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11月18日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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人生を賭けた試験、背後に政府の人心掌握術? @ハラレ

写真:ネバンジ・マダンヒレさん=いずれも15日、ハラレ、江木慎吾撮影拡大ネバンジ・マダンヒレさん=いずれも15日、ハラレ、江木慎吾撮影

写真:街中に咲くホウオウボク拡大街中に咲くホウオウボク

 先日のジンバブエの教育の話をもう少し。2012年のO(オー)レベルの試験の合格率が前年を下回り、18・4%にとどまったことについて、メディアは「犯人捜し」に忙しい。安定した生活を求める教師の流出が続き、教科書さえ十分に行き渡っていないと言われているが、とどのつまりは、経済危機の影響で教育予算が十分になかったということになる。

 そんな中で、独立系の新聞スタンダードは一風変わった社説を2月10日に掲げた。「Oレベルの結果 子どもを責めるな」と題し、試験に子どもが合格しないのは、政府が合格させたくないからだとしている。真意を聞くため、社説を書いたネバンジ・マダンヒレさん(51)を訪ねた。

 スタンダード紙は、政権からにらまれている。あれこれ理由をつけられて、記者が拘束される。金曜日が多い。土日がはさまるため釈放が早くても月曜日になるからだという。

 マダンヒレさんは昨年3度、そういう目にあった。だから、金曜日はなるべく事務所にいたくないと話した。事務所は鉄格子の扉と警備員に守られている。

 まず、認識を改めなければならない。Oレベル試験を日本の大学入試センター試験になぞらえたが、とてもそれにとどまらない。「Oレベルは、生きるか死ぬかの試験なのです。通れば、教師、看護師、警察官など、職業につける可能性が広がります。通らなければ、道は閉ざされるのです。貧しい親は必死になって子どもに投資します。貧困からの脱出の道をそこに見るからです」とマダンヒレさんは言う。

 合格しなければ、貧困から抜け出すどころか、投資した分ますます貧しさが重くのしかかることになる。試験に失敗した子の不出来を嘆くのは、どこの国の親にも共通するが、嘆きは一層深い。

 マダンヒレさんによれば、親が子の不出来を嘆くのは、政府の思うつぼ。実は、高等教育を受けた人間にすら職を与えられない国の現状から人々の目をそらそうとしているだけだと。

 今の試験のあり方は、植民地時代への一種の先祖返りだとマダンヒレさんはいう。ジンバブエの独立前、白人政権のローデシアは人種差別政策を推し進めた。その差別が如実に表れたのが教育だった。黒人の高等教育を受ける権利を制限するため、白人政権は黒人学生に狭き門を設定した。

 その反発から、政権を握ったムガベ氏は国民皆教育の思想で多くの学校をつくった。ジンバブエの教育水準は高まり、一時は識字率が100%近くになった。

 だが、経済が停滞し、恒常的に失業率は高くなった。大学を出ても職がないという状況が生まれ、大学が政権の批判勢力の温床になった。危機感を強めた政権は学生への抑圧を強め、大学に入る人間を制限するようになった。

 以来、その窓口とも言えるOレベル試験の合格率は低迷し続けている。かつて黒人の高等教育を受ける権利を制限したように、高等教育を受ける人たちを絞り込んでいるというのだ。高等教育を受けた失業者があふれて政権への不満分子にならないように。「チャンスは与えたが、あなたはそれを生かせなかった」と失敗した学生たちに突きつけているのだとマダンヒレさんはいう。

 一方でOレベル試験の権威も揺らいでいるらしい。裕福な家庭は、Oレベルではなく、英国の試験を子どもに受けさせる傾向にある。その方が信頼性が高く、国際的な企業などは表明こそしないものの、採用をめぐり英国のテストの結果に重きを置いているという。

 ジンバブエに着いた翌朝、試験結果をみんなが嘆き、ああでもない、こうでもないと言っているのをテレビで見た。その時は、どこにもある教育批判、受験の悲喜劇かとぼんやり思っていた。聞いてみると、教育の質の問題や親の嘆きとは別の問題も潜んでいるらしいとわかった。

 日本でも、若い人たちの試練の季節がもうしばらく続く。日本の若者は、大きな流れにほんろうされず、自分の未来を見据えられているのだろうかと、ふと思う。自分はかつて、ただ流されただけだったと反省しながら。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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