伊勢湾台風、枕崎台風、室戸台風――。日本では半世紀前まで、千人を超える犠牲者が出る風水害が繰り返されてきた。近年は治水や天気予報が発達し大きな水害は減ったが、新たな脅威にも直面している。地盤沈下による低地の増加、増える集中豪雨、拡大した地下街への浸水。気象災害にどう備えればいいのか。





【編集委員・黒沢大陸】東京、大阪、名古屋の3大都市圏が最後に大規模に浸水する高潮に見舞われたのは20世紀の半ば以前だ。1959年の伊勢湾台風までは、58年の狩野川台風、53年の南紀豪雨、47年のカスリーン台風など千人以上が犠牲になる風水害が相次いだ。
戦後、水害対策は充実したが、国土技術政策総合研究所の上総周平所長は「災害が減ったのは堤防や水門整備の効果もあるが、たまたま大きな台風の直撃を免れた幸運が大きい」と話す。この間、様々な機能の都市への集中が進み、3大都市圏の人口や国内総生産(GDP)は全国の半数を超える。地下水のくみ上げによる地盤沈下も進み、標高ゼロメートル地帯は577平方キロに広がり、そこに400万人が住んでいる。商店街や地下鉄など地下の利用も増え、水害に見舞われた場合の影響は拡大した。
内閣府や国土交通省は大規模な水害の被害想定をしている。室戸や伊勢湾台風級の台風が最悪のコースで襲来した場合、東京湾岸では最大230万人が浸水被害を受け、死者は7600人。大阪湾岸では165万人が浸水被害、要避難者は102万人。伊勢湾岸では浸水域内に240万人、要避難者は57万人にのぼると予測している。
近年は短時間の豪雨が増加したと指摘され、地球温暖化が進めば海面は上昇、台風は大型化すると懸念されている。近年では93年の豪雨、2004年の台風23号、11年の台風12号による被害もあり、それぞれ100人近くが犠牲になった。
関西大の河田恵昭教授は「水害を受けてきた土地の歴史を知らない人が非常に増えた。歴史は繰り返す。最悪の場合にどうなるかの情報を共有して備える必要がある」と警鐘を鳴らす。
テレビやラジオ、インターネットなどで気象情報をよく確認、早めの避難を。 水害の緊急時、切迫時には、自宅の2階など「垂直避難」も


日ごろ家や職場、学校、通勤通学路が何に対して危ないのか想像力を働かせて考え、災害時の行動を事前に決めておくと、非常時に早めに動ける。自宅は低い土地か、近くに崖や大雨であふれそうな小川や水路がないか。浸水した地下室は水圧で戸が開かなくなる恐れがある。ビル風でけがをする人もいる。
昨年の九州北部豪雨のように、急に雨が強くなって何時間も続き、避難所に行く余裕がないこともある。いよいよ危機が迫った段階では誰も助けに来てくれない。いざという時に短時間で身を守ることを考えてほしい。
避難所に行くのが危険なこともある。雨が強くなって道路に水が流れ、川との境がわからなくなった道を移動するのは危険だ。本当に安全に避難場所に行けるのか考えてほしい。近くに頑丈な建物があれば避難させてもらうのも一つ。様子を見て、何が一番安全かを考えて行動してほしい。避難に時間がかかる人は、早めの行動が大切だ。
近所で声をかけあって一緒に行動するのもよい方法だ。適切な避難場所を知る人がいるかも知れない。助けを呼ぶ時の役割分担もでき、最も安全なお宅に退避できる。不安もやわらぐ。
災害にはめったに遭わないから、警報が出ても自分のことと思わない。よその地域の災害が報道された時、身近で起きた場合に置き換えて頭の体操をするのも大切だ。
開けた場所でやる野外スポーツは逃げ場がないこともある。天気予報を見て、大気が不安定で雷や竜巻の恐れがあるときは慎重な判断が必要だ。雷注意報が出たら避難するなど、事前に考えておく必要がある。竜巻注意情報が出た段階だとかなり切迫している。昨年のつくばの竜巻のように、積乱雲の移動が速く、晴れていても10分で竜巻が来ることがある。底が真っ黒な雲が近づいてきたら、見ている場合ではなく、すぐに避難しなければいけない。
現在の雨や雷、竜巻の状況がわかる気象庁や気象会社のウェブサイトを、携帯端末で1時間に1回ぐらい見れば、雨雲の接近を確認できる。(弟子丸卓也・気象庁気象防災推進室長)
内閣府の発表に比べ、震度7の赤の範囲が半分以下に減った=県提供
著者:朝日新聞社
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