マッサワのホテルのレストランから、港のある島の古い地区が海を隔てて見える。けだるい空気の中で、古い町は目覚める。
時代の移り変わりをそのままとどめた建物群、港、青いサンゴの海。観光地として魅力はありそうなのにもう一つ踏み出せないように見える。港も半ば休眠状態といった印象だ。そこで、この日はこの国の観光に少し目を向けたい。
エリトリアには九つの民族がいる。最大多数はティグライ族で、もっとも少ないのがラシャイダ族だ。ラシャイダの人たちは紅海近辺に住み、遊牧や紅海をはさんだ貿易のために移動して暮らすことが多い。そのラシャイダ族の村があるというので行ってみた。
砂漠の中にテントが数張りあるばかり。車を止めると、小さな子どもが首飾りを売りにやってくる。村というより、170人ほどの一つの大きな家族なのだという。その長のサラム・スウェリムさん(70)が遠くから私たちの姿をみとめて歩いてきた。石ころだらけなのに、裸足だ。
3人の妻に、25人の子どもがいる。150頭のラクダと、ヒツジにヤギを飼い、与えられた土地でスイカとメイズをつくっていると話した。
ラクダはサウジアラビアに輸出し、衣服などを輸入して地元マッサワで売る。隣国のスーダン、紅海をはさんだイエメンやサウジをまたにかけ、年中移動しているという。
国境をまたいで動き回る彼らにとって、国とは何だろう。「おおきくいえば、私たちには国は関係ない。人間はみな等しく神の創造物で、平和に幸せに暮らせる場所があれば、そこが私の国になる」。ただ、エリトリア独立の苦難はともに味わったと言った。
通訳してくれたガイドによると、この土地も、水もエリトリア政府から与えられているのだという。ガイドはマッサワに来るたびにラシャイダの村に立ち寄る。何となく、観光向けの演出のように感じる。ラシャイダの人たちは移動するので本来、とても捕まえにくいそうだ。
近くにあるグルグスム海水浴場に出かけたのは、泳ぐためではない。最近のエリトリアに、ある傾向がみられるというので、確かめに行った。ホテルとその前の砂浜があるばかりの小さな海水浴場は、ガツッと晴れた日曜日、ちょっと芋を洗うようになっていた。
張り切って泳ぐ人はあまりいない。遠浅の海に腰までつかり、涼を楽しんでいる。ラクダが観光客を乗せて、海岸を歩く。そのラクダに乗っていたカップルは、スーダンからの新婚旅行客だった。
ワイル・モハメドさん(27)は7日に妻ノハさんと結婚して、エリトリアに来た。エジプト、エチオピアも考えたが、美しくて、涼しくて、安いときて、エリトリアに来たという。来てみてさらに、人が親切だと感心していた。
スーダン人の新婚旅行先といえば、北隣のエジプトが主流だった。ところが、エリトリアが今は人気だという。ざっと見たところ、スーダンからの新婚旅行客が7組はいるようだ。海辺でも女性が体を覆っているのでわかる。さしずめスーダンにとっての熱海、と言うとあまりに古すぎるけれど、最近のエリトリアのトレンドなのだという。

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。