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「人間の安全保障シンポ」主な参加者の発言要旨

2010年7月15日23時28分

写真講演する緒方貞子・人間の安全保障委員会共同議長=15日午後、東京都新宿区、橋本弦撮影

写真講演するキショレ・マンデャン国連事務総長室政治・平和維持・人道部課長=15日午後、東京都新宿区、橋本弦撮影

写真講演するマーク・マロック・ブラウン世界経済フォーラム副会長=15日午後、東京都新宿区、橋本弦撮影

写真講演するヒルデ・ジョンソン国連児童基金(UNICEF)事務局次長=15日午後、東京都新宿区、橋本弦撮影

写真講演する勝間靖・早稲田大学教授=15日午後、東京都新宿区、橋本弦撮影

 紛争や災害、飢餓、環境破壊、感染症、人権侵害などの脅威から、国家ではなく、まず「人」を守る。国連が1990年代から提唱してきた「人間の安全保障」のあり方を論じ合うシンポジウム「人間の安全保障の過去・現在・未来――MDGs(国連ミレニアム開発目標)達成を目指して」(外務省、国連、早稲田大学主催、朝日新聞社後援)が15日、都内の早稲田大学大隈講堂で開かれた。

 主な参加者の発言要旨を紹介する。(国際報道グループ 中野渉、古田大輔)

●基調講演

緒方貞子氏

人間の安全保障諮問委員会委員長、国際協力機構(JICA)理事長

 「人間の安全保障」という概念は、1990年代の国際情勢と、その対応への反省から出てきた。一言で言うと、「国家が人々を守り切れない」ということだ。

 東西冷戦の終えんで、国家間の戦争より国内紛争が多発する時代になった。通信や流通、金融などの流れが速まり、国家の枠組みでは対応できなくなってきた。そこで、国家の安全保障から、人々を中心とした安全保障へとパラダイムの転換が提案された。

 日本政府は、国連の人間安全保障基金を通じて、様々な事業に資金的援助をしている。国連の外でも、世界のさまざまな地域で人間の安全保障の概念が推進されてきた。

 JICAでも事業に反映させている。事業を進める際、人々の能力向上や生活安定に重きを置いている。

 いまの世界はグローバル化が進み、相互依存が高まっている。大国による一国管理体制から、多様で多極な体制をつくらないといけなくなった。人間の安全保障は、これまでの様々な概念と補完しながら、世界の中心的な概念としてますます広まっていく。この概念を通して、世界が一体化される時代を期したい。

■緒方貞子(おがた・さだこ)氏

 2003年より現職。国連公使、上智大教授、国連難民高等弁務官、アフガニスタン復興支援総理特別代表など歴任した。

●講演(1)

キショレ・マンデャン氏

国連事務総長室政治・平和維持・人道部課長

 人間の安全保障についての国連事務総長報告を紹介する。今年4月に提出し、5月の総会で議論した。すべての人々、特に最も弱い人々が、恐怖や欠乏から自由になる権利を持っていると記した。

 第2章ではグローバルな状況に触れている。食料や燃料などの危機が、人々にどう及んでいるのか。課題は国境を超えている。

 これは武力の使用を前提にしない概念だ。もう一つ大事なのは、(人間の安全保障という名のものとに国家に介入して)国家主権を脅かすのではなく、これを強化するものだという点だ。

 この概念は、国連システムの中核になりつつある。この考えの下では国連の官僚組織は大きくはならず、かえって合理化、スリム化される。では、どう実現していくか。報告書では、最後には、関係する者が力を合わせていくことの必要性を記している。

■キショレ・マンデャン氏

国連イラク支援派遣団の政治アドバイザーなどを歴任。現在は、国連事務局で政治会合や外交会合に関連する業務を補佐する。

●講演(2)

マーク・マロックブラウン氏

世界経済フォーラム(WEF)副会長

 WEFにはビジネス、政治、市民社会、学問のリーダーたちが集まる。このネットワークに参加する人たちは、すぐれたグローバルガバナンス(地球規模の統治)のある世界を実現すべきだという共通の考えを持っている。

 彼らはグローバル化に対する責任を感じている。世界的な経済統合は、一部の人たちに大変な富をもたらした。だが、ほんの一部が繁栄を楽しみ、その他の人たちが排除されるという状況は許されない。富める者は貧しい者に責任を持っている。先進国の政府は貧しさに苦しむ人たちを支援する責任を持つ。

 我々(WEF)は非常に力のあるフォーラムであるからこそ、人間の安全保障を取り上げていかなければならないと思う。

 日本はこの分野においてリーダーだった。相互責任という友愛の精神に基づいた主義は日本にマッチしている。これからもリーダーとしての役割を期待している。

■マーク・マロックブラウン氏

 2009年より現職。世界銀行副総裁、国連開発計画総裁、国連副事務総長など歴任。国連ミレニアム開発目標とりまとめの中心になった。

●講演(3)

ヒルデ・ジョンソン氏

ユニセフ(国連児童基金)事務局次長

 人間の安全保障は、以前よりも重要性が増している。そしてこの概念は、すべての者に提供されなければならない。私たちは「子どもが第一」との原則で仕事を進めている。そんななかで(人間の安全保障の実現には)保健、衛生、教育に投資が必要だ。

 ユニセフは、1990年から毎日1万人の子どもを救っている。しかし、いまだ挑戦すべきことは多く残っている。子どもたちを人身売買などからも保護し、恐怖から解放していかなければならない。そして、彼らは教育を受けたがっているのだ。

 国連安全保障理事会の場でも、紛争下の子どもたちの権利を守るための取り組みが続いている。そこでは日本も重要な役割を担ってきた。

 現実問題として、子どもたちには、人間の安全保障はよりよい未来のための希望の光だ。彼らが生きている間にそれを実現するのが、我々全員の義務である。

■ヒルデ・ジョンソン氏

 2007年より現職。アフリカ開発銀行総裁の上級アドバイザーなど歴任。1997年からはノルウェーの国際開発担当相など同国政府の要職を務めた。

●講演(4)

勝間靖氏

早稲田大学教授(国際開発と人権)

 「人間の安全保障」が最初に公的に発表されたのは94年の人間開発報告書。「恐怖からの自由」「欠乏からの自由」と定義し、経済、食料、健康、環境、個人、共同体、政治にかかわるとされた。一方、99年にカナダなどが設立した人間の安全保障ネットワークは「恐怖(暴力)からの自由」と狭く定義した。

 国連においては2005年のサミットで、大量虐殺や戦争犯罪などから人々を守る「保護する責任」が唱えられた。今年4月の潘基文国連事務総長の報告では「人間の安全保障は国家主権に対して武力を行使しない」として「保護する責任」と区別した。このように定義は変化している。

 「概念があいまい」という批判はある。だが、現実に変化が生まれた。国中心だった国家安全保障は人間中心となり、対象は軍事的脅威からあらゆる脅威に広がった。主体も国だけでなく、国際組織やNGO、地域や人々だ。達成のためには軍事ではなく、保護と人間の能力開発が必要とされる。

 これまでは平和学者と安全保障の研究者の間には交流がなかったが、今では人間の安全保障を取り入れる平和学者もいるし、米国同時多発テロ(01年)以降は、多くの学者が安全保障分野でも包括的な手法を採用している。

 現在の脅威はとても多角的で複雑だ。学際的な人間の安全保障の手法は、こうした脅威の分析に力を発揮する。

■勝間靖(かつま・やすし)氏

 早稲田大国際学術院長補佐、日本国際連合学会事務局長。国連児童基金の元職員で、メキシコ、アフガニスタンなどで勤務。ウィスコンシン大マディソン校博士課程修了。

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