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10月22日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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Round 4 敵か味方か? 生殖医療編 「庄説」

デザイナーベビーの記事で、生殖医療に興味をもった庄司智春。
そのすさまじい進化に目を奪われながらも、
生殖医療の「現実」にじわじわと迫り
「庄説」を書き上げた。

医療の進化もいいけれど

青い目で、足が速くて、乳がんになるリスクが低くて……。
親が望み通りの赤ちゃんをつくる「デザイナーベビー」が、現実味を帯びてきた。
自分と、精子や卵子の提供候補者の情報を解析することで、
希望通りの子どもが生まれる確度を予測する技術が考案され、米で昨年9月、特許が認められたのだ。
まるでSF映画やゲームの世界みたいだ。
知らない間に、生殖医療がそこまで進歩していたことに本当に驚いた。興奮した。

誰だって自分の子供には健康で長生きしてほしい。
できれば目もクリクリで、運動神経も抜群で、容姿端麗、頭脳明晰(めいせき)で……。
まだ見ぬ我が子への希望をあげ出したらキリがない。
僕自身もそうだった。
出産前の妻の大きなおなかをさすりながら、目はママに似た方がいいなとか、
口もママに似た方がいいなとか、赤ちゃんに話しかけた。

でも実際に出産を目の前にしたら、そんな希望はどこへやら。
とにかく元気に生まれてきてくれさえすれば何もいらないと、それだけを願っていた。
生まれてみれば、ムスコは僕にソックリ!
なんでアイドルだったママに似なかったの?なんて思ったりもしたけど、
どんな顔であっても、我が子は可愛いものです。

目を青く、足は速く……。
そんな「デザイナーベビー」の考え方は、今の僕にはどうも違和感がある。
これじゃ、ゲームのキャラクター設定じゃないか、と。

不妊治療、卵子凍結保存、出生前診断……。ものすごい進歩をした生殖医療の技術は、ほかにもある。
例えば、卵子凍結保存。若いうちに採取して凍結しておけば、
年を重ねることで卵子の質が落ちて妊娠率が下がる「卵子の老化」を避けられる。
病気などで卵子を保存する必要がある人はもちろん、健康な女性が出産の時期を、ある程度自由に選ぶことができるようにもなる。
特に働く女性にとっては、経験を重ねて仕事が一段落したころに出産することを選べるなど、
生き方の選択肢が広がりそうだ。すごくいいことだな、と思う。

しかしその前に、働いている女性でも安心して妊娠、出産、子育てができるよう、
環境を充実させるのが先なのではないか、とも思う。
保育園や学童保育の待機児童など、教育環境や社会保障をとりまく問題が原因で、
出産や子育てをちゅうちょせざるを得ない人もたくさんいるのが現状だ。
今やれることを見直して、まずは、医療の進歩に頼らずに、安心して子どもを産み育てられる社会にするのが先なのではないだろうか。

すごい生殖医療の方にも問題がないとはいえないようだ。
卵子の凍結保存は、海外で健康な独身女性にも広まり、国内でもサービスを提供する医療機関が出始めた。
しかし採卵の際に卵巣が腫れるなどのリスクがあり、費用もかかる。
卵子は、受精卵に比べて保存が難しい上、卵子が若くても、子宮や精子に加齢の影響が出れば、流産しやすくなるという研究報告もある。
卵子を凍結保存しておいたからといって、必ず妊娠・出産できるわけではないのだ。

こういう知識はどれくらいの人が知っているのだろう。

そもそも、子どもはどうやってできるのか。
なぜ、つくりたくてもできないことがあるのか。
そういうことをちゃんと知っている人は、どのくらいいるだろうか。
こういうことを、大事な基礎知識のひとつとして、学校でもっと教えるべきなんじゃないだろうか。
出産は女性だけのものではないのだから、男性もしっかりと学ばないといけない。

それにしても、「デザイナーベビー」までいってしまうと、
ここまで科学の力、生殖医療の技術を利用することは、
人間としてどうなんだろう、という気もしてくる。

遺伝子を、新しい命を操作していいのだろうか。
生まれてくる我が子の運命を親が決めてしまう権利なんて必要だろうか。
万が一、そんな権利があったとしても、親はどんなことがあっても、
自分たちがつくったデザイナーベビーの人生に責任を持つことができるのだろうか。

我が子に希望や夢を託すのは結構だが、親が生まれる前から、
我が子の人生を操作しようとするのは違うような気がするのだ。

子は親のために生まれてくるわけではない。
でも親は子のために、子のすべてを受け入れる覚悟がないといけないのではないか。

科学の進歩や医療の発達も素晴らしい。でも…

論説委員から

  •  いやあ、大した読者です。デザイナーベビーや出生前診断、卵子凍結保存と、生殖医療の最前線の話題をきっちりフォローしていただき、科学・医療畑の記者として嬉しい限りでした。
     対談は楽しく、脱線気味になりましたが、ボクが伝えたかったことはちゃんと受け止めていただき、「庄説」に盛り込まれたように思います。驚いたのは、庄司さんがデザイナーベビーや卵子凍結保存の話題を、トークライブのネタにされているということでした(ウォームアップ参照)。
     残念なことに、お客さんのほとんどは全然知らなかったらしいといいます。庄司さんのように、そうした情報から少し突っ込んで調べたり考えたりするだけで、大事なパートナーのことや妊娠、出産、そして親子の意味をとらえなおす絶好の機会になるのですが。
     見方を変えると庄司さんが取り上げてくれることで、今の新聞だけでは届かない人たちに重要な話題が伝わっているわけです。
    庄司さん、これからもよろしく。
     「父親になるのは簡単だが、父親たることはなかなか難しい」などともいいます。同じ父親の一人としても応援しています。(大牟田透)

論説委員プロフィール大牟田 透

大学はお得に6年で2学部(理と文)を卒業し、1984年入社。科学・医療関係を主に取材する。ワシントン特派員で9・11、東京科学医療部長で3・11を経験した。2013年から論説委員。合理的なダイエット法で、7カ月で10キロ減量したのが最近の自慢。

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