真を撮ったからだ。勝手に幸せのトンボと呼ぶことにしよう。もちろん、どこかへ飛んでいってしまった。

 もう一つ、マダガスカルには「カラオケ」の看板がやけに多いということもある。

 関係ない話題をふってしまったが、ここからマダガスカルの三つの奴隷制について。

 「現代的な奴隷の形」についての国連特別報告官、ガルナラ・シャイニアンさんがマダガスカルを訪問、昨年12月に「貧しさと、罰せられないことが、現代的な奴隷を助長している」とマダガスカル政府に対応を求めた。

 報告官はマダガスカルで接した「現代的な奴隷」として、子どもが強制的に劣悪な環境で鉱山労働に従事させられたり、法的な年齢に達する前に結婚させられたり、売春をさせられたりすることなどを挙げた。その上で、対応する法律がありながらそれが生かされていないことや、資金が不足して担当者が十分な活動をできないでいることを指摘した。

 このときの記者発表資料に、次の一文があった。

 「報告官は、身分に基づく根深い差別について知らされた。人口の70%以上が貧困状態に、50%以上が極貧状態にある国で、奴隷の子孫は社会的、経済的、政治的に差別され、もっとも弱い立場にある」

 マダガスカルもアフリカの多くの国と同様、ヨーロッパやアメリカへの奴隷貿易の中にいた。だが、奴隷の子孫が国内で差別されているというのはどういうことだろう。不勉強で、全く知らなかった。

 アンタナナリボ大学で長くマダガスカルの奴隷制について研究し、研究者の国際会議を1996年にとりまとめたイグナス・ラコトさん(73)という人がネットに載っていた。自宅を調べて訪ねると、突然の訪問にもかかわらず、招き入れてくれた。

 ラコトさんの説明では、欧州や米国に送られた奴隷とは別に、マダガスカル国内で長く奴隷制が続いていた。奴隷制は国王によって1877年に、フランスによって1896年に、それぞれ廃止され、奴隷は自由の身になった。

 このころ、アンタナナリボ周辺では人口5万のおよそ半数が奴隷だった。マダガスカル全体では、250万のうち80万以上が奴隷だったという。

 その後も身分制度は残った。アンドリナと呼ばれる高貴な出身、フーバーと呼ばれる自由な人々、そしてその下の戦士と、身分制度の外にいた奴隷が統合されてアンデブと呼ばれた。

 それぞれに住む場所が違い、固定化された。奴隷はもともと土地所有を認められていなかったので、元のあるじとの関係を絶てなかった例も多い。そして、今に至るまで特にアンデブとその他の階層の結婚はきわめて困難だ。結婚相手の家系の調査も行われている。

 教育面や経済的に成功した男性が妻を迎える場合にだけ、禁が破られることはあるという。「成功が、問題を乗り越えるただ一つの方法なのです」とラコトさんは言う。

 こうした隠れた身分制度は社会の様々なところにひずみや緊張を生じさせる。だが、差別される側からも、差別する側からも、この状態を改善しようとする動きは生じていないとラコトさんは言う。

 「一歩一歩、改善していくしかありません。教育が鍵を握っています。先生たちを教育し、カリキュラムに奴隷のことを入れなければいけない。それは恥ではなく、歴史なのです。学んだ子どもが家に持ち帰り、話し合う。そう、差別する側、される側の双方が語ることでしか解決への道を歩むことはできません。沈黙は何も解決しませんから」

 アンタナナリボを見下ろす、女王宮のある丘に上った。はるか上から見れば、町はただ小さくきれいに見える。ブルンジではトワの人たちへの差別を考え、西アフリカではレッテルを貼る自分を意識した。マダガスカルにも根強い差別があることを知った。

 今回も表面をなぞっただけだけれど、たびたび取り上げるのは、差別する自分を意識するためだと思う。自分の内にある差別意識と向き合うことなのではないか。頭で理解しても、消し去ることが難しいものを少なくとも自分は内側に抱えているように思うからだ。

 マダガスカルには、祖先が東南アジアから来たと信じられ、主に中央の高地に住むメリナの人たちと、アフリカから来たと信じられ主に沿岸部に住むタニンドラナの人々との間の緊張もあると聞いた。壁を乗り越えた結婚はここでも、困難を伴う場合があるそうだ。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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