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11月19日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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暗雲漂う大統領選、岐路にある島 @アンタナナリボ

写真:空港への道沿いで稲の刈り入れが進んでいた=12日、江木慎吾撮影拡大空港への道沿いで稲の刈り入れが進んでいた=12日、江木慎吾撮影

 海外の高級品を売る大型のショッピングセンターが新しくできる一方で、街を歩くと殺伐としたものを感じる。それが10年ぶりのアンタナナリボの第一印象だった。10年前に来たときは戒厳令下だったけれど、街にはもっとのんびりした空気が漂っていた。

 単なる勘に過ぎなかった。それが存外、はずれていないことがその後、地元の人たちと話す中でだんだんわかってきた。2009年の政治危機が、次第次第に人々の生活の危機になって広がっている。ほんの短い滞在でそう言ってしまうのは、やや乱暴だけど。

 10年前の戒厳令下ののんびりと、いまの日常の殺伐は、鏡の表裏のように思える。2人の大統領が二つの首都に分かれ、互いに物資の供給を止め合って人々の生活を困窮させていたあのころ。暫定政権が永らえることで海外からの援助が滞り、市民の生活が困窮している、いま。

 5月に予定されている大統領選挙は、正常化への第一歩になるのか。そもそも、実施できるかどうか。政権を追われたラバロマナナ前大統領と、仮ではあるが4年近く政権の座にあるラジェルナ暫定大統領は、ともに選挙には出ない。これが、事態の収拾を目指す南部アフリカ各国が描いた道程だ。

 だが、明言していないものの、ラジェルナ氏は出馬に意欲をみせているとされる。強行すれば、国際的な信用はさらに低下する恐れがある。見送ったとしても、基盤の弱い新政権は常に、過去に大統領を放逐した権力者の影におびえることになる。

 ラバロマナナ大統領の企業は破壊されたまま、放置されている。その時代に進んだアンバトビーのニッケル・コバルト鉱山などの事業にも、ラジェルナ氏は批判的だとされる。

 実は、一連の動きはラジェルナ暫定大統領と、ラバロマナナ前大統領の背後にいる、フランスとアメリカの勢力争いなのだという見方を、何人かから聞いた。どの程度、本当なのかはわからないが、そういう見方が「弾よけのまじない」のようにまことしやかに語られること自体、国の再建を待ち受ける暗雲を示しているようにも思える。

 そんなことを考えながら、空港へ向かった。ここに来たときにはまだ青かった田が実りの色に変わりつつある。そういえば、丘の多いマダガスカル中央の高地には、棚田があちらこちらにある。

 田舎への取材の行き帰りに、いいところで写真を撮ろうと思っていたのに、どうもタイミングが合わなかった。それと、街角でタコ焼き器にそっくりなものを見かけた。ムフガスという、甘いパンのようだが、これも写真を撮りたいと思いつつ果たせなかった。小さな心残りだ。

 防ぐことのできる泥棒にもあってしまった。無防備な旅行者が子どもの犯罪を助長しているとも言える。記者は、無防備な旅行者であってはならない。好きな名前じゃないけれど、機動特派員の名が泣いている。

 年末来のナイロビに向かう。ザンジバル島の上を飛び、晴れた海から雲の多い大陸に戻る。頭を雲の上に出し、というより、雲を枕のようにして、キリマンジャロが見える。

 覆うというには少なく、まばらというよりは多く、頂上に雪が見える。黒い山肌に引き立てられ、周りの雲より青みを帯びた白さの、キリマンジャロの雪だった。

   ◇

■2002年に書いた記事です。

〈奇妙な戒厳令(特派員メモ・アンタナナリボ)〉

 「戒厳令」。革命、クーデター、銃声といった響きを伴う言葉だ。国家の非常事態に法を停止し、行政や立法を強権の統制下に置く命令だ。

 今、この街は、戒厳令下にある。でも、ちょっと奇妙な戒厳令だ。街頭には、軍隊の姿はおろか、警察官もあまり目につかない。夜も外出できる。人々はぶらぶらと歩き、飲食店では子ども連れが食事をしている。

 インド洋の島国マダガスカルは大統領選の混乱から、二つの「政権」が並立してしまい、その片方がこの街に戒厳令を布告した。それでいて、街はもう一つの政権が事実上支配し、戒厳令が敷かれたこと自体、認知していない。ややこしい。

 緊迫感を実感するのは、特に夜間、街の方々でバリケードがつくられることだ。車や人の出入りを、若者らが自主的に検問している。子どももいる。片方の政権が差し向けた暗殺団が、もう一方の政権の主を殺しに来る、というのがバリケードの理由だという。

 武器は、壊れたいすの脚ぐらいだ。「本当に武装した暗殺団が来たら、どうするの」と聞くと、リーダーの男性(26)は、「大丈夫。バリケードは、あっちこっちにあるから」と真顔で答えた。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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