メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

11月18日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

新着記事一覧へ

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

丸木舟で川へ 船頭小唄とともに @バンギ

写真:エレファントノーズフィッシュ=いずれも24日、中野智明氏撮影拡大エレファントノーズフィッシュ=いずれも24日、中野智明氏撮影

写真:きれいに並べて、と拡大きれいに並べて、と

写真:しおもかないぬ、いまはこぎいでな。おぼつかない手つきで拡大しおもかないぬ、いまはこぎいでな。おぼつかない手つきで

写真:引っ張るというより、引っ張られているよう拡大引っ張るというより、引っ張られているよう

写真:大漁! いえいえ……拡大大漁! いえいえ……

写真:こんなもんに……拡大こんなもんに……

写真:こんなもんだった拡大こんなもんだった

写真:川の中に踏ん張り、願いにも似た一投拡大川の中に踏ん張り、願いにも似た一投

写真:何はなくとも、笑顔が一番拡大何はなくとも、笑顔が一番

写真:このたえなる均衡拡大このたえなる均衡

 24日の日曜日、ある取材依頼の結果を待つ間、朝のウバンギ川に行ってみることにした。中央アフリカはウバンギ川とシャリ川の間に国土が広がるので、フランスの植民地時代はウバンギ・シャリと呼ばれていた。独立前後に今の名前になった。

 川から揚がった魚が道ばたで売られていたので、立ち寄る。エレファントノーズフィッシュが並んでいる。地元ではモルミルドと呼ばれる。

 その姿をみて名前を聞けば、説明はいらない。もちろん魚に鼻があるわけではなく、この口で砂の中にいるえさを食べる。モルミルドというのは、発電魚の名前で、この魚も弱い電気を発するらしい。

 そのほかにも奇妙な姿の魚が並んでいたけれど、ゾウの鼻があまりに印象的でほかの記憶を寄せ付けない。売られている以上、食用でけっこうおいしいらしい。通訳が5匹を買い求めた。

 市場を離れて、川端におりる。漁を終えた男たちが、丸木舟の縁に腰掛けて網や針の手入れをしている。その一人に声をかけて、舟に乗せてもらうことにした。

 ウバンギは朝の光の中を、穏やかに流れていた。小さな丘が川の近くに迫り、流れには岩が多く突き出ている。岩伝いにわたれそうなところがあるかと思えば、幅が1キロ以上の場所もある。ところどころ人が川のまん中に立って網を打っている。

 まだ午前8時過ぎなので、さほど暑さは感じない。風はさわやかというには少し生暖かい。舟をこぐ音に癒やされる。ジョボコ、ジョボコと、かいが水中に空気を送り込む音というのは、どうしてこんなに心地よいのだろう。試しにかいを借りてこいでみたが、どうにもしょぼい音しか出せない。

 舟をこぐのは3兄弟で、父親から譲り受けたらしい。兄弟舟ということになる。演歌は別に好きではないが、鳥羽一郎さんの兄弟船は「親父(おやじ)のかたみ」だった。この兄弟の父親は存命だが、引退したらしい。

 長さは8メートルほどか。イロコという、クワ科の木をくりぬいた丸木舟で、遠目にはとても危なっかしく見えるけれど、乗ってみると安定感がある。たたくと、とても硬い音がする。

 舟の横にはコンゴ(旧ザイール)の村の名が刻まれている。バンギの対岸はもうコンゴで、そこから買ってきたらしい。かたや中央アフリカの首都だが、コンゴの村の川辺の方がにぎわっている。

 中央アフリカ側の岸に沿って上流にこいだ後、岩の間の瀬に乗る形で下流にへさきを向ける。

 下流に向かうと向かい風になって、風が少しさわやかに感じる。途中、中野智明さんがカメラを向けると怒る漁師もいる。前日の市場もそうだけど、写真を撮るのは結構、気を使う。

 丸木舟3兄弟は昨夜からの漁を終えたところだった。はえ縄のように、たくさん針のついた糸で釣るのだという。このあたりでは網を仕掛ける漁師もいれば、針で釣る人もいる。キャピタンという、スズキの仲間らしき魚が最も高級だという。フランス語圏でたびたび食べたが、淡泊な味ではあった。

 今は川に水がなく、漁には向かないのだという。11月から1月15日までがいい時期だと3兄弟はいう。15日というところが妙に具体的だ。そういえば、川に突き出た岩には、今の水面から1メートルほどの高さに水の跡が残っていた。

 中央アフリカは世界で最も貧しい国の一つで、平均寿命も短い。もっとも、今まで訪れてきた国の多くが同じ状況にある。それにしても、漁師の多くはすごく若くみえる。3兄弟はコヤザンボ一家だそうだが、みんな20代、漁師になって12年だという。

 川の小さな中州で男が3人、縄を引いていた。近くに舟をつけて、みんなで中州に移った。3兄弟とともに縄を引いた。縄というよりひもの細さだが、ぐっと重い。みんなは裸足かサンダルなので川中に入って引けるけど、こちらは水に弱い靴で砂州の上のほんの2メートルほどでしか引くことができない。

 網は400メートルほどの長さがあると言っていたが、引いてもなかなか先が見えてこない。だが、そのうちに浮きにつけたビニールのしるしが見えて「あれが網の真ん中だ」という。ずいぶん引いている方向と違うところに見える。

 と、横の川上を見ると、そこにも3人の男がいて縄を引いていた。なるほど、網の端と端を2カ所から引いていたわけだ。まあ、少し考えればそれぐらいわかってもよさそうなものだけど。

 川上にいた3人もどんどんこちらに寄ってきて、いよいよ網は小さくなった。ここまできて大漁であれば、網の中で魚がはねそうなものだと思いつつ、じっと見やる。何もしていないのに、たくさん魚が見たいと思う。

 網を仕掛けたのは昨夜だった。それを力いっぱいたぐり寄せてこれでは、ただの傍観者でもため息が出てしまう。手のひらより少し小さい魚が6匹と、モロコのようなもっと小さい魚がかかったぐらいだった。

 舟同士で声を掛け合って、その声が水面を滑るようによく通って、それで笑いあって楽しそうだ。3兄弟の長兄が歌を口ずさむ。八代亜紀さんの「舟唄(ふなうた)」の情はなくて、船頭小唄という感じだけれど、何だか楽しい気分になる。

 そこで3兄弟に「漁師って楽しい?」と聞いてみた。想像していた答えではあった。

 「つらい。もっと稼げる仕事さえあれば、いつでもやめたい」

 川をわたる風が熱をはらんでくる。陽光が川面に反射して、深緑色の水を青く変える。ウバンギがかろうじてさわやかな流れを保っている間に、おかに上がることにする。

    ◇

 原稿を書き終えてしばらくして、これが「アフリカの風に吹かれて」の100本目の記事になると、朝日新聞のデジタル編集部の担当者から知らされました。

 これまでにお読みいただいた皆様には、深くお礼を申し上げます。

 ページに載っている項目を数えると100本を超えていますが、中には反省文や言い訳や説明もあります。この文と同様に丁寧語で書いたのがそれらです。そういう愚痴っぽいものを除いて100本になったということです。

 悲惨なニュースが伝えられているとき、政治や経済の大きな動きがあるとき、片隅にのほほんとしたアフリカの話を書いていて、これでいいのだろうかと思うこともありました。励ますつもりでしょうけれど、優しいデスクが「100本を目指して」と言っていたので、そこに達したと聞くとほっとします。今回の中央アフリカと、その後のケニアでとりあえず休止いたしますが、それまでの間、いましばらくおつきあいいただければ幸いです。

 「ホメラレモセズ クニモサレズ サウイフモノニ ワタシハナリタイ」

 このコラムの思いです。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

PR情報
検索フォーム

注目コンテンツ

  • 写真

    【&BAZAAR】磨き残しをアプリで可視化する

    スマホ連動型スマート歯ブラシ

  • 写真

    【&TRAVEL】叡山電車でめぐる京の紅葉

    京都ゆるり休日さんぽ

  • 写真

    【&M】ハリケーンランプの若き職人

    資料が残されていないピンチ

  • 写真

    【&w】安藤和津さんに聞く

    プラチナへの思い〈PR〉

  • 写真

    好書好日チャグムも食べた鳥飯弁当

    「精霊の守り人」の料理を作る

  • 写真

    WEBRONZAマインドフルネスってなに?

    今日の編集長おすすめ記事

  • 写真

    アエラスタイルマガジンデルタで上質なフライトを

    上空のぜいたくを堪能する旅

  • 写真

    T JAPAN復活した「フォアグラ」の魅力

    ギィ・マルタンシェフが語る

  • 写真

    GLOBE+静かに白人が動いた

    中間選挙に見えた変化の芽

  • 写真

    sippo猫の性格は毛柄で決まる?

    大学でまじめに調査

  • 働き方・就活

  • 転職情報 朝日求人ウェブ