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09月18日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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サルの燻製とアジのいき造り、何が違うのか… @バンギ

写真:横たわるブッシュミートはともかく、座り方を正したくなるきょうこのごろ=いずれも23日、バンギ、中野智明氏撮影拡大横たわるブッシュミートはともかく、座り方を正したくなるきょうこのごろ=いずれも23日、バンギ、中野智明氏撮影

写真:ネコ科の何からしいけれど拡大ネコ科の何からしいけれど

写真:えいさ、ほいさ拡大えいさ、ほいさ

写真:そんなに積まなくても……拡大そんなに積まなくても……

写真:そんなに積まなくても……拡大そんなに積まなくても……

写真:歴代大統領の像の上にたなびく、中央アフリカの国旗拡大歴代大統領の像の上にたなびく、中央アフリカの国旗

写真:撮って、という人もいる拡大撮って、という人もいる

 中央アフリカにはこれまで来たことがない。2000年から02年のナイロビ支局時代、記事を書いた記憶もほとんどない。調べてみると、クーデター騒ぎや象牙の密猟などの短い記事があるばかりだ。

 そんな国に来たのは、ちょうど昨年のクリスマスあたりから年始にかけて、この国の反政府勢力が首都バンギを目指して進撃し、国軍の抵抗もあまりないままに次々と勢力範囲を広げて首都に迫ったからだ。

 時を同じくしてマリでも北部を支配した反政府武装勢力が南進し、拠点都市を次々と制圧した。この両国ともフランスが旧宗主国にあたる。中央アフリカ政府もマリ政府も、フランスに援軍の派遣などを要請した。

 フランスは中央アフリカに対しては介入を拒否、マリには軍事介入に踏み切った。マリではフランス軍が熱烈な歓迎を受けた。中央アフリカでは介入しなかったフランスの大使館に向けて投石する市民がいた。

 マリでは戦闘が今も続いている。中央アフリカは反政府勢力と政府の間に和平合意ができて、平穏が戻っている。ここ2カ月ほどの間に、フランスを巡って対照的な歩みをこの両国はみせた。だから、さしあたっての最後の訪問国を考えたとき、中央アフリカに行き着いた。

 ちなみに、ここもマリも内陸国だが、国境は接していない。中央アフリカは名前の通り、アフリカのど真ん中という印象がある。資源にも、動植物にも恵まれていて、日本より広い国土に、朝日新聞を購読している人の数より少ない人口しかない。

 歴史を振り返ると、独立後に帝政を敷いた時期があり、クーデターもたびたび起きている。それらへのフランスのかかわりも指摘され続けてきた。

 四国に少し似た横長の国の西南、コンゴ(旧ザイール)との国境沿いに首都バンギはある。コンゴ共和国にも近い。ウバンギ川沿いにある川の港だ。ウバンギは、アフリカ第2の大河コンゴ川に注いでいる。

 目立つ高い建物はほとんどなく、幅の広いほこりっぽい道路と、道沿いの屋台のような小さな店が延々と続く。日本で言えば里山といった感じの小さな丘が周囲に見える。

 一番暑い季節でもないようだし40度には届いていないけれど、まあ暑い。歩くと自然と視線は下に、足を引きずるようになる。夜間には電力の供給がストップしてホテルの冷房も止まり、寝苦しくなる。余計に足取りが重くなる。

 初日にホテルの近くを散歩していて、後ろに気配を感じて振り向いたら、若者が背中のデイパックをあけるしぐさをしていた。

 本当にあけようとしていたのか、悪ふざけなのかわからない。こういう時にどう反応するかは難しく、いきなり怒ればけんか騒ぎになりかねない。それを相手が誘っているとすればやっかいだ。そこで気づかないふりをしてさっとデイパックを持ちかえる。

 この国で何をするのか。とりあえず、反政府勢力が制圧したままの場所に行けそうだというので、そこを目指すのが第一の目標だ。でも、土日にさしかかってしまい、ただでさえ人が活動しない日に入って「不気味な静けさでした」と書くのもなんなので、平日に訪れることにした。

 土曜日の23日は、いつもするように街をぐるっと車で回って、市場を訪れることにした。まず市内を回ると、当然かもしれないが、この国の国旗を随所で目にする。特徴のある旗で、4色の横のしまの中央にずんと赤い線が縦に走る。

 「去年(こぞ)今年貫く棒の如(ごと)きもの」と、全く脈絡も知識もなく虚子の句が浮かぶ。旗の真ん中を貫く棒は、独立のために流された血、その独立と自由を守るために流される血を表すのだという。

 日の丸も何カ所かに掲げられ、それなりに日本の存在感をかもし出しているのだが、どの旗も赤い丸が小さく描かれ、位置も真ん中にない。どういうことなのか。でも、並んである星条旗がとても小さかったこともあって、目くじらをたてることではないかと、いい加減に思う。

 市場に向かう。ここらの人々は野生動物の肉、ブッシュミートを食べる。コートジボワールではヤマアラシらしきものを知らずに食べたっけ。後に姿を市場に探しに行ったが、その時は見つけられなかった。

 街の中心部から12キロにある、通称「PK12(ドゥーズ)」の市場に着いた。土曜の午前中、それほど人はいない。でも、ヤマアラシはいた。コートジボワールでよく見たヌートリアのようなのもいる。ダイカと呼ばれる小型のアンテロープ、アルマジロ、ニシキヘビなどが、内蔵を抜かれ、内蔵のあった部分に棒を渡して「開き」のようにされた後、燻製(くんせい)にして売られている。

 そして、サルもいた。

 すすけて種類もわからないけれど、60センチほどの小さなサルが小さな手をぐっと握りしめるようにして死んでいるのを見ると、いたたまれなくなる。でも、自分たちに似ているからと感傷的になるのは勝手だが、食する人々の事情もあるだろう。ちなみに市場で売っている女性たちは、サルが一番おいしいと言っていた。

 食べる時は、ピーナツペーストと、ココの葉を刻んで一緒に煮て食べるらしい。ブッシュミートを売っている女性たちが、まな板を足の親指で上手に固定し、そのココの葉を束ねて見事な千切りにしている。

 燻製といっても、大きなドラム缶の上に並べて、下からいぶしているだけで、煙にも香ばしさは感じられない。それどころか、様々な肉の混ざったにおいが漂って、悪酔いしそうになる。そういえば、朝から何も食べていない。

 ボツワナで食べたイモムシも売られていたが、ずっと小さく、すぐにイモムシとは判別できない。屋台の台の上に寝そべるようにしている売り子のお姉さんたちが「買わなきゃだめよ。何で買わないのよ」と声をかけてくるけれど、きょうは遠慮しておく。

 燻製では何の動物だか見分けがつかないと、行動をともにするフォトジャーナリストの中野智明さんが言う。午後には燻製になる前の状態の動物が運び込まれるというので、気乗りはしないものの、午後に出直すことにする。

 にわかに雲が空を覆ってきた昼下がりに再び市場へ。サルが一匹、哀れな姿で内臓を取り出されようとしていた。「写真はダメ」ときつく言われる。

 きょうは獲物が少ないらしいが、ジャコウネコのような動物も横たわっている。こういう姿を見ると切なくなり、気持ちが悪くなる。でも、ちょっと比べるのはおかしいけれど日本でもいき造りなんて言って食べるからなあ。

 初めてピクピク動いているアジを食べた時のことを思い出す。もう30年ほど前のことだ。出されたから食べたが、味などわからなかった。泣きたい気分で食べたその感覚は、たぶん大きく失われている。

 種の保護、密猟といったブッシュミートにつきまとう問題を別にすれば、生きものを食べるくせにその種によって感傷的になったり嫌悪したりするのはおかしい。クジラをめぐる議論では常々そのように思う。でも、ブッシュミート市場でサルを見かけると、引いてしまう自分がいる。つくづく勝手なものだと思う。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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