現在位置 : asahi.com > ニュース特集 > いま、お産の場は > 記事 ここから本文エリア

なぜ起きた 奈良妊婦19病院拒否、死亡

2006年10月18日

 脳内出血を起こした妊婦が搬送先がないまま亡くなっていた――奈良県大淀町の町立大淀病院で重体になった妊婦が8月、19病院に搬送を断られて死亡した問題は、地方の危機的なお産事情を浮かび上がらせた。厚生労働省は都道府県に対し、今年度中に産科医不足に対応するため、産科施設の集約化計画を立てるよう求めているが、その前提さえないのが現状だ。集約化が進めば、合併症があるなどハイリスクの妊婦はより遠方の拠点病院に搬送されることになる。安全性との両立をどうはかるか、課題は多い。

グラフ

  

 「子どもを産むのも育てるのも、奈良では命がけです」。奈良県桜井市で今年3月に女児を出産した木元友紀さん(35)は言う。出産の1カ月前に静岡県から引っ越してきた。近くの産科病院、診療所すべてで「予約でいっぱい」と分娩を断られ、奈良市内の助産師に頼んで自宅出産した。

 奈良県内では分娩(ぶんべん)可能な病院がこの2年間で四つ減り、13カ所になった。診療所と合わせても30カ所しかない。大淀病院と医療圏が重なる県立五條病院(五條市)も、常勤医が確保できず、4月に分娩の取り扱いを休止した。このため、大淀病院でも分娩数が急増。4〜9月の同病院の分娩数は99件で前年比22件増。産婦人科の常勤医は1人しかおらず、病院は月20件までの分娩予約制をとって、負担が過重になりすぎないように調整していた。「ただし、地域にほかに病院がない、里帰り出産が多いなどの状況があり、20件を超えても機械的に断れない」(同病院)。

 日本産科婦人科学会の調査によると、昨年12月1日現在の奈良県の産科常勤医数は72人と近畿最少。大阪府612人、京都府の195人と比べて極端に少ない。一人の医師が扱う分娩数は、年平均163件で全国で6番目に多い。一病院あたりの医師数は平均3.4人。厚労省の集約化モデルは「24時間救急対応可能な拠点病院に産科医5人以上を集め、地域の病院・診療所と連携し、30分以内に帝王切開が可能な体制を作る」。だが、県医務課は「医師の絶対数が少なく、モデルにならった集約化は実現できない」という。

 厚労省が来年度までに都道府県に指定を求めている「総合周産期母子医療センター」が、同県にはまだない。母子に高度な医療を同時に提供できる母体・胎児集中治療室(MFICU)は県立医科大学付属病院と県立奈良病院に計4床しかなく、出産時に異常が認められた妊婦の搬送先は、県外に頼らざるを得ない。

 低体重や障害がある赤ちゃんを診る新生児集中治療室(NICU)も、2年前、小児科医不足から、市立奈良病院で閉鎖され、県内には3病院、40床しかない。早産や多胎などで県外に搬送される妊婦は年50〜80人にのぼる、という。「姫路まで母体搬送したこともある」とある産科医は語る。

 同県の産科医らでつくる周産期医療対策ワーキンググループは3月、県に「NICU、MFICUの病床数を確保するため、順次整備を進める」「県立医大付属病院を総合周産期母子医療センターとして整備する」などと提言した。県医務課は「増床は財政的に難しく、医師や看護師の増員も、めどが立たない」と苦慮する。

 産科医不足は奈良県からの搬送を受け入れる大阪府も同じだ。奈良県立医大付属病院からの依頼を受け、大淀病院の妊婦の搬送先を探した大阪府立母子保健総合医療センターの末原則幸・産科部長は「母体に脳出血がある場合、NICU、脳外科、麻酔科、ICU、産科の五つがそろった病院でないと受け入れが難しい。そんな病院は大阪にも5、6カ所しかない」と指摘。その上で、「常勤の産科医が7、8人いて、夜勤も複数で担当でき、母体の異常に対応できる診療科もある病院を、医療圏ごとに作らないと、今回のようなケースは救えないだろう」と話した。

PR情報


この記事の関連情報


ここから広告です
広告終わり

マイタウン(地域情報)

∧このページのトップに戻る
asahi.comに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。 Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.