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10月20日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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Round 8 裁判員に選ばれたら 庄司vs.論説委員 後篇

体験談を笑いに変えるのが芸人だ。
ならば、裁判員になったら、その経験を伝えたい。
庄司智春は、論説委員の井田香奈子とのやりとりを通じて、思った。

一方で、やはり被告の人生、
究極には命までも左右してしまう役割に、ためらいは消えない。

3人に2人が辞退
「庄司さんなら、希望すれば、あっさり辞退できると思いますよ」
井田から、思いもかけぬ発言が。

え?国民の責務として、イヤでも引き受けなくていいの。

2013年の裁判員の候補者になったが、
辞退した人の割合は63・3%。
年々増え続けている

新婚旅行の予定が入っている、
親の介護がある、といった人は、
はがきに理由を書くだけでOK。
もっと緩い理由でも、裁判所に行けば、
認められるケースが多いのが実態のようだ。

「庄司さんも、その日は仕事が入ってます、と言えば、恐らく認められます」

最近では、遺体写真などを見て、トラウマになったという人もいるため、
気が弱いというのも辞退理由になるという話さえあるという。

「やる気がある人が中心になって、制度が運用されているのが現実と言えるでしょう」

ふーん。でも、それは問題じゃないのか。

「そうですね、時間に余裕のある、例えば年金生活のお年寄りばかりになったら、
国民の目線を十分に反映したとは言えない」

辞退は心苦しい。
それでも、人生観を変えるほどの経験になるのかもしれない、との恐怖は消えない。

加害者の気持ち
「加害者の気持ちが分かってしまったら、どうなるのかなあ」
庄司が、ぼそっとつぶやく。

「今までは、悪いことをした人は、その報いを受けるべきだ。そう考えて、まっとうに暮らしてきた。
でも、こういう犯罪を起こすのにも、理由がある、仕方ない、と思えてしまったら……」

心の闇をのぞいてしまうようで、何か怖い。

「それって、裁判員制度のすごく重要な意味かもしれません」
井田は、虚をつかれたように、声のトーンを上げた。 裁判官への取材経験も豊富な井田。
「裁判官は、個々人はいい方が多いけれど、やはり、難しい司法試験を受かったすごく特別な層ではある」と話す。

被告人を見ても、人生でこういう人たちといちども接点がなかった、
そんな人は多いかもしれない。

「本当は、犯罪なんてしなくて済めばよかった。
でも、貧しさや家族環境が厳しかったことが、もしかして背景にあるかもしれない。
裁判官のような特別な人たちだけで裁くより、
そういうこともあるよね、と思える一般市民が参加する意義はきっと大きい」

裁判は分かりやすくなった
でも、
そんなに裁判員の意見は通るのだろうか。
裁判官はプロだ。
意のままに、結論を導くことだって、
できるのでないか。

それに、裁判員で決めた判決が、
上級審で覆ったケースも出ていると聞く。

「自分たちの判決を変えられたら、チェって思いますか」
正直、思う。

裁判員制度の導入には、司法の信頼を高めるという目的が強かったと、井田は説明する。
そのために、市民参加をダシにしている面がないとはいえない。
とはいえ、メリットも大きかった。

裁判員を意識して、
裁判は本当に分かりやすくなったのだ。

「私が、駆け出し記者のころは、法廷で何を言っているか、さっぱり分かりませんでしたから」

井田が続ける。
「正直、私も刑の重さをどう決めていいのか、
分かりません。
懲役5年と6年の差は何なのか、1年多く過ごす刑務所の日々がどれだけ苦しいものなのか」

裁判員で番組を休めるか
「ところで、庄司さんは、刑務所を見学されたことはありますか」
井田が尋ねる。

庄司が答える。
「まだ、ないですけど、自信をなくした芸人は慰問に行ったほうがいいって、先輩は言ってました。
とにかく、うけるからって」

井田が応じる。
「人に喜びを与える芸人さんは、影響力が大きい。
裁判員制度を5年間やってて、有名人が務めたって、話は聞いたことがありません」

なったことがないのか、あっても言わないのか。

「だから、庄司さんみたいな人に、ぜひとも発信してもらいたいです」
井田は力を込める。

生放送の番組を、インフルエンザで休む芸能人はいるけれど、
裁判員で休んだという話は聞いたことがない。

”きょうは、裁判員のため法廷にいて、庄司さんは、お休みです”

”あいつは法廷か、がんばれよ”

そんなトークを、日常的に目にする。そんな時代が来るのかもしれない。

次回は、8月7日ごろ配信します。

論説委員プロフィール井田香奈子

初任地の札幌で北海道南西沖地震、ホスピスの長期取材を経験し、いかに生き、死ぬかを考えさせられたことが記者としての土台になっている。2001年から司法制度改革を担当し、戦前の陪審制以来の市民の裁判参加が実現したことには格別の思い。08ー11年、ベルギー・ブリュッセルに勤務し、EUやNATOなどの国際舞台のかけひきを目の当たりにした。司法も国際政治もそうだが、お固くみえるルールを私たちの幸せのためにどう生かしていくか、をきちんと伝えられたらと思う。気分転換は各国料理を作って旅行した気分になること、野山に分け入ること。

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  • きょうも傍聴席にいます。(2014/05/22)

     事件は世相を映し出します。傍聴席から、朝日新聞記者が「現代(いま)」を見つめるシリーズです。

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