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11月21日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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停戦ラインを目指して @ングアカ

写真:逃げた森で生まれたジェリーちゃんを抱くメルビンさん=いずれも25日、中野智明氏撮影拡大逃げた森で生まれたジェリーちゃんを抱くメルビンさん=いずれも25日、中野智明氏撮影

写真:この女の子、ネフタリちゃんも森で生まれたという拡大この女の子、ネフタリちゃんも森で生まれたという

写真:なぜか、みんなで撮影拡大なぜか、みんなで撮影

写真:ねえ、その手はどんな意味があるの?拡大ねえ、その手はどんな意味があるの?

写真:まあ、運転席側じゃないから拡大まあ、運転席側じゃないから

 急な取材が入る可能性もあるので、25日の昼はバンギにいなければならない。そこで、その日の午前中を利用して45キロほど離れたところにある、政府と反政府勢力が定めた停戦ラインに行ってみることにした。

 昨年12月、様々な反政府勢力の集まりであるセレカが国の北東部から南西に向かって進みだし、次々に拠点の町を制圧した。セレカは年末にはバンギから75キロ離れたダマラに迫り、ボジゼ大統領の即時退任などを求めた。

 この内紛はボジゼ大統領がクーデターによって政権を奪取した2003年の後に始まり、07年にいったん和平合意に達した。だが、その合意が守られていないとしてくすぶり続け、離合集散した反政府勢力の今回の進撃につながった。

 停戦ラインがダマラに設定された。ここを反政府勢力が超えたら、全面戦争になるという線だ。だが、その後、停戦合意が結ばれる前に反政府勢力はさらに前進し、バンギまで45キロのバゴーが新たなラインになったのだという。

 ホテルを午前7時過ぎに出発、最初に訪れたブッシュミート市場を通り過ぎてしばらく行くと、マンゴー、バナナの木の向こうに林が広がるようになる。道は細いが、市内よりはるかにいい。穴がない。すれ違う車は少ない代わりに、物と人の積み方が尋常じゃない。アフリカで積み過ぎの車はよく見るけれど、ボンネットにまで人が座っていることはあまりない。

 村にさしかかると、道沿いに露店がある。国や地方によって道と店の距離に差がある。ここは道のすぐ脇に立っている。たぶん、それほど車が通らないということだろう。

 途中、窓を開けるとかすかにセミの声が聞こえる。アブラゼミと同様に抑揚がないけれど、少し高くて深く響く。

 出発して45分ほど、軍の検問で止まったら、車の後輪がパンクしていた。あんなに道はよかったのに。そこがバゴー。目指していた停戦ラインだった。

 兵士らにパスポートと通行許可の提示を求められる。通訳がそれらを持って兵士たちのところへ向かう。

 交渉とパンクの修理を待つ間、検問のところに立っていると、女性がかごを運んできた。緑と赤の混ざった色が見えたので、マンゴーでも売っているのかと思ったが、よく見ると鳥だった。クチバシが赤く、体が緑、顔はどう見てもハトだ。食用に売られている。

 通訳が戻ってくると「1人2500フラン(500円ほど)を払わされた」という。そのくせ、ここから10キロに反政府勢力がいて危険なので、この先には行けないといわれたらしい。

 おかしい。じゃあ、なんでお金を払わないといけないのか。色々と口実を設けて取ろうとしているだけなのでは。通訳に再び交渉に行ってもらうと、この先5キロほどなら行ってもかまわないことになった。

 その5キロ先にあるングアカ村にたどり着いた。道路から家が数軒見えるぐらいで屋台も出ていない。道ばたに、燃料用に売る木が横たわっている。

 車からおりる。かすかにセミの声が聞こえるぐらい。バンギより標高が200メートルほど高く、それほど暑さを感じない。停戦ラインを越えているので、一応、ここは反政府勢力の勢力圏ということになる。ちなみに、停戦合意後も反政府勢力は制圧した都市を政府軍に明け渡していない。合意が守られるのを見届けるためらしい。

 物を売ろうと寄ってきた女性たちに話を聞いた。

 昨年の12月26日に武装勢力がこのあたりまで来たと女性たちは言った。だが、集まった10人ほどのだれもその姿を見ていない。武装勢力が来ると聞いて、三々五々、周囲の森に逃げたからだ。

 森で木を組んでわらの屋根をのせた小屋を立て、雨をしのいだという。「この子はそこで生まれた」とビヤンバカ・メルビンさん(21)は言って、生後1カ月の男の子、ジェリーちゃんの顔をこちらに向けた。森の中だったので、ナイフでへその緒を切ってもらった。

 ジェリーちゃんが生まれた時は、すでに政府と反政府勢力の停戦合意が結ばれていたはずだ。でも、怖くてなかなか家に戻れなかったのだと1人が言うと、みんなうなずく。

 男たちが様子を探るためにたまに家に戻り、もう大丈夫となって徐々に戻ってきたという。その男たちの姿はないが、畑に出ていると女性たちは言っていた。

 トマトとマニョク(キャッサバ)とコーンを栽培し、燃料となる木、ホロホロ鳥などを細々と売る。そんな村の彼女たちに今の望みはと尋ねると、平和という当たり前の答えではなくて、暮らし向きを何とかしてほしいという答えが返ってきた。

 いま反政府勢力がここまで来ることはない。政府軍は時々、パトロールに来る。大丈夫にはなったけれど、少し不安は感じる。それよりも、人が怖がってここまで来なくなり、貧しい村が一層貧しくなったと、マンデオリ・ジョルジーンさん(42)は言った。

 停戦ラインだと現地で説明されたバゴーが、実はそうではなかったと知るのは、もう少し後になる。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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