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12月13日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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Round 2 東京五輪って、どうなの? 庄司vs.論説委員

日本時間の9月8日早朝、
アルゼンチン・ブエノスアイレスでひらかれた国際オリンピック委員会(IOC)総会で、
2020年東京五輪・パラリンピック開催が決まった。
「東京にオリンピックがくる!」
元高校球児でスポーツ好きの庄司智春は、ただただ喜んでいた。

頭の中は、ハテナだらけ

しかし、しばらくたつと、庄司の頭の中は、ハテナだらけになっていた。
少しは面白いと思えるようになった新聞だが、
五輪の記事を読んでいると混乱してきた。

「あの日の僕は
『やったあ!息子に見せたい、自分も見たい。仕事にもなるといいな』
と浮かれてるだけだったんですけど、
日々、新聞を読むと、いろんな角度から
『大丈夫なのかな?』
『これでいいと思う?』
って聞かれてるような気がして」。

そんな庄司が、あんなハテナ、こんなハテナを、思い切りぶつけるチャンスがやってきた。
今回のニュース指南役のスポーツ論説担当、
稲垣康介編集委員が、東京五輪賛成派というのも心強い。

いいことはいい、悪いことは悪い

「朝日新聞は、いいことはいい、悪いことは悪い、という立場で、社説でも、いろいろな疑問を投げかけてきました」と稲垣。
国民や都民は本当に招致を望んでいるのか。
五輪を一度も開いていない国や都市があるなかで「なぜ、東京か」という声に応えられるのか。
五輪の影響で東日本大震災からの復興が遅れないか。
東京への一極集中を加速させ、地方主権の時代に逆行することにならないか……
招致段階の社説には、大歓迎ムードからは一歩引いたような指摘もあった。

庄司は素朴な疑問をぶつけてみた。
「五輪賛成派が担当、してるんじゃなかったでしたっけ?」
「書く内容は、みんなで議論して決めるんですよ。
論説委員の中には、東京五輪招致に、
そんなに積極的じゃない人もいますから」と稲垣は言う。

ドーピング違反!?

それはよくわかる、と庄司も思う。
賛成派だって、たくさん疑問はあるからだ。たとえば…
「あれって、たとえは悪いかもしれないけど、『ドーピング違反』すれすれだったんじゃないですか」

IOC総会の最終プレゼンテーション。 東京電力福島第一原発の放射能汚染水漏れを
「完全にコントロールされている」 と断言した安倍晋三首相の発言だ。

稲垣によると、6年前のIOC総会でも、似たような場面があったという。
「雪不足は大丈夫か」と問われたロシアのプーチン大統領が「私が保証する」と断言。
来年2月のソチ冬季五輪開催を勝ち取った。

「安倍首相のあの発言には、
科学的な根拠はないと思うけど、
IOC委員たちは今回も、
国のトップが約束したということに納得したんだと思います」
それでは、IOC委員だけでなく
国際社会の信用を失うことにつながらないか。
庄司は心配で仕方ない。

「たしかに、安倍首相の発言に納得していない人はいると思います。
では、こう考えたらどうでしょう。
東京五輪招致がなければ、こんなに世界が注目するなかで、
汚染水問題について安全をアピールすることもなかったかもしれない。
首相が公言した以上、国際的な公約になり、
政府は世界中のメディアの厳しいチェックを覚悟せざるを得ない」と稲垣は説明した。

そんなにもうかるんすか?

じっと聞いていた庄司が言った。
「でも、そこまでして五輪を開催するメリットって何ですかね」
熱戦を生で見られたり、独特の高揚した空気を味わえたりするだけではないはずだ、と庄司は思う。
国立競技場や選手村などの整備や準備に全部でいくらかかり、どう工面するのか。
そして五輪を終えた日本はどうなるのか……ますます気になる。
「日本にはお金がない、ってうわさだけど、大丈夫なんですか? 下世話な話、オリンピックって、そんなにもうかるんすか?」

稲垣によると、テレビ放映権料、スポンサー料やチケット収入などもあり、
全費用を政府や東京都が負担するわけではない。
テレビ中継が盛んになり、五輪の商業化が進んでからは、
大会そのものにかかる予算での大きな赤字は出にくくなった。
「でも、例えばアテネ五輪では、当初の予算の数倍に膨らんでしまったと記憶しています」

息子の未来はどうなるの?

「えええええ~っ」
庄司は、思わずのけぞった。
今だってすさまじい金額が取りざたされているのに、そんなことになったら、日本の将来は、かわいい息子の未来は、どうなるの?

稲垣は、アテネ五輪前後の1年半、ギリシャに住んで取材をしていた。
「閉幕後は、重量挙げ専門の立派なホールも、
柔道やレスリングの会場もあまり利用されていないと聞いています。
野球やソフトボールの会場は、荒れ放題だとか」
歴史的にみるとオリンピックは、発展途上の若い国が、
開催を機にインフラを整備して国際的に認められ、
自信と勢いをつけるための起爆剤だった。

「でも、今の日本は成熟しているし、 少子高齢化まっしぐら。 その日本で開催する意味を、改めて見つめ直す必要がありますよね。
五輪の名のもとにムダな施設がつくられたり、不必要な事業が行われたりしないかも、 チェックしないと。
ギリシャの二の舞いになったら、そのツケは国民に回ってきます」 と稲垣。

「健康維持のためにスポーツをする高齢者が、 使いやすい施設にしておくといった目配りも欲しいですよね」

「目くじら立てるなよ」

「でも、開催が決まったとたん、考える暇もなく、いろんな事業がハイスピードでどんどん進んじゃってる気がするんですけど」
と庄司が、つっこむ。

「大多数の人は、五輪の予算の中身なんて気にする余裕はないですよね。
だから、『本当にそれでいいんですか?ちょっと立ち止まってみましょう』と呼びかけることが必要なんです。
『朝日新聞、目くじら立てるなよ』
と言われながらも、こんな問題もあるんじゃないですか、と言い続けるのは、社説の役目のひとつです」

「最近は、そういう新聞を読んで、本質的な問題を知るのも、面白くなってきました。かといって、知ったことを、芸人仲間にこうなんだぜ、と話したりするところまではいかないですね。楽屋でのおしゃべりのネタにはなっても、テレビでは言いにくいし」

「でも」と稲垣が言った。
「税金を払う人たちが声を上げないと、国は動かない。
何も言わないと、国民の意に沿わないことも、どんどん進んでしまいます」

庄司は、考え込んでしまった。

「盛り上がってるのになんだよ、って言われそうだけど、水差さなきゃいけないかなあ。五輪の後に、実際はこうだったんですって、よくない事実を知る方が怖いからなあ」

本当のプレゼンテーション

「ハンドルをいい方向に向けたり、ブレーキをかけたりできる、
うまい方法を見つけないといけないですね。
7年後、本当にやってよかった、
と思える形でオリンピックを迎え、終われるようにしたいですよね」と稲垣。

「これからの7年は、日本をどんな国にしたいか、東京をどんな街にしたいかを考え、実現していく様子を見せる、本当のプレゼンテーションだと思うから」

その言葉に、庄司は、身を乗り出して大きくうなずいた。

論説委員プロフィール稲垣 康介

1992年入社。スポーツ部、欧州総局(ロンドン)、アテネ駐在などを経て、2011年から編集委員。スポーツ社説も担当。五輪取材は1998年長野冬季大会からで来年2月のソチ大会で夏冬6回目となる。ツイッターアカウントは@Inagaki7K

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