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12月18日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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Round 6 使う勇気と使わない勇気
集団的自衛権編 庄司vs.論説委員 前編

「うそつけ! ふざけんな」

庄司智春を相手に、国際紛争を解決することの難しさについて、
丁寧に説明をしていた朝日新聞論説委員の国分高史が、
突然、大声を上げた。

身に覚えないのに殴られた?

隣の椅子に座っていた庄司が、足を踏んだというのだ。
身に覚えのない庄司が凍り付くと、国分は拳を固めて、身構えた。
そして……

「ぼーん!」

国分の大声とともに、拳が振り下ろされ……なかった。

あああ、びっくりした。
まだ固まっている庄司に、国分論説委員は、にこやかに言った。

「……ということが、あったとしますよね」

やられた。お芝居だったのか。

「僕に言わせると、足を踏まれたから、
やり返したんだ、ということになりますが」
と言って、国分が庄司の顔をのぞき込んだ。

「あ、そうか。僕からしたら、踏んでないのに、
殴られたことになる」

庄司も、ようやく我に返った。

「世界のケンカ」のルール

「そう! どっちが悪いかという本当のところは、実は当事者でなければわからない。
周囲の人が、よくわからないままどっちが悪いか話し合いを始めると、
だいたい意見が割れて、もめる羽目になります」

さらに、「世界のケンカ」を止めに入る国連の安全保障理事会(安保理)には、
やっかいなルールがある。
安保理の中心となる5つの常任理事国、
米・ロ・中・英・仏に与えられている「拒否権」だ。

例えばロシアのクリミア半島併合問題。
5カ国のうち1カ国でも拒否権を発動したら、何も決まらない。

「物事を決めるのが難しいルールになっているので、結局は当時国とその同盟国が個別的自衛権と集団的自衛権で、紛争の解決をはかることが多くなるんです」
と国分。

国連憲章では、個別的自衛権と同様、
集団的自衛権も、どの国にも認められている、と国分は説明する。

しかし日本は、集団的自衛権は認められていても使わない、
というスタンスを戦後長らく貫いてきた。

なぜか。
日本国憲法ができた当時の吉田茂首相は当初、平和憲法の根幹である9条を、
「自衛権の発動としての戦争も放棄した」と国会で説明していた。

「自分の身を守るための戦争もしない。つまり個別的自衛権も放棄する、ということです」 と国分。
いま思えば、侵略の過ちを二度と繰り返さない、 という決意表明だったのだろう、という。

殴られっぱなしはおかしい?

いま一歩よくわからない、という表情の庄司に、国分は言った。

「さっき、庄司さんが足を踏んでいないのに、足を踏まれた、と言いましたけど、
あれ、かつて日本軍もやったことなんですよ」

1931年、日本が中国東北部につくった南満州鉄道が爆破された。
爆破したのは日本軍だったが、犯人は中国だ、と武力で周辺を占領した。
太平洋戦争へと続く泥沼の日中戦争のきっかけとなった満州事変だ。

「へえええ」。庄司の目が丸くなる。

だが、吉田首相の説明には、反対意見が出た。

「ケンカにたとえると、
死んじゃうかもしれないのに
殴られっぱなしはおかしいんじゃないか、と」
国分が解説した。

吉田首相はその後、説明を変更し、日本にも自衛権はあると認めた。
そして、9条が禁じる「戦力」ではなく、
自分の身を守るために最低限必要な力として自衛隊が設けられた。
54年のことだ。
ただし、その後も集団的自衛権を使うことは認めていない。

「なぜ、それを変えようとしてるんですか」
庄司が不思議そうに尋ねた。

アメリカと仲良くするため?

「日本は、経済力も国力も強くなって、自衛隊も世界で有数の大きい組織になった。
それなのに、助けてくれるアメリカがやられても日本は助けられないのはおかしい。
これでは対等な関係は築けない、と考える人が増えてきたんです」

「アメリカに土地をあげて、基地として使わせてあげてるだけじゃ、だめなんですか」
庄司は、目をむいた。

「以前は、それでもあまり問題はならなかったんですが」と国分。

「うーん。アメリカとの関係をよくするためにどうしても必要ってことですか?」

「それが、そうでもないんです」
と国分は言った。

米国は、テロとの戦いも一段落した今、特に助けは必要としていない。
手伝ってくれると言うなら手伝ってもらいましょう、という程度のスタンスだという。

その一方で、急激に力をつける中国の独走を、日韓と協力して抑える必要があるため、
日本には、韓国はもちろん中国とも、なるべく仲良くしてほしいと思っている。

「日中の仲が悪いと、中国の軍備増強の言い訳にも使われてしまう。
集団的自衛権もいいけど、中国とはもめないでほしい、っていうのが本音でしょう」

だんだん、よくわからなくなってきた。
集団的自衛権の行使の容認は、何のために必要なんだろう。

「迷宮」に迷い込んでしまった庄司は無事、脱出できるのか。
対談後編は、24日ごろ配信の予定です。

論説委員プロフィール国分高史

東京五輪の年に生まれ、高校教師か新聞記者かと迷ったすえに1989年朝日新聞入社。佐賀支局、西部社会部(福岡)などをへて95年に政治部。首相官邸、自民党、社民党、外務省などを担当した。社説を書くにあたっては、「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく」(井上ひさし)を心がけるも、悪戦苦闘。

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