【北京=古谷浩一】中国政府が発行する外交白書「中国外交」の2010年版が、国境と海洋権益に関する章を新たに設けて、中国外交の取り組みを説明していることが分かった。尖閣諸島沖で起きた中国漁船の衝突事件の発生よりも以前に編集されたものだが、海洋権益を重視する中国政府の姿勢をより鮮明に示すものだ。
同白書は毎年、中国の外交姿勢を系統立てて内外に示す目的で、中国外務省が編集している。
新設された「中国外交の中の国境と海洋政策」の章では「国境と海洋政策は国家の主権、安全保障、発展の利益にかかわり、中国外交の重要な部分となっている」と強調。尖閣諸島についての直接の記述はないが、中国政府が海洋問題を極めて重視しているとしたうえで、「周辺国家との領土や海洋権益の争いを公平で合理的に解決していく」とした。
また、中国が東シナ海などで沿岸から200カイリの排他的経済水域のほかに、海底の大陸棚に対する主張を留保しているとも明記。東シナ海の日中間の境界を巡っては、その距離が400カイリ以内であるため、日本側が「中間線」を境界とするのに対し、中国側は沖縄トラフまで自国の大陸棚が続いているとして、その権利を主張している。
中国政府が海洋権益を強調するのは、急速な経済発展を受けて、資源の確保が重大な急務となっているからだ。
中国の石油対外依存度は約5割に達し、輸入の主要な海上ルートである南シナ海では、ベトナムなど東南アジア諸国との間で一部の島の領有権を巡って争いが続く。漁業においては、農業省に属する漁業監視船による中国漁船の保護が強化され、周辺国との緊張が高まっている状況だ。
1990年代の愛国主義教育を通じ、国民の「主権」や「領土」に対する意識も高まっている。中国海軍は台湾海峡有事の対応などの範囲を超えて、インド洋や日本列島からインドネシアにつながる「第2列島線」にまで活動を拡大する構えだ。
事態は深刻な外交問題に発展しており、米国は南シナ海の航行の自由は「米国の権益」(クリントン国務長官)とする強い懸念を示し、米中関係の懸案の一つになり始めた。日本とも、東シナ海でのガス田の共同開発を巡る協議は進展を見ないままだ。
白書は2009年に中国外務省が国境問題を専門に扱う国境海洋事務局を省内に新設したことに言及。同省が、海上の境界線や資源の共同開発などの外交交渉を担うとし、「海洋権益に対する争いを適切に処理し、領土の主権と海洋権益を維持し、周辺国家との善隣友好関係を促進する」などの方針を示した。