2009年10月20日16時50分
「練習中は走りながら『今夜の夕飯は何かな?』と考えたりします」=上田潤撮影
箱根駅伝の5区山登りで一躍スターになった新「山の神」の登場です。11月1日の全日本大学駅伝では平地での走りも楽しみです。
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武内 今年の箱根駅伝の山登りの活躍で新「山の神」と言われるようになりました。
柏原 あんまり好きじゃないです。山だけ速いと思われるのが嫌なんで。平地でも速いってところを見せたいです。
武内 何て呼ばれるのが一番うれしいですか。
柏原 普通に名前で呼ばれるのが。先輩からだったら、「おい、柏原!」みたいな。
武内 箱根ではタスキを受けた時は9位でトップと4分58秒差。どんな気持ちでした?
柏原 もう昔のことだと思っているんで、あんまり覚えてないんです。どこで誰を抜いたとかをしっかり把握してない。テープを切った瞬間は覚えてますけど。それまでは本当に、何も覚えてないに等しいぐらい。何人抜いたのかすら分からなかった。
武内 なぜ山登りが得意に?
柏原 昨年は5区しかやりたくなかったんです。単なるわがままで始まったことで。同じ福島県出身の今井正人さん(順大)が区間記録を持っていて、その記録に挑戦したかったんです。登りへの適性は、最初はなかったんですけど、合宿でだんだん登りが得意になってきた。適性とかよりも気合で乗り切っている感があります。自分は多分、気合だけで生きている部分があるんで。
武内 気持ちの強さはいつ生まれたんですか?
柏原 基本、負けず嫌い。友達とゲームをやっていても、負けるとすぐに「もう1回」って。
武内 箱根の反響は大きかったですか。
柏原 ビックリするぐらい。街を歩いていても言われて、3カ月ぐらい生活しづらくて。なんか外に行くのにも嫌になったかな。結構、人見知りが激しいんです。反響は大きかったと思いますが、自分は変わんないようにしようってことは思ってますね。
武内 照れ屋?
柏原 だいぶ慣れたので、結構見知らぬ人ともしゃべられるようにはなってきたと思うんですけど。
●追う方が燃える
武内 柏原選手のよさは最初から飛ばすこと。ペース配分は考えていますか?
柏原 あんまり考えないですね。そういうことを考えていたら、話にならないですし、勝負にもならないです。抑えると走りづらかったりします。高校の時は飛ばして失敗していたんですが、大学に入ってからはうまくいくようになってきたかな。失敗したら失敗したで、チームのみんなに謝るしかないなって思ってます。失敗したことを後悔してもしょうがないですし。
武内 走っているときは、何を考えているんですか?
柏原 ここで我慢だとか、ここでどういう走りしようかなとか。一番苦しいときは、まだいける、もう少し我慢だ、と。
武内 一番つらいときに支えになるものって?
柏原 みんなの声援です。頑張れ、頑張れ、って言ってくれることが一番。まだいけるかな、って思いますね。
武内 一番気持ちいいと思う瞬間って?
柏原 走りきった後です。記録が出たときとか、自己ベストを更新したときとか。
武内 レースの時に緊張することは?
柏原 あるにはあるんですけど。まあ、そんなにしないかな。大学に入ってから、あんまり緊張しなくなりました。取材も去年は緊張しましたが、今年はあんまり緊張しなくなりました。
武内 1番を走るのと、追いかけていくっていうのは、どちらの方が燃えますか?
柏原 追いかけるほう。追いついてからも、前にいこうっていう気持ちがある。トップでもらうときはやっぱり、逃げなきゃという気持ちになる。攻める気持ちが違う。
武内 前を走る選手が見えないときももありますよね。つらくないですか?
柏原 見えている方が、目標が確かなんで楽と言えば楽ですけど、見えない時でも沿道の方が何分差ってて言ってくれたりします。それでどれだけ縮まったとかが分かります。
武内 弱点はありますか?
柏原 自分じゃ気づかない。ほかの人に聞いてみた方が早いかな。怖いものは監督です。あんまり怒られたこと無いんで、まだ大丈夫ですけど。
武内 経済学部所属。部活の方針として勉強も一生懸命やらないといけない。
柏原 はい。学校には毎日行ってます。行って、勉強はしてます。もちろん、走る方が好きですけど。
武内 高校時代は無名。大学で何が変わったのですか?
柏原 練習環境が変わり、質の高い練習が出来るようになった。高校時代は1人で練習することが多かったんですが、大学でみんなで練習するようになり効率が上がりました。
武内 駅伝のようにチームで走るっていうのは気持ちが全く違うものですか?
柏原 チームと個人ではモチベーションがかなり違います。1人で走っているときは妥協する部分があるんですけど、やっぱり、チームになるともう少し頑張ろうかなと思います。チーム内でライバルができて、こいつに負けないようにもう少しオレも頑張ろうとか思うし。
武内 最初はきつかった?
柏原 きつくて、入寮2日目ぐらいに風邪をひいて3日ぐらい寝込みました。最初は必死でした。
武内 食生活は?
柏原 朝晩はしっかり栄養管理された食事が出ているので、後は自分で鉄分の多いものを中心に取っています。貧血対策を少しずつ考えています。嫌いなものはなくなってきたんですけど、魚の煮物や光りものはまだ食べられないんです。牛乳もミロを入れながら。そのままだとちょっと味が駄目なんで。お菓子は普通に食べています。プリンやヨーグルトも好きです。最近はチョコレートのブラックにはまっています。
武内 寮の部屋にいるときは、何をしているんですか?
柏原 ゲームか漫画かインターネットを。普段外で走っている分、休みの時は、外に出たくもないんです。
●強い選手と勝負
武内 全日本大学駅伝が迫ってきています。どこの区間を走りたいですか?
柏原 去年も走った2区(13.2キロ)を、もう1回走りたいなと思っています。去年は竹沢健介さん(早大)の区間記録まで2秒足りなかったので。
武内 2区は強い選手が集まります。
柏原 強いほうが楽しい。「この人たちと勝負できるんだ」って思える。
武内 目標は?
柏原 結果を残すことが目標。区間賞であれ、区間新であれ、いずれにせよ、結果を残せたらいい。いい順位でくれば流れを加速させるような走りをしたいし、悪い流れできたのであれば流れを変えるっていうのが重要。最初からガンガン攻めていきたい。昨年は10キロ過ぎから失速してしまったので、ラスト3.2キロをどうやって我慢できるかが勝負だと思っています。チームとしては、昨年はシード権を取ったので、今年もシード権を取れたらいいと思います。優勝はその時の流れ。とりあえずは上位入賞で、シード権獲得が優先です。
武内 意識する大学は?
柏原 駒大、早大、出雲で優勝した日大もそう。あと、東海大。挙げればきりがない。
武内 今後強化していきたいところは?
柏原 最初からこう、負けない気持ちをもって走ることが自分の強さだと思うんで、そこをもっと磨いていきたいです。
武内 弱気になることはないんですか?
柏原 レース中、2回ぐらい。きつくなってきてから1回。あとは先頭となかなか距離がつまらないときとか。
武内 今後の大きな目標は?
柏原 1年1年しっかり走れればいいなと思っています。出たい大会があるとか、五輪を目標にしているとかはなくて。1年をコンスタントに過ごすことが目標です。
武内 将来、マラソンに転向したいとか。
柏原 いまだに無いんですよ。周囲からたまに言われますが、今のところ、やる気がないということだけ伝えています。大学で競技を終えても構わないかなとも思っているんで。
走る走る 颯爽と、どこまでも
〈後記〉待ち合わせ場所に腕時計にチラリと目をやり、颯爽(さっそう)とランニングで登場した柏原選手。撮影中にちょっと走ってもらったところ、ストップをかけないと、どこまででも走っていってしまいました。走っていることが自然で、生活の一部になっているんだと感じました。手を見せてもらうと、すっと細くしなやかな指で「手のひらが小さいんです」とちょっと照れくさそうに話してくれました。走っているときは、手をぎゅっと握ると力んでしまうため、力を抜いて自然な形にしているそうです。(テレビ朝日アナウンサー)
■インタビューは、29日の「報道ステーション」でも放送予定です。
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かしわばら・りゅうじ 福島県出身、20歳。貧血に苦しんだ、いわき総合高時代は目立った実績を残していないが、東洋大で開花。09年箱根駅伝の山登りの5区で1時間17分18秒の区間新をマークし、東洋大の初優勝に貢献。173センチ、54キロ。