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【編集委員・黒沢大陸】十分な対策を講じれば、被害は減らせる――。南海トラフ巨大地震で最悪220兆3千億円の経済被害が出ると発表した国の有識者会議は、防災・減災対策が進めば半分近い118兆3千億円になるとした試算も出した。
あなたの街の被害予測は最も効果が大きいと指摘したのは、建物の耐震化と火災対策。現状で79%の耐震化率が100%に向上▽地震時、電熱器のスイッチが切れる装置の完備――といった対策がとられれば、119兆1千億円と想定した住宅や工場などの民間の建物被害を51兆1千億円まで減らせるとしている。
さらに、工場の設備など民間の財産被害も29兆2千億円から12兆4千億円、電気やガス、通信施設などの被害は9千億円から6千億円にすることができるという。防潮堤の整備のほか、軟らかい地盤が流動する液状化への対策で、さらに被害が減らせるとしている。
耐震化や火災対策の徹底に加え、津波からの迅速な避難、家具の転倒や落下物を防ぐ手立てが十分にとられていた場合、死傷者の発生や工場・店舗の被災で下がる生産力と販売への被害も減少。企業が事業継続計画(BCP)を作ったり、部品や製品の供給・物流拠点を複数にしたりしていれば、復旧や復興も早く進んで経済被害を抑えることができると呼びかけた。
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■入院患者15万人、治療難しくなる恐れ
【土肥修一】医療機関への被害も深刻だ。最大で入院患者15万人、外来患者14万人の治療が難しくなると想定された。断水や停電で、震度6強以上の地域は医療機能の6割、それ以外の地域も3割がダウン。入院患者の5割で転院が必要になると仮定し、計算した。
道路の被害や交通渋滞で患者の搬送にも支障が出る。医薬品が不足し、「相当数の人工透析患者が受け入れ可能な施設への移動を余儀なくされる」とした。
被害を減らそうと、各地では対策を急いでいる。和歌山県は昨年11月、患者を大阪などに空路で搬送することを想定し、陸上自衛隊などと合同訓練をした。4月には、交通が遮断されても医薬品不足が起きないよう、県内8カ所の病院と、あらかじめ分散させて備蓄する協定を結んだ。
県立医科大付属病院の加藤正哉・高度救命救急センター長は「海に近い医療機関もあり、互いにカバーしないと対応できない」。
厚生労働省によると、震災時に中心的な役割を担う災害拠点病院は全国で653カ所(昨年4月1日現在)。厚労省研究班の2011年度の調査では、回答した約500カ所のうち4割は、地震や津波などの被害が出かねないと自治体が予測している地域内に建てられていた。
災害拠点病院11カ所中、6カ所が浸水地域にある徳島県。昨年11月、災害拠点病院が被災したと想定し、周辺に「災害医療支援病院」を独自に指定した。県は「実際の災害で機能するよう、訓練などを重ねていきたい」と話す。
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■金融システムへの打撃、懸念
岡崎哲二・東京大教授(経済史)の話 今回の想定は建物などの資産が破壊される直接被害を169兆円としたが、数値化できない項目も多く、推計の下限値だ。この額は国内総生産(GDP)の約3分の1で、比率は関東大震災と同じくらいだ。だが今の日本は成熟社会。成長力は小さく、南海トラフ巨大地震が起きれば予測できないほど影響が広がるだろう。
被災するのは製造業を支える太平0洋沿岸。企業に金を貸していた金融機関が担保を失って巨額の不良債権が発生し、バブル直後の状況を大規模にした金融システムのショックも懸念される。
被災後の再建が難しいだけに、被害をできる限り減らす政策が必要だ。
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■思考停止は禁物、あきらめず対策を
防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実さんの話 220兆円はとてつもない規模だが、対策を講じる自治体の防災担当者や企業経営者らが「もうお手上げ」と思考停止してしまっては本末転倒だ。今回の想定は参考データととらえ、あきらめずにこれまで進めてきた防災対策の強化に粛々と取り組むべきだ。
日本が地震の活動期に入り、災害のリスクが高まりつつあるのは間違いない。私たち市民もできることから備えを急ごう。家の耐震化、家具の固定、迅速な避難、少なくとも1週間分の水と食べ物の備蓄……。東日本大震災以上の揺れと津波が来ると思い、日ごろから高台に逃げる訓練を積み重ねてほしい。
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