メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

11月19日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

新着記事一覧へ

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

エイズ予防、サッカーで学び、広げる @ハボローネ

写真:ショッピングセンターには、政府系の機関も併設されていた=5日、ハボローネ、江木慎吾撮影拡大ショッピングセンターには、政府系の機関も併設されていた=5日、ハボローネ、江木慎吾撮影

写真:サリム・ケゴディレさん拡大サリム・ケゴディレさん

 不明を恥じなければならない。前日に市の中心部に行って、あまり変わっていないと思ったが、改めて周辺部を車で回ってみると、新しいモールやショッピングセンターがいくつもできていた。まだ信号が点灯していない新しい道路も何カ所かある。

 モールやショッピングセンターは、マダガスカルで見たものに似ている。ケニアのものより規模が少し小さい。警備はほとんどないに等しく、駐車料金も取らないところがケニアとは違う。

 きょうは、エイズ問題について朝から取材依頼の電話を入れたが、なかなからちがあかないので直接、事務所に押しかけることにした。ただ、政府系の機関は「官僚主義ですみません。上の許可がないと答えられない」ということで、この日は結局だれにも話は聞けなかった。

 ボツワナは日本の1・5倍の面積に200万人を少し超える人口しかない。アフリカには珍しく英国からの独立以降、安定した政権が続き、ダイヤモンドの輸出を中心に経済発展を遂げてきた。

 そんな国を襲ったのが、エイズだった。アフリカでもエイズウイルス(HIV)感染率が最も高い国の一つとなり、2001年には当時のモハエ大統領が「存亡の危機」と言うほど、国の根幹を支える労働人口が侵されていった。

 ボツワナはHIVとの闘いに入った。HIVの進行を防ぐ抗レトロウイルス薬を必要な感染者に投与することを他の国に先駆けて決めた。2016年にはHIVの新たな感染者をゼロにするという目標を掲げてきた。

 一昨年の国際エイズデー(12月1日)には、カーマ現大統領が抗レトロウイルス薬治療の導入によって、エイズ関連の死者を67%減らすことができたと述べた。16年には死者をゼロにしたいとも話した。

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)の推計によると、ボツワナのHIV感染者は01年の27万人から11年の30万人に増えている。新たな感染は01年の2万7千人から減ってはいるが、まだ年に9千人ほどいる。症状の進行を抑える治療によって死者が減り、結果的にHIVとともに生きる感染者が増えている。

 HIV対策に国が拠出する費用は、国家予算を圧迫する。カーマ大統領が今となっては達成困難ともいえる「16年に感染者ゼロ、死者ゼロ」の目標をおろさないのは、このままHIV対策費を払い続けるわけにはいかないという台所事情もある。

 新たな感染者を減らすには、これまでの行動を変えることが必要だった。一時期、25歳から49歳の妊婦の4割がHIVに感染していた。その背景には、複数の相手との無防備な性交渉や、その主導権がもっぱら男性にあったことなどが挙げられる。

 そうした行動、慣習を若者の中から変えていこうと99年に自主的につくられたNGOが青年保健機関(YOHO)だ。国と連携しながら、健康的な生き方を小学校のうちから身につけようと様々なプログラムを展開している。

 プログラムといっても、導入はゲームだ。たとえば、サッカーで利き足ではない足を使って、地面に置かれたコーンをよけながらドリブルする。コーンにぶつかったら、病気にかかったことにする。三つ目のコーンにぶつかったら、HIVに感染したことなる。

 感染すると、そこで腕立て伏せをする。体に負荷がかかることを学ぶ。一緒のチームにいる子たちがみんな同じように腕立て伏せをして、1人の病気が全体に影響を及ぼすことを学ぶ、という具合だ。

 エイズに関する問題をプログラムの前と後とに出して、正しい知識を身につけられるようにする。全体で10歳から14歳の子どものエイズに関する知識を10%向上させることを目指しているという。こうして、教育を受けた若者が、今度はプログラムを広げる側として参加し、さらに教育を広めていこうというのが狙いだ。

 学校の時間外に週2回というプログラムに、これまでに30万人が接してきた。そのプログラムに引き込まれ、健康的な暮らしができるように人の行動を変えるという目的に魅せられて、サリム・ケゴディレさん(22)は高校を卒業するとYOHOに加わった。08年のことだ。

 ハボローネ南部の農村に育ち、幼いころ両親の離婚によって、母親が苦労するのを見て育ち、イスラム教の団体の支援を受けながら学校に通った。自分自身の生き方がどう転ぶかわからない不安定な時期にYOHOのプログラムに参加して、自分も人の生き方を変えるために力を尽くしたいと思うようになった。

 今は子どもたちに接するメンバーのトレーニングを任されているが、YOHOの運営資金は援助団体などに頼っているため、短期の契約という不安定な身分だ。それでも、ずっと人の生き方にかかわる仕事がしたいと思っている。

 単刀直入に聞くけれど、あなたたちが活動することで、ボツワナのエイズ状況の一体何が変わるのか。唐突な問いに彼は唐突に比喩で答え、にわかに理解できずに聞き直さなければならなかった。

 若い彼の答えを聞いて、人の生き方にかかわりたいというのは、そういうことなのかと思った。彼はこう言った。

 「雨を降らすことはできません。でも、雨が降るときに、それを待ち受けていることはできるのです」

     ◇

■アフリカ特派員の時に書いたエイズの記事です。

《広がるエイズ、アフリカ苦闘 効果的対策なく(世界発2002)》

 アフリカは世界のエイズウイルス(HIV)感染者の7割以上を抱える。だが効果的な対応策を打ち出せないまま、エイズは働き盛りの人たちを襲い、子どもにも深刻な影響を与えている。「国の存亡をかけたエイズとの戦い」を宣言する国もある。

○親相次ぎ失い、学校も通えず

 ケニアの西端にあるランガラ村のルース君(10)は、一昨年エイズで父親を亡くした。母親も倒れ彼が一家を支えた。

 午前5時ごろ起きて水くみに行く。30分かけて1日分をくむ。母親の体をふく。3歳の弟を含めた3人分の食事をつくる。洗濯をすませ、弟を援助団体に預けて小学校へ。「学校に行くのが楽しい」とルース君は小さな声で言った。唯一の息抜きの場だったのだ。

 母親もHIVに侵されていた。結局昨年7月に亡くなった。悲しいけれどルース君の生活は少し楽になった。親せきに預けられていた8歳の妹が家に帰り、にぎわいも少し戻った。だが10歳で家族を背負う責任は重い。

 ルース一家は援助団体「クリスチャン・チルドレンズ・ファンド」に支えられている。エイズ対策担当のワリンガさんによると、ランガラ一帯では、エイズウイルス感染率が推定38%に及ぶ。半径約10キロの地域に565人の孤児がいる。

 人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」は昨年6月、「HIV・エイズとケニアの子どもの人権」という報告をまとめた。特に、学校に通えない子どもとストリートチルドレンの急増の背景に、エイズまん延があると指摘した。 

○女性の地位の低さにも一因

 アフリカでエイズが広がった要因として、女性の地位の低さが指摘されている。ウイルス感染で最も多いのは男女間の性交渉とされる。男性が多くの女性と性交渉を持つことが力の象徴と見なされる地域が多い。避妊を嫌う男性の手前、女性がコンドームの使用を言い出しにくい状況もあった。

 ケニア西部などでは、10代の女性の感染率が同年代の男性の感染率より著しく高い。性の知識のない若い女性が教師など年上の男性との性交渉で感染し、後に同年代の男性を感染させるという傾向を援助団体などが報告している。感染した母親から子への感染も、大きな問題になっている。 

○進行抑制薬を感染者全員に

 アフリカで最も豊かな国の一つとされる南部アフリカのボツワナがエイズ対策に乗りだしている。15〜49歳のエイズウイルス感染率は36%と推定され、世界で最も感染率の高い国といわれる。同国政府は、すべての感染者を対象に、症状の進行を抑制する「逆転写酵素阻害剤」という薬を使った治療を、2月に四つの都市、村で導入した。5年以内に全国に広める計画だ。16年までに新たなエイズウイルス感染者をゼロにするという目標も打ち出している。

 昨年10月、国会への所信表明の中でモハエ大統領は「我々が国民として存続できるかどうかの瀬戸際にある」と語った。

 逆転写酵素阻害剤はエイズを完全に治療するわけではない。しかし現在、ウイルスに感染した状態からエイズの発症を抑制する、最も効果的な治療とされる。ジョイ・フマフィ保健相は「全感染者への投与には、膨大な予算が必要だ。だがエイズはこの国の労働人口を奪い、経済を破壊している。選択の余地はない」と言う。

○ワクチン開発、臨床実験段階

 ナイロビ大学の一角に「ケニア・エイズワクチン計画」本部がある。英オックスフォード大などと連携し、究極のエイズ治療、ワクチン開発を目指す。同計画によるワクチンの候補が、昨年アフリカで臨床実験段階に入った。

 順調に行ってもケニアのワクチンができるのは5、6年後という。ナイロビ大学のオム・アンザラ医師(40)は「一番の問題は資金。アフリカの国々は、こうした研究開発を軽視している。一番エイズについての資料のあるアフリカで、資料を十分にいかした研究ができないのがもどかしい」と話した。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

PR情報
検索フォーム

注目コンテンツ

  • 写真

    【&BAZAAR】小型の刺繍専用IoTミシン

    スマホ操作で刺が入れられる

  • 写真

    【&TRAVEL】8000年の歴史持つワイン

    ジョージア料理はワインのお供

  • 写真

    【&M】5億人の女性を救った男

    映画『パッドマン』試写招待

  • 写真

    【&w】旬のサバで炊き込みごはん

    冷水希三子の何食べたい?

  • 写真

    好書好日クイーンの人気は日本発

    女子が生み出したロック熱

  • 写真

    WEBRONZA旧米軍用地の原状回復費は?

    今日の編集長おすすめ記事

  • 写真

    アエラスタイルマガジン医者いらずのスーパーフード

    京橋千疋屋の梅干し ふくふく

  • 写真

    T JAPAN日本語の魔術師、松本隆の挑戦

    シューベルト歌曲の日本語訳

  • 写真

    GLOBE+台湾で開かれなかった門戸

    伊藤壇さん「アジアの渡り鳥」

  • 写真

    sippo街に暮らす耳カットの猫たち

    コミュニティーキャットって?

  • 働き方・就活

  • 転職情報 朝日求人ウェブ