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狂信と500人の焼死 思い出したオウム事件 @カヌング

写真:朝、雲海が広がるウガンダ・ルワンダ国境地帯拡大朝、雲海が広がるウガンダ・ルワンダ国境地帯

写真:ムサ・ビリオムメソさんによると、この場所に教会があって、500人以上が焼死した拡大ムサ・ビリオムメソさんによると、この場所に教会があって、500人以上が焼死した

写真:犠牲者はこのあたりに埋められたという拡大犠牲者はこのあたりに埋められたという

写真:事務棟の残骸だけが残っていた拡大事務棟の残骸だけが残っていた

写真:13年の月日の果て拡大13年の月日の果て

写真:カヌングの村は一部だけ舗装されて、村から地方に格上げされていた=いずれも江木慎吾撮影拡大カヌングの村は一部だけ舗装されて、村から地方に格上げされていた=いずれも江木慎吾撮影

 2000年3月、ナイロビ支局に着任する直前に事件は起きた。コンゴ(旧ザイール)との国境近くのウガンダの村で教会が炎上、中にいた「神の十戒復古運動」という団体の500人あまりが死んだという。

 気になったけれど、国際会議の取材などがあって、その村、カヌングにたどり着けたのは5月だった。

 事件の詳細については、その時の記事を掲載するので、ご覧ください。当時、現場に立って、日本に衝撃を与えた一連のオウム真理教事件を思い起こした。それとは別に、事件から一月半がたっているのに、焼け落ちた教会跡に漂う死臭に背筋が震えた。

 オウム事件を思い出したのは、1995年に当時の山梨県上九一色村に取材に行った記憶がよみがえったからだ。静かな、緑あふれる美しい村のひんやりした空気が、ウガンダの片隅にある標高1500メートルの村に吹く風と重なった。

 そのカヌングを目指す。舗装道路を離れて2時間、悪路を2400メートルまで上り、下りて、また上る。バナナの葉が風に揺れ、所々に火炎樹だろうか、鮮やかな朱をともす木がある。酪農地帯を過ぎ、茶畑を過ぎてのどかな農村に着いた。

 現場を探したが、わからない。何人かに尋ね、小川のほとりに車を止め、20分ほど歩いてたどり着いた。

 当時は山の斜面が整地され、焼けた教会を中心に学校、事務棟や生活棟と10ほどの建物があった。野菜も栽培されていた。緑の山々が見渡せる場所だった。今、朽ちた事務棟跡がやぶの中に壁面をあらわにしているだけだった。

 案内してくれたコーヒー農家ムサ・ビリオムメソさん(42)は当時、教団施設の建設に携わった。ついて行くと、教会が建っていた場所には、それとわかるものは何一つない。火事で死んだ500人は、近くに埋められたが、その場所も木々と雑草に覆われどこにあるのかわからない。まともな弔いもないまま、近くの刑務所から駆り出された囚人たちが斜面の一角に埋めたのだった。

 ビリオムメソさんは当時、世界が終わるという教団の説教に耳を傾けはした。でも信じることはできなかった。義姉と子ども2人は教団に加わり、火事で亡くなった。

 世間から隔絶された集団が矛盾に直面したとき、敵を外に求めて狂信的な行為に及んだのがオウムなら、内に牙をむいてすべてを消し去ろうとしたのが「神の十戒復古運動」だろうか。

 朽ちた建物の横に、ランタナ・カマラがオレンジとすみれ色の小さな花をつけている。ネットで調べると、七変化というらしい。村を襲った奇っ怪で衝撃的な事件を、村の人たちはそこにあった建物ごと、忘れ去ろうとしている。

 皮肉なことに、カヌングは事件を一つのきっかけに、村から地方へ格上げされた。インド系や南アフリカ系の携帯電話会社や現金送金会社の代理店が村の中心部にはあった。でも、それはウガンダではどこにでもある風景だ。13年へて道路が全く変わっていないところが、忘れられた村と忘れられようとする事件と重なってみえる。

 教団の指導者たちが信徒とともに来世に旅立ったかどうかはわかっていない。警察はなお、首謀者たちを追っている。

     ◇

■カルト教団信者大量焼死、ウガンダの村(世界発2000)=2000年5月13日付朝刊から

 「この世の果て」の話である。東アフリカ・ウガンダの村で3月17日、カルト教団の教会に火がつけられ、500人ともいわれる人々が焼死した。教会に集められた人たちに、この世が終わるので新たな世に旅立つと言い含め、火は放たれたとされる。この教会以外にも教団による大量殺人があったことを示す埋葬地がいくつも暴かれている。教団によって、次の世への「ノアのはこ舟」が用意されたはずだった村を訪れた。

 分け入っても分け入ってもバナナ園だった。実をたたえた木々の間から、コーヒー、茶の木がのぞく。

 カンパラから車で4時間半、悪路を2時間余りで、カヌング村につく。村の中心部から坂道を下ると、石造りの平屋が10棟ほど現れた。「神の十戒復古運動」の本拠だ。教団の予言者だった女性、メリンデ幹部の父親が、村の約11万2千平方メートルを寄進した。焼け落ちた教会は、縦長に並んだ建物群の、ほぼ中央にあった。

 近くに住み、自主的に建物の管理をしているというカベイレホさん(32)が話しかけてきた。新聞記者だと言うと、案内し始めた。

 カベイレホさんによると、教団メンバーはみな黒、緑の服を着て、外部の人間と言葉を交わすことはなかった。広い敷地に、サトウキビ、トウモロコシ、イモを栽培し、ウシやニワトリを飼った。近所の人に食べ物を与えた。「本当に聖人かもしれない」と思った村人もいた。ただし、体毛を焼いて油と混ぜた液体を体に塗りたくるなど、奇妙な行動もあった。

 教団の学校もあった。四つの教室が並び、外の壁に人体図などの絵が描かれていた。しかし、一昨年10月に地元の地方行政府の立ち入り検査を受け、閉鎖命令が出された。「子どもたちはまともな食べ物を与えられず、虐待を受けていた」と行政長官は説明した。

 約2年間、教団のメンバーだった女性ケミギシャさん(30)は、幹部から「聖母マリアのお告げ」について聞き、夫を誘って入信しようとした。幹部らは、財産を売って寄進するよう求めた。夫に断られたため、土地やヒツジなどを売って一人で教団に加わった。

 表向きは無料で食事や教育を提供する教団に、貧困層の女性や子どもが多く加わった。しかし、週2日だった絶食の日が、3日に増えていった。

●予言外れて不満も、詰め寄った男性ら姿消す

 教団が地方行政府に提出した書類に「この世は終わり、別の世に引き継がれる。神の十戒を抱いた者だけが、新たな世に移ることができる」と書かれていた。アフリカで猛威をふるうエイズを「神の下した罰だ」とも記していた。

 しかし、教団が主張していた「この世の終わり」の1999年12月31日が過ぎても、聖母マリアの迎えはなかった。ケミギシャさんは、今年1月半ばに教団を離れた。

 予言がはずれたことで、メンバーの不満は噴出し、財産の返還を求める声が高まった。幹部に詰め寄った男性たちが、次々と姿を消し始めたのはこのころだ。

 教団がウガンダ南部を中心にいくつも持っていた拠点から、信者が殺されて埋められたと見られる跡が次々と見つかった。死者数はすでに千人を超えた。

 教団は信者たちの不満をよそに、本拠地内に新たな教会の建設を続け、3月18日に披露される予定だった。信者たちが教会に集められたのは、その前日だ。教団は直前に、飼っていたウシをすべて、安い価格で売り払っていた。

 教団の教えの本に、教会を「ノアのはこ舟」になぞらえた部分がある。

 「すべての扉を固く閉ざし、何があっても開けることはまかりならない。世界が終わった後に、神が扉を開けるだろう」

 信者は「聖母マリアは火の化身として迎えに現れる」とも聞かされていた。

 焼け落ちた教会跡は、半ば地ならしされていた。その片隅に、建物の残がいがうち捨てられている。その中に木の窓が窓枠とともにあった。中から開かないように、外からしっかりとクギが打たれていた。

 <カンパラのマケレレ大学で宗教学を教えるムサナ氏(39)の話> 彼らの教えは、基本的に伝統的なカトリックからとったものが多い。十戒に根ざした暮らしに戻るべきだ、というのが彼らの主張だ。この地域には特に貧困、腐敗、戦乱、そして猛威を振るうエイズという現代社会の「病」が集中している。その病を克服する力を旧来の教会が示してくれない、と感じる人たちは少なくない。この世の終わりと、十戒による新たな世への移行を説く宗教になびく土壌が、できていたのではないか。

 <事件のあらまし> カヌング村で起きた教会の焼死事件をきっかけに、カルト教団「神の十戒復古運動」の拠点が捜査の対象になり、ウガンダ各地で家の下などから、埋められたメンバーの遺体が数十人ずつの単位でみつかった。切りつけられたり、首にひもが巻かれたりした遺体があり、カジブウェ副大統領は「死者の数は千を超えた。もはや大量殺人だ」とした。警察は教団幹部6人を、一連の事件との関連で追っている。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

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