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09月23日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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ささやかな日常、静かな川、破壊の渦 @バナンバ

写真:砂浜で髪を編んでもらう女性=19日、クーリコロ、いずれも中野智明氏撮影拡大砂浜で髪を編んでもらう女性=19日、クーリコロ、いずれも中野智明氏撮影

写真:川底の砂を集める=19日、クーリコロ拡大川底の砂を集める=19日、クーリコロ

写真:建築用の砂を岸に揚げる=19日、クーリコロ拡大建築用の砂を岸に揚げる=19日、クーリコロ

 バマコから出ようということで、19日は車2台に分かれて北東を目指した。行き先は杉山正ナイロビ支局長が決めている。こちらはついていくだけだ。

 バマコを出ると家はなくなり、電線もなくなり、次第に風景から緑が少なくなる。葉をつけていても茶色っぽい木が増える。そんな中に、朱の花だけをつけた木がところどころに。木も花も気候も違うけれど、緑少ない季節に紅をともす梅の印象だ。

 ほぼ平らな大地に、いっそう平らにニジェールの大河が流れる。道のほとり、日の丸と、マグロにしか見えない魚の描かれた看板が見えた。日本の漁業援助について書かれているらしい。

 そういえば、と思い出す。つい2週間前にコモロで会った日本人の男性は、漁業援助をしていた。マリにもいたと話していた。暮らしたアフリカの国で好きなのはマリだとも言っていた。

 北に向かうに従って、家の屋根は平らになる。水抜きの穴が壁にうがたれた家、小さなパイプが壁から突き出た家が目立ち出す。空気はさらに乾き、車の空調からも土ぼこりのにおいが忍び込む。

 バナンバという町に着いた。バマコからは北東にあたるけれど、マリ全体を見れば南西になる。ここに、マリ北部から逃れた人たちが身を寄せている。その人たちを杉山支局長が取材した。その中身は、朝日新聞でどうか読んでください。

 取材の間、傍らに立ってぼんやりと考えていた。マリは人口の大多数がイスラム教徒の国だ。その中でイスラム武装勢力が国を、同じ神を信じる人々を脅かしている。風に吹かれて訪ねた国の中では、ソマリアに状況が似ている。

 今はまだ戦いのさなかだから、先のことは考えられないだろう。でも、同じ国の中で二つに分かれて激しく戦いあって、再び一つの国としてやっていけるのだろうか。避難した人たちの取材を終えて、マナンバの村長さんにあいさつに行ったときに聞いてみた。

 村長さんは武装勢力のことを「悪いイスラム教徒」と呼んだ。だが、もとは同胞ではないのか。武装勢力が戦いをやめれば、再び一緒に暮らせるのか、それとも彼らは一掃しないといけないのか。村長さんは答えた。

 「一緒に暮らすことはできない。家をつくっているとき、その家を壊そうとする人たちと一緒に暮らせますか。車でいろんなところに行こうとするときに、火をつける人を許すことができますか。自分たちを破壊しようとする人たちは、破壊するしかない」

 バナンバからの帰り道、この地域一帯の中心的な町クーリコロに立ち寄った。ニジェール川の砂浜に、多くの人たちが集まっていた。このあたりに建つ家と同じ茶色の砂を集めて岸でふるいにかけ、ダンプカーに載せて運ぼうとしていた。

 川底から家の建築に使う砂を取っている。幅の広い木の舟のへりが水面と接するほど砂を積んで浜へとってかえす。浜ではちょうどお昼どきで、たらいに入ったご飯に何かの汁をかけて食べていた。

 すすめられて、中野さんと一緒に少しだけ食べた。細かく砕けたようなコメに汁がしみておいしかった。かたわらで、女性が髪の毛を別の女性に編んでもらっている。のどかな風景に見える。

 いつも話を聞くのは肝っ玉母さんのような人になるのだけれど、今回もそうだった。カジャ・トラウリさん(60)に、ここの様子を見ていると、戦争をしているように見えませんが、と通訳を通して言ってみた。

 「私たちは食べ、私たちは働きます。でも、私たちは眠れません」と彼女は言った。「みなにこやかにしているかもしれません。人を迎えるときの、マリのならいです。でも、見てください。子どもたちが砂を集める作業に参加している。生活が苦しいからです。戦争のせいで、とても苦しくなっているのです。こんなに国は貧しいのに、どうして戦おうとする人たちがいるのか」

 陽光をきらきらと反射させ、ニジェールの流れは静かだった。同じ国の中の戦いは、ささやかな日常を破壊して広がる。その余波が隣国、そして日本を含む多くの国の人たちの日常をも破壊の渦に巻き込んでいる。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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