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トタン扉をくぐって、路地へ、迷路へ @ナイロビ

写真:キベラの迷路のような路地はごみだらけ拡大キベラの迷路のような路地はごみだらけ

 たまたま診療所まで運ぶことになって、近くまでしか連れて行けなかった女性が気になった。元米海兵隊員のボランティアと言っていたサニーのこともなぜか引っかかったので翌日、タクシー運転手アントンを呼んで、もう一度キベラのスラムに行った。

 キベラの入り口にさしかかると、この日は魚を焼くにおいがした。ナイロビにはちょろちょろ流れる汚れた小川しかない。魚は350キロほど離れた世界第2位の大きさの淡水湖、ビクトリア湖から運ぶらしい。

 そのあたりはルオー族の人たちが多く住む。キベラの住人の多くも、そのあたりの出身者だ。前回も書いたけれど、今年の大統領選で負けたオディンガ前首相がルオーで、勝ったケニヤッタ大統領はケニアでは多数派のキクユだ。

 オディンガ候補が劣勢を伝えられたため、キベラでの暴力沙汰が心配され、実際に小競り合いはあった。そのキベラの壁や縁石に選挙戦の名残の「vote 4 peace」の白い文字が書き付けられていた。「4」はもちろん「for」のことで、平和に投票を、という意味だ。

 前日、タンカの女性を車に乗せた場所に着いた。暇そうに腰を下ろした男がたくさんいる。診療所に運ばれた女性がどうなったか知りたいというと、小柄な男性が家まで案内してくれるという。

 男性について歩く。スラムの真ん中を貫いてウガンダへつながる鉄道が走っている。住人は道路代わりに使っているが、貨物列車が時折、通るらしい。その線路を越え、トタンの扉をあけて路地からさらに細い路地へ、迷路からさらなる迷路へ入り込む。

 とにかく汚い。ソマリアのモガディシオで訪ねた難民キャンプも汚かったが、仮住まいではない分、汚れが根を張ったようだ。ごみは捨て放題、汚水が路地を縦横に走り、汚物のにおいが鼻につく。

 さらにトタンの扉をかがんで通って小さな水くみ場に出た。ここが飲み水の争いで女性が殴られた場所だろうかとふと思う。その近くの家の扉をドンと開け、「入って」と案内してくれた男性が言う。

 暗い家に入ると、そこへ前日の付き添いの2人の女性が現れた。一つの部屋があるだけで、半分は小さなテーブルが占め、半分は元は白かったであろうカーテンで仕切られていた。

 「昨日、診療所まで連れていけなかったので、大丈夫だったか気になって」と付き添いの女性に話すと、「大丈夫。目も見えるし、口もきける。まだ食べ物を受け付けないけれど」と言いながら、カーテンをさっとあけた。そこはベッドで女性と赤ちゃんが横たわっていた。明かりがなくて女性の表情まではうかがえなかったけれど、こちらをみているのはわかった。

 無事が確認できればよかったので、帰ることにした。迷路を戻って車を止めたところまで出た。サニーの姿をこの日見た人はいなかった。「アリガトゴザイマス」と何度も言っていた元海兵隊員の大男には会えずじまいだった。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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