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10月23日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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  • 【災害大国】あすへの備え

    【災害大国】あすへの備え

    生かす、津波の教訓

     東日本大震災では多くの町が大津波に襲われた。先進国での被害だったため、建物や土木構造物の津波被害について、これまでとは比較にならないほどのデータが残された。どんな建物に避難すれば生き残れるか、どんな行動が命を救ったか。多くの犠牲と引き換えに得られたデータは、次の大津波に備える人類共通の貴重な財産でもある。

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【1】避難は鉄筋コンクリ造3階以上

 鉄筋コンクリート造3階以上の建物は10メートルの津波でも約半数が持ちこたえる――。国土交通省が行った東日本大震災の津波被災調査であきらかになった。ある程度の高さのある丈夫な建物が津波避難ビルとして有効であることが裏付けられた。

 調査は浸水被害を受けた青森から千葉の6県62市町村の計23万棟の建物を対象に実施。建物や樹木に残った痕跡などから津波の浸水深を100メートル四方ごとに調べ、建物の構造や階数別に被害状況を分析した。

 その結果、木造2階建ての場合、浸水深3メートルで5割、6メートルになると9割以上の建物が流失するか全壊していた。鉄筋コンクリート造3階以上の建物では、浸水階より上の階にいる人が危険になるほどの損壊が生じる割合は低いことが分かった。

 東北大の越村俊一教授(津波防災工学)によると、津波による建物破壊の原因は、(1)流れの力(2)水につかった建物を浮かび上がらせようとする浮力(3)漂流物の衝突がある。

 流れの力は速度と浸水深で変わる。衝突物の有無や流速の測定は難しく、壁などに残った痕跡でわかる浸水深と、被害の関係が調べられてきた。越村教授は「東日本大震災で非常に密なデータが得られた。詳細な被害予測に生かすとともに、さらに詳細な解析を続けて、次の津波への備えに役立てたい」と話す。

 内閣府南海トラフ巨大地震の被害想定での津波による死者数を算出するため、越村教授らが調査した2004年のスマトラ島沖地震の津波被害をもとに、浸水深別で津波に巻き込まれた人の死亡率を推計した。浸水深60センチで約3割、1メートルで10割と見積もった。ただ、単純化しており、死亡率がゼロの20センチ以下なら「安全」というわけではない。

 津波に人はどれだけ耐えられるのか。独立行政法人の港湾空港技術研究所は、成人男女20人に大型水槽に入ってもらい、津波と同じように水を流して立っていられるかなどを調べた。すると、約30センチで女性の6割が転倒したりよろけたりした。40センチでは女性の9割、70センチになると全員が普通に立っていられなかった。

 有川太郎・上席研究官は「津波が数十センチと聞くとたいしたことがないように思われがちだが、実は命に関わる危険性が高い」と強調する。

 津波は、川で流れの中を歩いたり、海水浴の海岸で波に足をとられるのと同様に考えることはできない。越村教授は「同じ深さの川を渡るのとは違う。流れは強く、走って逃げている時や予期せず身構えていない状態では、踏ん張ることができない。くるぶしぐらいの津波でも、足をすくわれて逃げられなくなることがある」と指摘している。

 (高橋淳、編集委員・黒沢大陸

【2】早く、高い所へ逃げる心構え必要

 津波は沖合ではジェット機並みの速さ、沿岸部まできてもオリンピックの短距離走選手並みの速さで押し寄せる。素早い避難が大切だ。第1波が最も大きいとは限らず、地形によっては周囲より波が高くなる特徴もある。気象庁が予想する津波高を過度に信じるのは禁物。強い揺れやゆっくりとした長い揺れの地震があったら、できるだけ早く、高い所へ逃げる心構えがいる。

 日常の備えは、実際にどれだけの効果があるのか。

 内閣府は、東日本大震災で被害にあった東北沿岸の住人1万人以上にアンケートを実施。避難者の備えと行動が、安全に逃げられた割合をどれだけ変えたのかを調べた。

 調査データを朝日新聞が再集計したところ、日常の備えの有無や避難開始時間の違いで、津波が来るまでに安全な場所に避難できていた人の割合が違うことがわかった。

 日々の備えでは、津波避難訓練に参加していたと答えた1704人のうち、53・6%が、足元まで津波が来たり、津波にのみ込まれる寸前になったりせずに無事逃げ、安全な場所から津波到達を見ていた。

 家族らを捜さずに各人がてんでばらばらに逃げる「てんでんこ」すると決めていた人たちでは47・6%。その他の備えをした人も50%前後だった。日ごろの備えをしていなかった人たちは36・0%にとどまった。

 大きな揺れがあっても、周囲の状況で避難行動が鈍る心理がうかがえた。地震発生時に「津波が来る」と聞いた人と、「来ない」と聞いた人では、津波に追いつかれず到達までに安全な場所に逃げられた人の割合に20ポイント以上の差があった。

 揺れてから避難を決断するまでの時間を見ると、5分以内に避難を始めた人は64・7%が安全に逃げられたが、30分以降になるとその割合が半分以下になり、約7割が津波に巻き込まれたり、のみ込まれる寸前になったりしていた。

 津波は発生時にどこにいるかが、流されるかどうかを決める大きな要因になる。内閣府担当者は「そうした運の要素が大きい中でも10~20ポイントの差がついた。避難の重要さがわかる」と指摘。調査対象が生存者のみであることから「犠牲者の存在を考えれば、避難による結果の差は実際はさらに大きいはず」とみる。

 群馬大の片田敏孝教授(災害社会工学)は避難のポイントを分かりやすく「3原則」にまとめて各地で伝えている。そんな防災教育の舞台だった岩手県釜石市では、東日本大震災時に小中学生が自ら率先し避難、大人たちの避難も促した。市内の約3千人の小中学生のほとんどが津波による被害を免れ、「釜石の奇跡」と呼ばれた。(赤井陽介)

【3】訓練で判断力高め悲劇の再現防げ

今村文彦・東北大教授

 東日本大震災から3年が経ち、津波への恐怖も徐々に風化しつつある。それぞれの地域で行われる津波避難訓練への参加率も低下しているのが現状だ。

 訓練は一度参加して終わりではなく、繰り返さなければ意味がない。防災は知識だけでなく、行動で理解し、判断力を高めることが大切だからだ。さもないとまた地震が起きたとき皆が一斉に車で避難し、渋滞で逃げ遅れるなどの悲劇が再現されてしまうだろう。

 この震災で津波のイメージが限定されつつあることも心配だ。津波被害は地震の起き方や季節、時間帯によってさまざまに変化することを忘れてはならない。また津波高10メートル、20メートルなどの大きな数字ばかりが印象に残ってしまったため、1メートルの津波を「危険でない」と勘違いしてしまう弊害も生まれているようだ。

 津波は単なる「水」ではなく、漂流物という「凶器」が混入している。水の勢いもわれわれが思う以上に強く、数十センチでも人は流され、命を失う危険性が高い。

 津波は常にわたしたちの想定を超える。それを前提に訓練は毎回、条件を変えて行うなど、より実践的なものにすべきだ。祭りやイベントと併せて開催して参加率を上げるのもいい。「いま津波がきたらどうする?」。想像し、日々備えることが命を救う。

■6割が自宅で津波に被災/石巻市

 東日本大震災の津波の犠牲者について、東濃地震科学研究所(岐阜県瑞浪市)の三上卓・副主任研究員が宮城県石巻市で死亡時の状況を確かめたところ、62・3%が自宅で被災し、自宅以外にいた人は37・7%だった。

 調査では、石巻市の死者・行方不明者約3500人のうち、これまで約29%にあたる1012人の死亡時の状況を特定した。自宅で犠牲になった人の内訳は、「逃げなかった」が最も多い28・4%で、「体が不自由・付き添い」が14・7%、「迎えを待っていた」が6・1%などだった。

 自宅以外にいた人の内訳は、「避難している途中」が最も多く23・8%、「迎えに行って」が3・3%、「避難先で被災」が2・3%だった。

 「体が不自由・付き添い」の99人のうち、26人が付き添いだった。体が不自由で逃げられなかった人3人に対して付き添い1人が巻き込まれたことになる。付き添い側で亡くなった人の約8割は女性で、年齢差から大半が夫婦とみられるという。

 65歳以上の高齢者でみると、自宅で犠牲になった人はさらに高く、71・6%だった。「逃げなかった」が33・8%、「別の場所にいたが戻ってきた」が20・3%と続いた。

 石巻市の津波被害については、東日本大震災津波避難合同調査団(団長・今村文彦東北大教授)が2011年10~11月、避難所や仮設住宅で暮らす人たちに聞き取りやアンケートを実施。調査団に加わった三上研究員が結果を分析し、12年末時点で約700人が犠牲になった状況を確かめた。

 三上研究員はその後も聞き取りを詳しく調べたり、地方紙に掲載された犠牲者の被災状況も合わせて分析したりした。(合田禄)

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著者:朝日新聞社 価格: ¥1,680

 朝日新聞のシリーズ企画「災害大国 迫る危機」が本になりました。活断層、津波、地盤、斜面災害、インフラ、火山のリスクを地域ごとに示した大型グラフィックや対策の現状などを収録。書籍化のために各地域の災害史を書き下ろしました。いつ見舞われるか分からない災害の備えとして役立ちます。B4判変型(縦240ミリ、横260ミリ)でオールカラー、120ページ。

日本列島ハザードマップ 災害大国・迫る危機

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