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支払いはドル、おつりはランド @ジンバブエ・ハラレ

写真:ハラレの夕暮れ=12日、江木慎吾撮影拡大ハラレの夕暮れ=12日、江木慎吾撮影

 ヨハネスブルクのジンバブエ総領事から、携帯電話にテキストメッセージが届いたのは11日午後2時ごろだった。ローズバンクという、大型モールにあるホテルの部屋でポテトチップスを食べ、コーヒーを飲みながらこの原稿の前の回の原稿を書いていた。

 「本国の情報省から、入国の許可が出た」というメッセージだった。ボツワナからも連絡は入れていたが、タイミングのよい連絡だ。さっそく総領事に電話をすると、許可は出たけれど正式な書類が届かないので、少し待ってほしいとのことだった。届いたら連絡するということだったが、どれぐらい待てばいいのか。

 「あす入国したければ、たぶんその準備を進めて大丈夫だ」という。飛行機の切符の手配を進める。領事館は4時半までしか開いていないので、それまでに書類が来るのか、それとも翌日、飛行場に行く前に受け取るべきなのか。

 ヨハネスブルクとジンバブエの首都ハラレを結ぶ便は、日に何便かある。遅い時間の便をとりあえず押さえ、原稿を書きながら連絡を待った。書き終えて午後4時になっても連絡が来ない。ここから総領事館までは少なくとも30分かかるので、「きょう領事館に行って待つべきか、明日朝に受け取りに行くべきか」とメッセージを送ると、「いま来てくれ」と返事がきた。

 ちょうど雷雨になって、あちらこちらで信号の機能が停止し、渋滞になっていた。タクシーの運転手はあっちへこっちへうかいしてくれたが、どこも渋滞だ。空には大きな二重の虹がかかった。ナイロビで見て以来の虹だった。

 総領事がちょうど車で帰宅しようという瞬間にたどりつき、無事に書類を受け取った。それにしても、随分と親切な外交官だ。個人的な体験がその国の印象を左右することだってある。みんなこんな感じだといいのに。

 12日朝は、もってきた名刺が切れてきたので、近くのネットカフェに行ってコピーして、名刺大に切断する。そのまま、もう何度も乗った電車ガウトレインで空港に向かう。快適で便利だけれど、採算があうのか心配になる。4両編成しかないが、満員だったためしがない。

 きょうの空港は人でごった返している。サッカーのアフリカ選手権を終えて、帰国の途につく応援団や関係者がいっぱいいる。

 アフリカの空港の中には、無料でインターネット接続のできるところが何カ所もあったが、南アフリカのようにネット会社が林立しているところではそうはいかない。仕方ないので、1時間分の接続をクレジットカードで決済し、出発を待つ間メールをチェックして原稿を書きかける。

 アフリカのほかの国の空港で、まとわりついてくる人たちをふと思う。タクシーは? SIMカードいらないか? ドルを両替するだろう? 荷物を持ってあげよう。すごく煩わしい。

 南アフリカではこういうことがない。東京や欧米の都市のようにだれとも接することなく空港からホテルへ、ホテルから空港へと移動できてしまう。それは進歩なのだろう。でも、個人が繭にくるまったような現代都市の風景が広がっていくのは、味気ないとも思う。

 すごく手前勝手な感慨だ。自分は繭にくるまった暮らしをふだんしていながら、それによって失ったものを、これから発展しようという国に求めて懐かしがっているわけだから。

 飛行機は予定通り飛び立ち、午後4時すぎにハラレ空港に着いた。ジンバブエはたばこの産地なので、昔はターミナルでもたばこを吸うことのできる数少ない空港だった。吸わないので関係ないけれど。今は喫煙コーナーが設けられていた。

 入国許可の書類に、ただちに記者登録をするようにと書いてあるが、きょうはもう無理だ。空港に携帯電話の会社の店があったので、そこで現地のSIMカードを買う。今回は衛星電話を持ってこなかったので、ついでにパソコンをつなぐモデムも買った。

 2000年ごろからのジンバブエは恒常的なインフレ、それも徐々に半端ではないインフレに悩まされた。いまはだいぶ緩和したようだ。それはふだん、米ドルを使うようになったから。携帯電話会社の支払いも米ドルだし、タクシーの支払いも米ドルだった。インフレが収まったのは何よりだが、自国通貨をいわば放棄する状況は、正常であるはずがない。

 ジンバブエは、人種差別政策を推進したローデシアから1980年に独立した。独立闘争を率いたのがムガベ大統領で、以後33年にわたって同国を率いている。

 独立後は白人と黒人の宥和(ゆうわ)政策を推進、資源にも農地にも恵まれ、アフリカの優等国の一つだった。昔のハラレはナイロビよりも近代的な都市といってもよかった。

 だが、コンゴ(旧ザイール)内戦への出兵によって財政はひっぱくし、白人農家の土地を収用して黒人に与える政策を進めたため農業基盤も揺らいだ。経済は坂を転がるようにはたんの道を歩み、大統領の強権的な姿勢は欧米を完全に敵に回した。その米国のドルに助けられているのだから、さまにならない。

 ホテルに着いて部屋に入ると、ドアの警戒用のかぎは壊れている。金庫が置いてあるが、壊れている。タンスの扉が閉まらない、冷房は壊れている。椅子は座る部分が傾き抜けそうだ。頻繁に停電もする。

 11年前から、時間が止まってしまったようだ。それがこのホテルに限ったことなのか、周りの全体がそうなのか、それはもう少し見てみないとわからない。

 ホテル近くのガソリンスタンドに、買い物に行った。水と牛乳と果物のジュースとビスケットを買った。9ドル50セントと言われて、10ドル札を払った。おつりはどうするのだろうと思ったら硬貨を2枚、渡された。南アフリカの2ランド硬貨2枚だ。そう、米ドルのほか、南アフリカのランドをこの国は通貨として使っている。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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