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川崎宗則(プロ野球・ソフトバンク) 「野球腹」が減るんです

2010年6月1日17時5分

写真「今年はロッカーを1年間ずっときれいなままにしたい。ロッカーの汚さが、自分の心の荒れを表すから」=金川雄策撮影

 情熱とユーモアを兼ね備えた九州男児。細身の体で安打を量産し続ける姿が、あこがれのスーパースターとダブります。(成績は5月31日現在)

    ◇

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 武内 今季リーグ首位タイの78安打(5月31日現在)。ヒットを量産されていますが、ズバリ好調の要因は?

 川崎 好調じゃない。絶好調です。絶好調じゃない時がないので、要因はありません。29年間絶好調です。

 武内 少し声が枯れていますね。

 川崎 試合中ずっと声を出しているので。今日(5月29日)は和田(毅)さんが先発だったので「和田いけー」と叫びました。

 武内 今季新しく取り組んでいることはありますか。

 川崎 ありません。何も変えていない。食事も好きな物を食べています。一番好きな食べ物はカレーライス。次はしょうが焼き、次はハンバーグ、水炊き、もつ鍋、焼き肉、おすし……。

 武内 最初の三つは、子どもも好きな食べ物ですね。食の好みは変わっていない?

 川崎 変わっていない。小さい頃から好き嫌いはなかった。朝食は欠かさずみそ汁、納豆を食べるようにしています。お米が大好きなので。

 武内 技術面で取り組んだことはありますか。

 川崎 いや、何も変えていないです。

 武内 でも、ハイペースでヒットを量産していますが。

 川崎 ヒットを打つことより、元気な体で守備についたり、走ったりできているのが一番かなと。ヒットを打つのも好きですが、試合時間が3時間なら、1時間半はショートの守備で声を出している。いかにその時の状態がいいかということだと思います。

 武内 元気が出ない、気持ちが暗くなる時はない?

 川崎 あります。僕はポジティブ半分、ネガティブ半分なんです。でも、一生懸命やっているからへこむ。適当にやった時はへこみもしない。野球はへこむことの方が多いのかも。

 武内 どう気持ちを切り替えますか。

 川崎 切り替えない。そのままいっちゃいます。人間は嫌でも忘れていきますよ。集中するから。メンタルは弱いし、プレッシャーにも勝ったことがない。緊張して足が震えることもあります。でも、やるしかないですね。

●つらくても練習

 武内 野球が嫌になった時期はないですか。

 川崎 鹿児島の田舎からプロに入って、最初に練習した時はショックでした。キャッチボールから走塁、打撃。すべてにおいてレベルが違いすぎた。特に走ることは得意と思っていたのに、めちゃめちゃ速い人がいっぱい。「僕はこんなところではやれないな、とんでもない世界に来てしまった」と思いました。

 武内 その時、どう乗り切ったのですか。

 川崎 つらくてもグラウンドに行きました。田舎から出てきて、遊び方も分からない。やるしかないから、グラウンドに出て、寝て、またグラウンドに出て。その生活を繰り返していたら、ホークスの仲間も首脳陣も優しくしてくれた。

 武内 ご両親も心配されたのでは。

 川崎 心配しましたね。初めて福岡に1人で来ているから、なおさらだったと思います。母親は高知のキャンプに来て、活を入れられました。「気合を入れろ」と。バチンとほおをたたかれました。3発くらい。久しぶりでしたが、その時は全然響かなかった。でも、何とかして自分で立ち直るしかないと。周りがこれだけ支えてくれるのは、本当にありがたいこと。後からそれを感じるんですね。

 武内 川崎選手は練習でも必ず帽子をかぶっているのが印象的です。

 川崎 2軍で18歳だった時、帽子を取ってアップしていたら、あるコーチに呼ばれて、えらい怒られた。「野球選手はグラウンドで帽子をつけるもの。帽子のつばとグラウンドに、慣れないといけない。常々イメージトレーニングをしろ」と。それがいまだに染みついていて、帽子をかぶるんです。試合前、審判と走塁コーチにあいさつする時は取りますが、それ以外は基本的にかぶっています。

 武内 川崎選手にとって練習とはどういうものですか。

 川崎 練習している感覚も、努力している感覚もまるっきりない。でも、気になって色々と試したいことが出てくる。チームメートの動きや、相手チームの練習風景を見ると「この選手がこういうことをやっている。おれもやってみようかな」と思います。

 武内 やらないではいられない。

 川崎 そうですね。おなかが減るんです。

 武内 おなかが減る?

 川崎 野球腹が減る。

 武内 野球腹! 初めて聞きました。

 川崎 ムネ語です。イチロー語録に続くムネ語録を作ろうかな。ははは。デーゲームなら、午前10時からストレッチとか準備しているうちに、おなかが満たされ出して、試合がメーンディッシュ。「やった、おいしい焼き肉のステーキだ。ハラミが来たぜ」って。9回は(クローザーの)馬原(孝浩)投手というご飯で締めて。たまに延長になったら「デザートが出てきたぜ、ラッキー」と思います。

 武内 どうしてそんなにキラキラ輝いているのですか。

 川崎 野球に関してだけです。僕だけじゃない。みんな好きな連中ばかり。自分は普通にやっているだけですが、楽しいですよ。人生は1回しかない。好きなことに没頭できるのは、素晴らしいことだと思います。好きなだけに、へこむこともあるけど、それはそれでいいかなと。

●イチローとの差

 武内 今季は最多安打の日本記録も十分狙えるペースです。ちなみに、その記録をもっている方は?

 川崎 イチロー選手です。

 武内 やはり、日本記録には特別な思いがありますか。

 川崎 ないです。イチロー選手が年間210安打を打った時は僕が中学生でしたが、その記録がどうこうというのはないんです。打つ守る走る。すべてをやって野球選手。とんでもない数字ですが、そこを目指して打席に立っているわけでもない。一球一球集中して、何とか塁に出て走りたいし、二塁打、三塁打にしたい。本塁打も打ちたい。いつもそんな思いです。

 武内 イチロー選手は、どういう存在ですか。

 川崎 子どもたちに「スーパースターは誰」と聞いたら「イチロー選手」と答える。僕も一緒です。

 武内 何かに例えることはできないですか。

 川崎 ……強いて言うなら、イチロー選手はおにぎりみたいな感じです。毎朝焼き肉が出てきたら、武内さんはどうします?

 武内 ちょっと今日はもういいかなと。

 川崎 じゃあ毎朝おにぎりなら。

 武内 おにぎりだったらいいですよ。

 川崎 それですよ。飽きないことが、素晴らしい。

 武内 最初に会った時のことは覚えていますか。

 川崎 2006年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で一緒に代表入りした時、ホテルのエレベーター前で会いました。あまりにも好きすぎると会えないんですよ。会ってみて変な人だったら「今まで好きだったのに」と、ショックが5倍くらいになる。イチローさんと共通の知人がいて、それまでも会えるチャンスはありましたが、「僕はいいです」と断ってきた。でも、WBCに選ばれたから会うしかない状況に。「ソフトバンクの川崎です。よろしくお願いします」と言いました。頭がパーンと真っ白になりました。

 武内 イチロー選手は?

 川崎 「ああ宗くんだね」と。そこから先は覚えていない。エレベーターに乗ったんじゃないですか。記憶があまりないですね。「宗くん」と言われた瞬間に動揺しているから。

 武内 今は一緒に自主トレをする仲になっていますが、イチロー選手から学んだことはありますか。

 川崎 いや、学んだことというより、ただ好きなんですね。WBCで一緒にプレーした時、思った通りの選手だったんですよ。でも、思った通りでないところも、プラスアルファでいいなと。

 武内 思っていたのと違うと部分とは。

 川崎 いやいや、それは言えないんですけど。僕だけのものなので、みんなに知らせる必要はないから。

 武内 グラウンドの上だけじゃないということですか。

 川崎 そう。だけじゃない。でも、素晴らしい。「おれより野球が好きだな」と思った。ペナントレースに例えれば、2.5ゲーム差で負けています。

 武内 今後、もう少しゲーム差が縮まる予定は。

 川崎 縮まるというか、縮めるためにやっています。2.5差ですから。必死ですよ。

 武内 常に上を見ているのですね。イチロー選手への愛は誰にも負けない。

 川崎 いや、競争していないです。でも、ゴリ(ロッテの今江敏晃内野手)には、中学校の時に持っていたイチローさんのグッズで負けていた。ゴリは、空気を入れる等身大の人形みたいなものを持っていて。鹿児島にはさすがにそういうのは無かったなあ。ポスターやTシャツ、ボールは持っていましたが、それが一番欲しかった。等身大ですから。そこはゴリのことを、ほめました。WBCの時はロッカーもイチローさんの隣が取り合いなんですよ。自分は7勝2敗くらいでした。

 武内 イチロー選手を日々感じられる物はありますか。

 川崎 イチローさんのヒット集のDVDです。最近はそれを見ながら寝るようにしています。6時間分ありますが、見ると3分くらいで寝られます。気持ちいいですよ。

 武内 逆に興奮しないんですか。

 川崎 全然しない。なんか動物もののテレビ番組を見るような感じです。「ああ奇麗だな」「いいなあ」とか。

 武内 イチロー選手の一番すごいと思うところは。

 川崎 おにぎりのように、飽きないところかな。でも、それぞれのイチロー像がある。皆さんが思っているイチローさんでいいと思います。僕の中ではスーパースター。ずっと走って追い続けています。でも、僕が存在を超えるということはないです。超えようと思ってやってもいない。僕が野球をやるのは自分がハッピーだからです。

 武内 では、男性として勝っている部分は。

 川崎 食べ物の好き嫌いがないことかな。イチローさんは、カレーを食べていても「そこを避けるのか」みたいなところがありました。例えば、ビーフを器用に分けているんです。かわいいでしょ。

 武内 来季は海外FA権も取得される見通しです。海外でプレーしたい気持ちは?

 川崎 やっぱり、人生は1回しかない。生き方としては可能性があると思います。でも、まだ取っていないし、これから何が起こるか分からないですから。

 武内 イチロー選手と対戦したり、チームメートになったりするかもしれません。

 川崎 そう。たくさん可能性はあります。人生は1回きり。小さい後悔や大きい後悔をしながらでも、元気に前へ進んでいきたい。

 武内 野球での目標を聞かせてください。

 川崎 明日も全力でハッピーに生きる。優勝したいとか先の目標は、皆さん立てていると思いますが、僕の場合は明日の試合を全力でハッピーにやりたい。ファンの人が来て、チケットを買ってくれて「川崎打てよ」と願ってくれる。その人たちが元気になるようなプレーをしたいです。

プロと野球少年、2つの顔

 〈後記〉インタビュー中、初めから終わりまでこれだけ笑ったのも初めてかもしれません。試合直後に、ユニホームのままで来た時にはプロのオーラが漂っていた一方で、イチロー選手について語る姿はまるで野球少年。私の中では2人の川崎選手がいると感じました。取材日の試合でホークスは勝ったものの、川崎選手はノーヒット。試合後のグラウンドを見つめながら「やっぱり打って勝ちたいなぁ」とつぶやいていました。その負けん気は、少年時代も今も変わらないのでしょうね。(テレビ朝日アナウンサー)

 ■インタビューは、1日夜の「報道ステーション」でも放送予定です。

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 かわさき・むねのり 鹿児島県出身、28歳。鹿児島工高から2000年、ダイエー(現ソフトバンク)に入団。04年は盗塁王、最多安打。昨季自己最多の44盗塁。179センチ、75キロ。

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