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証明書あります。コピーだけど @南ア・ヨハネスブルク

写真:電車はおろか、列車に乗るのですら、今回の旅では初めて。窓の外は欧米の風景=31日、江木慎吾撮影拡大電車はおろか、列車に乗るのですら、今回の旅では初めて。窓の外は欧米の風景=31日、江木慎吾撮影

写真:ホテルからの眺めも、今までとはちがう拡大ホテルからの眺めも、今までとはちがう

 これまで散々、ベテラン記者にあるまじき醜態をさらしてきた。話題作りのためにへまを繰り返しているわけではない。もはや説得力など皆無だろうが、これまでドジな記者として知られていたわけでもない。ただ、本人が知らなかっただけかもしれない。

 こう始めるのはつまり、またやらかしたからだ。黄熱病の予防接種証明書をなくした。マリからケニアに戻る夜行便を降りたところまではあった。パスポートにはさんでいたので、たぶん入国審査の時になくなったのだろう。ケニアの入国カードはいくつかの色があるのだが、この日は折あしく黄熱病の証明書と同じ黄色だった。入国審査の時に、その入国カードと紛れてしまったに違いない。

 気がついたのは家に着いてからで、探したが、遺失物が出てくる奇跡の国ニッポンと違って、当然出てこない。このカードがないと、ビザを出してくれないところがあるし、無理やり注射される場合もあると聞くので、今後の旅への影響が小さくない。

 ただ、コピーはとってあった。用意周到にとってあったわけではなく、コンゴのビザをブルンジで請求しようとした時に、事前にブルンジの知り合いにスキャンしてメールで送った、そのメールが残っていた。

 そのときは結局、コンゴのビザは出なかったので役に立たなかったわけだが、もしかするとひょんなところで役に立つかもしれない。ちなみに、このコピーをナイロビのネットカフェでスキャンしたとき、パソコンがウイルスに感染するというおまけもついたので、何かといわくつきの黄熱病接種証明書ではある。

 日本にいれば再発行してもらえるが、ここは日本ではない。ナイロビ市の検疫事務所を訪ねて、事情を説明し、コピーをみせて再発行を頼んだが、二重の発行はできないと言われた。ただ、コピーが鮮明なので、警察から遺失物証明書をとれば、それで問題はないだろうとも言われた。

 そこで、ケニアの中央警察署を訪ねる。1階の廊下には行方不明の子どもの写真が4枚張ってある。みな9歳、10歳ぐらいの男の子だ。

 遺失物証明書を発行してもらうには、その証明書用紙を買わなくてはいけない。警察署の裏の食堂の一角で売っていた。その用紙をもって、盗難、遺失物届けの係に行くと、さらさらと書いてはんこを押してくれた。

 確かに、これでケニアは問題ないのかもしれない。さて外国は大丈夫かとなると、心もとない。

 次の訪問国のチケット手配とビザ申請のための準備があったので、ナイロビ支局の助手の女性に「念のためにもう一度、空港に遺失物で届いていないか聞いてください」と頼んだ。やはり届いていなかったが、彼女が気を利かせて空港の検疫係に聞いてくれたところでは、今までの手続きでは不十分で、やはり接種し直さなくてはいけないとのことだった。

 特にこれから行こうとしている南アフリカは厳しく、たぶん飛行機に乗せてくれないだろうという。確かに昔から南アフリカは黄熱病カードのチェックが厳しかった。悪いことに、もう翌日の飛行機のチケットをとってしまった。タクシーも午前6時に迎えに来てくれるよう手配した。空港まで行って飛行機に乗れないのではどうしようもない。

 助手が話をした空港の検疫係に電話すると、朝8時に空港内の事務所で接種し、証明書は日本で接種を受けた昨年8月にさかのぼって出すとのことだった。接種後、10日間はワクチンが有効にならないので、その日の日付では南アフリカに入国させてくれない可能性があるからだという。

 何だか不自然な対応だ。そもそも、もっているコピーをみて本物だと判断すれば、接種せずに証明書だけ再発行してくれてもいいはずだ。接種して、なおかつコピーの記載を信じて証明書を発行するのは矛盾ではないか。

 こんな風に思うのは、もちろん、注射を受けたくないからだ。10年も有効で、5カ月前に受けたばかりだ。さらにいえば、マリでひいた風邪がまだ完全には抜けていない。でも、背に腹は代えられない。重い気分のまま31日朝、ナイロビ空港に着いた。

 チェックインの時、係の女性がにこやかに「黄熱病のカードは持っていますか」と聞いてくる。これから接種するとも言えないので、持っていると答える。預け入れ荷物に札をつけながら、さらに「持っていますよね。そっちのかばんにあるんですね」と聞いてくる。はい、と答える。コピーだけど。

 出国審査をへて、出勤時間を待って昨日話をした係に電話する。入国審査にある健康相談の窓口で待ち合わせることになる。フライトまで1時間あまりというところで現れて、事務所に案内される。

 コピーと、警察の遺失物証明書を差し出す。遺失物証明書には関心を示さず、「これなら大丈夫。証明書を再発行しましょう」とあっさり言われる。

 接種しなければならないというのは何だったのかと言いたいところだが、気が変わらないうちに発行してもらわなくては。別の係が2人がかりで、とてものんびりと発行してくれた。もちろん、笑顔でじっと待った。再発行の手数料を約500円とられた。

 各社の特派員たちがアフリカの事件や紛争を懸命に追っている時に、黄熱病カード一つで右往左往していてみっともない。

 というようなことを飛行機の中で書きつつ、うつらうつらしていると、約4時間で南アフリカに着く。良いところだけ見れば、ここはアフリカの中のヨーロッパで、来るといつも調子が狂う。

 サッカーW杯で乗った人も多いだろうが、空港からヨハネスブルクの中心部までは快適な電車ができていた。その電車に乗って、駅のすぐそばのホテルに入る。でも、来たかったのはこの国ではない。ここでまた、ビザの申請から始めなくてはならない。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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