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近くで産めない 突然転院の通告・里帰り出産断る 大学派遣の産科医集約

2006年06月14日

 一人でも医師を確保したい自治体と、少人数体制でのリスクを避けたい大学の医局。産科医不足が深刻化するなか、そんな両者の思惑の違いが、お産の現場で色濃くなっている。「頼みの綱」だったはずの大学に背を向けられた地域では、妊婦たちが不安を募らせている。

 ●妊娠ためらう

 産科医不足が特に目立つ東北地方は、拠点となる病院に複数の医師を集める集約化の「先進地」だ。6県にある医学部を持つ大学が連携し、医師の引き揚げや集約化を始めている。

 「すぐに病院を変わってもらいたい」。宮城県登米市の自営業の女性(36)は2月、健診に訪れた市立佐沼病院で突然告げられた。東北大から派遣されていた産科医が隣市の中核病院に移り、1人体制になるというのだ。病院は分娩(ぶんべん)数を絞り、高齢出産などリスクの高い妊婦は、人手を手厚くした中核病院に振り分けていた。

 中核病院までは車で1時間かかる。7月の出産を控え、通院を続けていたが、切迫早産となり、今はそこに入院中だ。夫(36)は「理不尽だと思うが仕方ない。毎日見舞っているが遠くてつらい」。病院関係者は「遠すぎて通い切れないと、勝手に市内の開業医に移った妊婦もいる。かえって危険」と話す。

 仙台市では東北大が中心となり、6病院をお産の拠点病院と定め、4病院のお産をやめて医師を集約した。健診は診療所、お産は拠点病院というセミオープンシステムを昨秋から本格的に実施している。

 秋田県大館市では、県北部で最も多い年間500件のお産を扱っていた市立扇田病院(旧比内町)の産科が9月から休診になる。秋田大が派遣医師2人を引き揚げるためだ。市周辺のお産を一手に引き受けることになった大館市立総合病院は、里帰り出産を原則として断ることにした。

 1歳と3歳の子を扇田病院で里帰り出産した上小阿仁村の武石恵さん(28)は「もう産むのをあきらめるしかない」。

 岩手県遠野市には4年前から、お産できる場所がない。岩手医科大が医師派遣をやめ、県立病院の産科が休診したからだ。どこで産むにも山道で1時間近くかかる。

 遠野市が最近、妊婦に実施したアンケートでは、市内でお産ができないことに90%が不安を感じ、35%が「次の妊娠を控えたい」と答えた。

 ●小児科と連動

 「集約化の計画を策定する前に、どんどん病院が消えていった」

 兵庫県医務課の担当者はため息をつく。県内の25病院に産科医を派遣していた神戸大が昨年以降、計7カ所で医師を引き揚げたからだ。独自に集約化を進めるため、分娩数の多い病院に医師を次々に移すなどした。

 産婦人科と同様、医師不足に悩む小児科が撤退・縮小した病院は産科医も引き揚げる。そうした大学側の方針は、関係自治体に「神大ルール」と恐れられている。

 同大大学院の丸尾猛教授(産婦人科)は「新生児を診る医師がいない病院では、安心してお産ができない。高齢出産などリスクが高い妊婦も増えており、最低3人以上の医師がいないと、高度で安全性の高い医療を担保できない」と説明する。

 ●政治生命かけ

 大阪府八尾市の市立病院では昨秋、産科医3人が相次いで辞め、産婦人科が休止になった。市内の出産施設は診療所しかなくなり、医師確保が重要課題となった柴谷光謹市長は、市議会で「政治生命をかける」と表明。阪大のほか、近畿大や大阪医大を飛び回った。

 阪大では、この2年間に約50人の医師が産婦人科の医局を離れた。「人手不足の中で燃え尽きてしまうケースが多かった」と当時の教授は振り返る。柴谷市長は結局、市立病院に小児科医を派遣していた奈良医大に頼み、ようやく後任の医師を確保した。

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