メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

09月26日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

新着記事一覧へ

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

捕虜交換に見た感動 国境の町目指して @アディカイエ

写真:山肌を牛が耕す拡大山肌を牛が耕す

写真:高原に雨が降る拡大高原に雨が降る

写真:シカモアの巨木拡大シカモアの巨木

写真:山道をゆく=いずれも中野智明氏撮影拡大山道をゆく=いずれも中野智明氏撮影

 アフリカ特派員をしていた2000年から02年にかけて、色んな場所に出かけては、誰かに語りかけるようにしていたのを思い出す。直面する出来事や光景が初めて尽くしのため、多くは戸惑いや弱音や不満だった。そんな中、アフリカの人たちの何げない営みや自然のみせる表情に瞬間、心奪われて感嘆の言葉を口にすることがあった。

 特派員時代を通じてエリトリアが心に残ったのは、そうした光景の一つに出あったからだ。エチオピアとの国境紛争が終わってしばらくして、アスマラの国際空港で目にした。確か、以前にもこのシリーズのどこかに書いた記憶がある。

 それは、エリトリアとエチオピアが互いの捕虜を交換する時に起きた、ほんのささやかな出来事だった。(長くなるので、重複するかもしれませんが、その時の記事は参考までに別に掲載します)

 このときの出来事が印象深かったのはその直前、00年12月のことだが、ピリピリした空気を感じる場所に行ったからだとも言える。和平合意間もないエリトリア・エチオピアの国境付近。映画「未知との遭遇」に出てきたような山の裾に立つと、周囲には塹壕(ざんごう)が掘り巡らされていた。エリトリアの兵士が隣の山を指して「あそこにエチオピア兵がいる」と言った。大声で会話できる距離だ。

 その時、山から小さな町が見えた。元はエリトリアの町だったが、紛争でエチオピア側に占領された。住人は首都に逃げたり、近くに避難したりしていた。戻ることのできない、国境の向こうの町だった。

 その町、セナフェはいまエリトリアに戻った。そこで尋ねてみようと思ったわけだが、なかなかすぐに行きたいところに行けないのが、この国の難点だ。

 前振りが随分長くなってしまった。ケレンで市を見た後、途中に寄り道をしてアスマラにとって返した。そこから今度は南東に向かった。激しい雨になった。

 保水性の低い土地柄のせいで、水はすぐに土の表面に浮いて光る、その水を集め、乾いた川床は一変していた。初めて目にする流れる水は茶色く濁り、激しく岸にぶつかっていた。

 アスマラの北とも東とも違う、雄大な景色が広がる。植生も変わり、バオバブではなくシカモアの巨木が根を石や地の表面にはわせている。これでもかと横に張った枝を、いくつもの枝をたばねたように見える太い幹が支える。

 山の斜面を、2頭だての牛が耕している。ロバは勝手に荷物を運んでいる。牛はむちのような枝で、ロバは太い棒でひっぱたく。

 どうしてロバはあのようにひどくたたかれないといけないのだろう。それを目にするからか、ロバの鳴き声はとてつもなく哀れに聞こえる。ナイジェリアでは食べると聞いたが、ここでは運搬に使われるだけだそうで、その点、少しはほっとする。

 朝、アスマラを出発して10時間あまりでアディカイエの町についた。明かり以外の電気がなく、湯もない寒いホテルで、とてもゆっくりと眠ることができた。

     ◇

 2001年1月に載った記事です。取材をしたのは前の月でした。

■通いあった心(アスマラ)

 みんな飛行機を待っていた。

 エリトリアのアスマラ空港に、数カ月前まで激しい戦闘を繰り返していたエチオピアからの飛行機が到着する。飛行機には、約100人のエリトリア人捕虜が乗っているはずだった。

 白いショールをまとった女性が、緑の枝や花束を手に、空港前広場で歓迎の歌を歌い続けていた。デゲデン、デゲデン、と軽快な太鼓の音に乗って、歌はとぎれることなく響いていた。

 空港の駐車場の、一番目立たない隅っこに、一台のおんぼろバスが止めてあった。気づくと、女性や子どもがバスに近寄っていた。手を振っている。バスの中からは、白いシャツを身につけた男たちが手を振ってこたえていた。

 それは、エリトリアの捕虜と交換に解放される、エチオピア人捕虜を乗せたバスだった。

 エリトリアの女性たちと、エチオピア兵たちはバスの窓越しに会話を交わした。身ぶり手ぶりをまじえ、そこには笑顔があった。

 30年以上の長きにわたる両国の対立や戦闘に疲れ、本当の平和を願う心がそうさせたのか。大切な人の帰還を今や遅しと待つ気持ちと、大切な人のもとに帰る気持ちが通いあったのか。人混みから離れたバスの周りで起きた、小さな出来事の真意はわからない。

 現場で知り合ったドイツ人の記者は潤んだ目をして「すごくいい光景を見たね」と言った。「うん。いい光景だったね」と答えた。

江木慎吾

プロフィール江木 慎吾(えぎ・しんご)

61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。

PR情報
検索フォーム

注目コンテンツ

  • 写真

    【&BAZAAR】工具メーカーの鋭い切れ味

    プロ御用達のおろし器

  • 写真

    【&TRAVEL】織田家ゆかりの名水の街

    にっぽんの逸品を訪ねて

  • 写真

    【&M】新作「散り椿」が公開間近

    木村大作が語る映画撮影

  • 写真

    【&w】伊坂幸太郎の人気シリーズ

    ファン待望の三作目〈PR〉

  • 写真

    好書好日150冊読んで見つけた原作

    木村大作監督「散り椿」秘話

  • 写真

    WEBRONZA韓国の脳死・臓器移植の現状

    今日の編集長おすすめ記事

  • 写真

    アエラスタイルマガジン銀座三越で特別イベント開催

    旬の着こなし術を編集長が解説

  • 写真

    T JAPAN花や鳥をお菓子で表現

    伝統工芸菓子の妙なる世界

  • 写真

    GLOBE+政治劣化はトランプのせい?

    否、逆だ。その理由は

  • 写真

    sippo河川敷の“ホームレス犬”

    老いて初めての室内暮らし

  • 働き方・就活

  • 転職情報 朝日求人ウェブ