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旅の再開に高鳴る胸 3・11の東京で感じたこと

 アフリカをうろうろして5カ月ぶりに戻ってきた3月11日、東京はなんと緑の少ないところだろうと思った。でも、いつもより早い桜が散ってツツジもはや花じまいを迎えてみると、思い違いをさとる。目をこらしてもアフリカでは気づかなかった季節の移り変わりを、こんなにも鮮やかに感じさせてくれるありがたさを思う。

 くっきりとした季節の折り目は、心の折り目にも通じる。季ごとに出直し、仕切り直しの気構えを用意してくれる。社会の仕組みがその機を後押ししてくれるかといえば、とても心もとないけれど。

 ともあれ、仕切り直して「アフリカの風に吹かれて」を続けることになった。続けるとしたら、色々と見直して今度は十分に準備をしてと思ったものの、色んな事情でそれができない。前回の轍(てつ)を踏んで皮相な記事を並べるなと批判が聞こえてくるけれど、たぶん同じようなドタバタの旅になるだろう。

 南アフリカを除き、立体交差もトンネルもまず目にしないアフリカから戻って東京を歩くと、空中にも地中にも交通インフラの張り巡らされたすごい都市をつくったものだと改めて思う。40年近く使っている東急東横線の渋谷駅が地上から消えて地中深くに移動したことに、感傷はあっても驚きはない。

 アフリカでは思うに任せなかった日常生活の数々が、日本では当たり前のようにできる。夜、1人で外を歩いても危険をあまり感じない。浴槽に身を浸すことができる。停電の心配もさほどなく、終夜、近場で食料の調達もかなう。

 そんな利便性を極めた都市生活が、実はぜいじゃくな基盤の上に成り立っていて、そんな生活を根本から考え直さなくてはならないと、3・11の際に突きつけられたはずだった。それが2年をへて、意識を含めて自分の生活のどこがどれほど変わったのかと顧みると、旧態依然ぶりにがくぜんとする。

 ただ、便利さをひたすらに追求した先にあるのは本当の豊かさとは違うものではないかという、能書きではない感触だけ、いまも残ってはいる。

 ナイロビのアパートに備え付けられた包丁が全く切れず、缶切りが缶をあけられず、電子レンジはあっても、チンするだけでいい食品などほとんど売られていなかった。風呂に栓がないので、スーパーに買い物にいくたびに探したが、ついぞ見つけられなかった。

 二の足を踏む旅先も少なくなかったし、お金のいざこざやトラブルも煩わしかった。もっと賢く、格好良い記者であれば、こういうことをしないで済むと正直に言えば思うけれど、入社以来ずっと、虚弱な肉体派記者ではあった。だから、ベテランと呼ばれるようになっても、こんな行き当たりばったりの旅しかできない。

 それでも、出張先のホテルで湯に全身を浸すことができたときの至福感。旅先からナイロビに戻った時に感じる安堵(あんど)。それに何より、そこから日本に戻る時に感じるより大きな喜びがある。旅の醍醐味(だいごみ)は戻る喜びにもあるのだろう。

 離れた地から日本を眺めれば、日本の不思議さがもっと見えてくるかもしれない。これから発展するアフリカの国々が、日本とどれほど違った道のりを歩むことになるのか、それが垣間見えたらいいなと思う。

 12日にナイロビに再び入る。またアパートを借りて、そこを拠点にしてアフリカの風に吹かれにゆく。どれほどの長さの旅になるのかは、わからない。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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