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大統領と面会、建前と少しの本音 無風の官邸 @バンギ

写真:フランソワ・ボジゼ大統領=いずれも26日、中野智明氏撮影拡大フランソワ・ボジゼ大統領=いずれも26日、中野智明氏撮影

写真:こわもてがゆるむ一瞬も拡大こわもてがゆるむ一瞬も

写真:中央は通訳のウィリアムさん拡大中央は通訳のウィリアムさん

写真:部屋の外まで案内してくれた拡大部屋の外まで案内してくれた

写真:取材が終わって拡大取材が終わって

 一国の大統領にインタビューをして言い訳するのも変だけど、このコラムは本来、そういう趣旨でやっているわけではない。ただ、通訳をしてくれているウィリアム・バンサン・ビヤンベヌさん(37)が「私に任せれば大統領インタビューはいつでもとれる。友だちだから」と言うので、そこまで言うならと頼んだ。ちなみにウィリアムが名字、ビヤンベヌが名前になる。

 3日間、連絡を待ちながら取材する中途半端な日々を送ったが、そのかいあって26日、大統領に会うことができた。わけもないと言っていたウィリアムさんは、大変な喜びようだ。

 前夜に26日の午前に会うという連絡が大統領本人からウィリアムさんにあった。そこで、この日は予定していた反政府勢力の支配地への取材を延期して官邸からの連絡に備えた。

 ウィリアムさんは縦じまのスーツに身を包んでいる。おなかは包みきれないほど出ているけれど。こちらは、いつものサファリジャケットしかない。

 昼過ぎになった面会時間に合わせて大統領官邸へ向かう。門で来意をウィリアムさんが告げると、何を確認するでもなく車のまま門をくぐる。小学校の校庭のような駐車場に日産の黒塗りの車がたくさんとまっている。

 最初にあった建物の裏に回り込んで、そこで待つように言われた。広い応接間に置かれた縦型冷房はみな「26」と温度表示されている。ヨーロッパ風の応接セットが三つ、床には伝統工芸品のコミカルな木彫が置いてある。

 横長の部屋の両端の壁には中央アフリカの地図をあしらった大きな絵がかかっている。壁にはほかにも小さな絵があったが、いずれも洋画であまり統一感は感じられない。

 部屋の片隅がバーのようになっていて、若い女性3人がカウンターの向こうでひそひそ話に忙しい。天井の明かりとりの格子模様に東洋を感じる。でも、ガラスにひびが入っている。日本のものはないかと見回すと、ソニーの薄型テレビが隅に置かれていた。

 待つこと20分ほど、呼ばれて別室に向かう。そこも同じような応接室だが、軍服姿が3人、待機していた。そこに荷物を置くように言われ、さらに携帯電話を差し出した。中野智明さんは、許可が出るまでということでカメラを置くように言われた。

 それから20メートルほど細い廊下を歩いて一番奥の部屋の前に立つ。扉があいて中へ入ると、真ん中にフランソワ・ボジゼ大統領(66)が立っていた。白っぽい背広にバイオレット色のネクタイと同色のポケットチーフが目立つ。軍人らしくこわもてで、170センチほどでがっちりしている。

 促されて椅子に座ると、カメラクルーが入ってきた。そこで中野さんもカメラを取りに行く。ウィリアムさんが、我々の来意を告げる。そして大統領が「ようこそ。日本から記者の一行が訪ねて来るのは初めてだ。歓迎する」と言ってくれた。

 こちらからも感謝の言葉を言おうと思ったら、ウィリアムさんから「まだ、まだ」と言われる。大統領の話が続く。

 「中央アフリカは平和な国だったが、周囲のコンゴ(旧ザイール)、チャド、スーダンなどで紛争が発生し、そこにかかわった連中が入り込んで問題をおこした。この国が石油、森林、ウラン、ダイヤモンド、金に恵まれていることがそれを求める人たちを引き寄せ、治安の悪化を招いている」

 「例を挙げよう。2011年だけで800頭のゾウが密猟者に殺された。この国は広く、400万人強の人口しかない。この国をあしざまに言う人がいるが、安定が戻っていることをどうか伝えてほしい。私はTICAD(アフリカ開発会議)で日本を訪れてその先端技術に感銘を受けた」

 そこで切れたので、まず謝意を述べた。カジュアルな姿で来たことをわび、ただ私たちにとってこれは軍服のようなものだから、と付け加えると大統領は少し笑ってうなずいた。

 質問に移る。フランス語から英語の通訳を介したやりとりは、つぎのようだった。質問も長いので、答えとはっきりわけるため、質問を丁寧語で、答えを普通に記す。

 ――私たちは中央アフリカに来る前に、マリを取材しました。マリと中央アフリカは同じ時期に、ともに反政府勢力が首都に迫るという状況に直面しました。ともにフランスに支援を頼んだのに対し、フランスはマリに介入し、中央アフリカには介入を拒否しました。一国の元首として、このような状況で他国に支援を依頼するのは大変な思いだったと推察します。それを断られるというのは、さらに大変な思いだったのではないですか。フランスのこの決断について、どのようにお考えですか。

 「まず、フランスとは良好な関係を築いているということを言いたい。フランスの行動については、フランス国内の世論が大きな問題となる。マリは幸運だったと思う。我々も4年前に支援を頼んだ時は、フランスが応じてくれた。協力しあって、いい世論を築いていかなければならない。フランスは我々の発展を支える友だ。関係は時がたてばよくなると思う。今回は混乱収拾のため、南アフリカ、チャドにも支援を求め、彼らが応じて助けてくれた」

 ひとこと差し挟めば、最後に「関係はよくなる」と言っているところに、いまは必ずしも最良ではないことを感じる。

 次の質問は、国内の情勢について。昨年12月に反政府勢力セリカが進撃を始め、年末には首都から数十キロに迫った。だが、1月に政府側が首相を更迭すること、反政府勢力から閣僚を迎えることなどの条件をのみ、反政府勢力は大統領退陣の要求を取り下げて停戦合意が成立した。

 ――反政府勢力との間の停戦合意は急速にまとまった印象があります。ただ、いまなお一部の地域は反政府勢力の影響下にあります。大統領からみれば、市民がいわば人質にとられている状態と言えるのではないですか。このような状況を早く打開するために、何を考えていらっしゃいますか。

 「状況はとても悪く、切迫していた。だから停戦合意のサインを急いだ。いくつもの要求をのまざるを得なかった。国民を救うために、完全に相手に国の主導権を渡すことはできなかった。だから多くのアフリカ首脳の前で合意を受け入れた。それは反政府勢力に、合意を守らせるためでもある。とても難しい決断だったが、それを下さなければならなかった。多くの国民の苦しみを思ってのことだ」

 ――今年は、大統領も前回訪れたTICADが開催されます。日本はアフリカの平和と安定のために多大な貢献をしてきたと思うのですが、その存在感は、特にいまの中国の圧倒的な存在感の前にしぼんでいるようにも感じます。そこで、大統領から見てあるべき二国間関係とはどのようなものか、おたずねします。

 「中央アフリカの治安がよかったころ、日本とはとても良好な関係を築いていた。この国とカメルーンを結ぶ道だって鹿島がつくった。ただ、治安の不安によって大使館が閉鎖し、関係が失われていった。治安の悪化が良好な関係を阻害していると感じる」

 「中国の特徴は政治的状況や治安状況に左右されず、直接行動を起こすことだ。そこが、治安、透明性、人権と様々な要求をしてくる他国と違うところで、中国の影響力が強い理由だ」

 「私たちには早急に解決しなければならない問題がある。それは貧しさだ。もしだれかが死にそうになっているとき、透明性とか人権を守らなければというより前に、食事を与え、薬を与えなければならない。私たちは、欧米や日本のような近代国家になれと言われてすぐになれるわけではない。まず成長をしないといけない」

 三つだけと言った質問をしてしまった。いずれも、公式な答えの域を出ない感じがして、答えが質問とずれてもいる。でも、停戦合意をめぐる決断や中国のありがたさに対しては、率直な声に聞こえた。

 ボジゼ大統領は、軍参謀長だった01年ごろからパタセ前大統領と対立し、何度かクーデターを画策した。失敗して国外へ逃亡したが03年、パタセ大統領の不在を狙ってクーデターを起こし、政権を奪った。その後、選挙をへて大統領に選ばれている。政権奪取には、不人気になったパタセ政権を見限ったフランスの後ろ盾があったと伝えられる。

 帰り際、「ところで、あなたが政権についた背景にはフランスの支援があったのですか」と聞いてみた。

 大統領は質問の意味がわからないという風に「援助というのは大統領になってからのことか」と聞き返してきた。そうではなくて、パタセ大統領を放逐した時のことですと言うと「それはない。フランスは中立だった。それが公式な答えだ」と語った。

 私たちが会った部屋はせいぜい十数畳の広さで、隅には書類が積み重ねてあった。執務室風ではあるが、それにしては執務机がなかった。取材中、蚊が頭の付近を飛び回っていた。

 大統領は廊下まで送ってくれて、そこで写真も一緒に撮った。ウィリアムさんはことさら喜び、きょうはお祝いだと興奮していた。官邸の中には、ほどよい冷房を感じる以外、もちろん風は吹いていなかった。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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