メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

10月24日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

新着記事一覧へ

Round 1 食物アレルギーの衝撃 「庄説」

新聞が読めないことに業を煮やした品川庄司の庄司智春が、
東京・築地の朝日新聞の論説委員室に乗り込んだのは、9月某日。
社説を議論する会議では一言も質問できなかった。
その後、「ニュース道場」に臨んだ庄司。論説委員の指南をうけながら、
自ら選んだ「食物アレルギーと給食」というテーマを掘り下げた。

その成果をふまえ、「社説」、ではなく、「庄説」を書き上げた。

「違い」を笑いに変えられるクラスに

最近、給食の時間に、一部の子どもに色の違うトレーを使わせる学校があるらしい。
食物アレルギーを持つ子どもに、間違って原因食材を食べさせないためだそうだ。
この食物アレルギー。いま大きな問題になっているのを、知ってますか?

昨年末、東京の小学校で、給食を食べた小学5年の女の子が、命をおとした。
その子は、アレルギー食材抜きの給食を食べていたが、クラスの目標である給食の完食に貢献しようと、食べてはいけないチーズ入りのチヂミをおかわりした。
彼女は体調を崩し、亡くなった。
あまりにも、つらい出来事だ。
この事故の後、各地の学校では、トレーの色分けなど再発防止のための対策が始まった。
ところが、トレーの色分けを躊躇(ちゅうちょ)する学校があるという。色が違う事が、いじめに発展する可能性があるからだ。

子どものころを思い返すと、確かに、この年頃は、何でも「みんなと同じ」が良かった。
少し違うだけで恥ずかしいし、仲間はずれだと感じることだってあった。
ちょっとした違いが原因で、いじめられたこともあるし、いじめたことだって、ある。
でも、命を守る「違い」をいじめに変えてはいけない。どうしたらいいのだろう。

トレーの色が違う理由。
食物アレルギーと好き嫌いの違い。
食物アレルギーがどれほど危険なものか。
それを、クラス全体で、家庭で、きちんと理解する。
そうすれば、いじめは起きにくくなるのではないか。
担任の先生だけでなく、クラス全員で事故を防げるようにだってなるかもしれない。

小学生には難しいかもしれないけど、人と違うことは、悪いことばっかりではない。
違いやコンプレックスは、パワーの源になる。
芸人には、自分のコンプレックスを「キャラクター」にして笑いに変える人が少なくないが、そこに生まれるパワーはすさまじいものだ。
でも、それは、あたたかいお客さんの存在があってはじめてできることでもある。

実は、亡くなった女の子も、違いをパワーに変える強さをもった子だったそうだ。
食物アレルギーのほかに、ぜんそくやアトピー性皮膚炎も抱えていたが、尊敬するヘレン・ケラーに自分を重ねて「私も三重苦じゃん」と明るく言い、「アレルギーの子を助けたい」と科学者を夢見ていた。
小学4年の時には、「ちょっと ちがう」と題した詩を作った。

 わたしはみんなと
 ちょっとちがう
 ちょっと
 しっぽが
 みじかいし
 ちょっと
 ひげが
 ながい
 でも
 ママが
 「それでいいのよ」
 っていってたの

親の愛情に支えられ、自分を認めて前向きに生きようする力が感じられる詩だ。
しかし彼女は、最後の最後に、打てば助かるかもしれない注射を拒んだ。

もしかすると、彼女に必要だったのは、おかわり禁止や色違いのトレ-だけではないのかもしれない。
いじめがない、というだけではなく、さらに一歩踏み込んで、違いやコンプレックスを受け止め、一緒に笑いに変えられるような環境だったのではないか。
僕には、そう思えてならない。

論説委員から

  •  実はお兄さんが小学校のプール事故で亡くなったのだと打ち明けられ、予想外のことに緊張した。
     「あれは本当に、防ぐことができない事故だったのかと思って」
     それ以上はおっしゃらなかったが、庄司さんやご家族が背負ったものが、グワッと迫ってくる気がした。
     いつものように元気に学校へ出かけていった子どもが、永久に帰ってこない。そんな受け入れ難い現実とともに生き抜かねばならなかったご両親と、その思いを幼い身で引き受けた庄司さんと――。
     「庄説」を最後まで読み、正直、涙が出た。もう庄説でいいじゃん……。
     社説に署名はない。自分勝手な説は許されないのだ。でも社説っていったって、書いているのは「社」じゃないんだよといつも思っている。今回よけいにそう思った。心に血を流して書かなきゃダメなんだ。(稲垣えみ子)

女の子のご両親から

 「庄説」最初のシリーズ「Round1 食物アレルギーの衝撃」は、大きな反響を呼び、今なお読まれ続けています。

 庄司智春さんが、このテーマを選んだのは、2012年末、東京都調布市の小学校で起きた、給食による食物アレルギー死亡事故の記事がきっかけでした。

 学校での事故で兄を亡くした庄司さんは、この事故に、並々ならぬ熱心さで向き合い、思いのこもった「庄説」を書き上げました。

 この「庄説」を読んだ、たくさんの人たちの中に、その事故で亡くなった女の子のご両親がいました。

 「私たちの大事な娘のことを最初に採り上げていただき、感謝いたします」

 ある日、ご両親は、そんな書き出しの手紙を、庄司さん宛てにしたためました。

 その手紙には、クラスメートに囲まれ、元気いっぱい明るく生きた、元気な女の子の姿が綴られていました。必要以上にアレルギーやアトピーを気にすることなく生きられるような学校になってほしい、と庄司さんが願いを込めて「庄説」に綴った「夢」が、そこにありました。

 ご両親は、こう話してくれました。「娘は、年の離れた二人の姉、ご近所の方やお友達に愛されて、屈託なく明るく生きていました。笑顔しか思い出せないくらい、よく笑う娘で、アレルギーやアトピーのことも、冷静に受け止めていました。ですから私たちは、娘自身が、注射を打つことを拒んだわけではない、と思っています。先生が、食物アレルギーや、注射の意味を、きちんと理解していれば、防げたはずの事故でした」

 ご両親は、事故直後から、再発防止のために奔走しています。

 庄司さんは、その思いを正面から受け止め、二人宛ての手紙に、こう綴りました。「引き続き、僕なりに勉強し、皆様に伝えていけたらと、微力ながら思っています」

 庄司さんの手紙を読んだご両親からは、こんなメッセージが寄せられました。

 「娘は、庄司さんの大ファンでした。熱心に番組を見て、大笑いしていたのを思い出します。その庄司さんが、娘のことをとりあげて下さって、関心を持って下さる方が増えたことを、ありがたく思っています。できればこれからも、アレルギーに悩んだり困ったりしている全国の子どもたちを、心のどこかで忘れずにいただき、今後も見守り続けていただければうれしいです」。

論説委員プロフィール稲垣 えみ子

1965年生まれ。大阪社会部、週刊朝日編集部などを経て2013年春から論説委員。維新の会、原発などを担当。仕事の重圧に耐えるためヨガと瞑想が欠かせぬ日々。山登りと日本酒を好み、オフはトレードマークのアフロで大阪の酒場と六甲山を放浪。

  • (ニュースのおさらい)食物アレルギーって何?(2013/02/02)

    小学生の女の子が昨年12月、給食に入っていたチーズを食べた後に亡(な)くなりました。女の子は、乳製品(にゅうせいひん)を食べると皮膚(ひふ)がかゆくなったり呼吸(こきゅう)が苦しくなったりする「食物(しょくもつ)アレルギー」がありました。

もっと「食物アレルギー」を読む

!

スクラップブックの保存可能件数が5,000件に

!

紙面イメージの「地域面」がさらに充実したものになりました

注目コンテンツ

  • 写真

    【&BAZAAR】10万円で手に入る

    老舗ブランドの傑作時計!

  • 写真

    【&TRAVEL】石垣と天守からの美しい眺め

    越前大野城のみどころ

  • 写真

    【&M】肉と衣が絶妙なバランス

    東京・銀座「とん㐂」

  • 写真

    【&w】ディズニーの、あの館を解剖

    ほんやのほん

  • 写真

    ブック・アサヒ・コム「目が覚めると戦争が…」

    中村文則の小説の風刺と挑発

  • 写真

    WEBRONZA子どもの自殺、どう防ぐ

    学校だけに頼った社会制度

  • 写真

    アエラスタイルマガジン[美女スナップ]飯豊まりえ

    みずみずしい今を切り取る

  • 写真

    T JAPAN坂本龍一がキュレートする

    グレン・グールドの世界

  • 写真

    ハフポスト日本版 男が痴漢になる理由

    満員電車でくり返される性暴力

  • 働き方・就活

  • 転職情報 朝日求人ウェブ