若いころはあまり選挙に行かなかった庄司智春。当時の政治意識の低さを、冗談めかして学校のせいにしてみた。
「でも庄司さん、学校でも選挙はありませんでしたか。児童会とか、生徒会とか」
対談相手である論説委員の氏岡真弓は質問を投げかけた。
あれ、どうだったっけ。
クラスで学級委員を決める投票はした覚えはあるけど。
うーん、思い出せない。
「生徒会長はいませんでした?」と重ねて聞かれ、庄司は記憶をたどる。
生徒会長はいた。でもどうやって決めてたんだ。
学級委員のようなクラス代表たちが選んでいたのかな。
覚えていないだけかもしれないけど、投票した記憶がない。
生徒会やりたいなんてヤツ、周りにもいなかったし。
「関心がなかったのは仕方ないかもしれません。生徒会活動で学校生活が変わるという実感が乏しかったからじゃないですか」と氏岡は慰める。
例えば校則を変えたいと公約を掲げて立候補し、当選したら実行する。
そんな実績があれば興味もわく。
生徒会が単なる先生の下請けで、ダメっていわれたらおしまいでは白けてしまう。
確かに新しい部活を作りたいと立候補した生徒がいて実現させたら、ほかの生徒もやってみようとなる。
自分はそんな意識なかった。
「いきなり18歳選挙権だ、さあみんな投票して、ではなく、長い助走路がいるんじゃないですか」と氏岡。
投票して身近なところから変えられる経験がないと、選挙に行っても意味がないって思ってしまう。
お菓子が欲しい、おもちゃが欲しい。
子どもがねだるとき、何で欲しいのかをしつこく尋ねるのだ。
「その程度の気持ちなんだ」「それじゃ買えないなあ」などと返して、遊び感覚で会話をふくらませていく。
このあいだ息子とヒーローショーに行った。
おもちゃを欲しがったけど、いまいち必死さが伝わらない。
うちはプレゼントは基本的に誕生日かクリスマス。
だから諭した。お手伝いしたり、幼稚園で頑張ったりすれば、おのずと君のもとに届くんだよ。
そうだ、おもちゃに向かって気持ちを伝えてみよう、って。
「必ず迎えに行くからね」。息子は素直に思いをぶつけていた。
その気持ちを忘れずにいよう、と言うと納得したみたいだった。
どこかに出かけた感想を聞くときも、「楽しかった」だけではすまさない。
何が楽しかったの、どう楽しかったの、イヤだったことはなかった、といろいろ質問を浴びせる。
一つのものごとでも様々な角度から考えてもらえるようになって欲しいからだ。
発想のもとは、グルメ番組でのコメントだ。
何人も感想を述べた後に、順番が回ってくると、ああ言うことがねえなあ、と苦しむ。日ごろから自分の気持ちを上手に表現できるようになりたい、って痛感する。
「自分がしたいこと、やりたいこと、黙っていたら何も伝わりません。まずはちゃんと話せることです」と氏岡は力を込める。
そうか、もう始まっているんだ。
こんなに小さいころから。親である自分もちゃんと勉強しないと。
氏岡もうなずく。「18歳選挙権は、大人が問われているんです。政治家は考えを届けられるのか、先生は教えられるのか。18歳・19歳に恥ずかしくない投票率になるのか、も」
ふんどしを締め直さないと。今年40歳になった庄司は、大人としての責任を痛感して対談を終えた。
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次回は「庄説」。8日ごろに配信する予定です。
1984年入社、水戸、横浜支局を経て社会部。1996年から教育分野の担当記者として取材を始めた。いじめや学級崩壊、不登校、学力低下問題などの記事を書き、編集委員、東京総局次長、教育エディター(部長)を経て再び編集委員、2014年から論説委員も兼務している。
いつも思う。教育は○か×かでは割り切れない、と。答えが一つではない。支えるのもアリ、ビシッと叱るのもアリ、黙って見守るのもアリ。子どもの目で考えるか、親の立場か、それとも近所のおじさん、おばさんの視点か。答えは人と場面と時期によってさまざまに変わる。
論説委員室でも教育のテーマになると、各委員が次々発言し、担当する委員として、いったい、どうまとめればいいのか?と迷うことが多い。悩みが多いだけに面白い。しかも、子どもや先生の取材を通して「生の人間」に出会えたとき、記者になってよかったな、と感じる。政治も、経済も、文化も、子どもが絡めばみんな教育の話になると思っている。
今回の参院選は選挙権年齢を18歳以上に引き下げてから初の国政選挙です。AKB48と一緒に政治参加の意味や大切さを考える連載「18 私たちも投票します」や注目の話題、各地のニュースをまとめています。
選挙権年齢をこれまでの「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げる改正公職選挙法が19日施行された。7月10日投開票の参院選が22日に公示されて以降、新たに約240万人の18、19歳の有権者が投票できるようになる。各党は若者を意識した政策をアピールしている。
選挙権年齢を「18歳以上」にする改正公職選挙法が、きのう施行された。国政選挙では、来月投開票の参院選から導入される。それに向けて、多くの高校が選挙の仕組みを教える授業や模擬投票に取り組んでいる。
今夏の参院選から18歳、19歳が投票できるようになるのを前に、朝日新聞社は夏までに18、19歳になる人を対象に初めて全国世論調査(郵送)を実施、政治や社会などに対する意識を探った。社会の現状に対し不公平感を訴える声が目立つ中、経済を中心とした政策に力を入れることを望む声が多かった。
5月28日の朝、JR川崎駅近くの商店街に、園児から70代まで約30人が集まった。週末約1時間のゴミ拾いボランティア。そろいの緑色のベストを着て、手にしたゴミばさみで拾う。みるみるうちにポリ袋10個がいっぱいになった。
《ぶっちゃけ、同じ年代で選挙のことなんてほとんど話したことがない》「偏差値40台の高校に通う高校生のブログ」と題し、1カ月で10万ビューを集める。
改正公職選挙法で選挙権を得た18、19歳。参院選の期間を通じ、政治や選挙への疑問に、春香クリスティーンさん、内田樹さんら識者が答えます。
18、19歳の人も選挙権を持つことにより、日本社会はどう変わるでしょうか。「大人」についての考え方に影響を与えるのでしょうか。私たちは、これを機に「18歳」にいろいろな意味で注目していきたいと考えています。
18、19歳が初めて投票できるようになる参院選を前に、全国の高校で選挙を考える取り組みが広がっている。選挙管理委員会による「出前授業」の実施校数は昨年度、前年度の16倍にのぼったが、授業で「政治的中立」をどう保つか、悩む教員もいる。
高校生たちは、選挙について、一票についてどう考えているのでしょうか。18歳選挙権が導入される参院選を前に、福岡市の県立高校で先進的な授業がありました。その授業と、出席した600人に実施したアンケートをもとに考えました。
高校生の政治活動が、一部認められることになった。文部科学省が29日、全国の高校に通知した。来夏の参院選から選挙権年齢が18歳以上に変更されることを受け、校外で政治活動ができる。部活や生徒会活動中など、校内では原則禁止とされた。
高校生の政治活動を禁じた1969年の旧文部省の通知が廃止され、校外での活動ならば認められるようになった。18歳選挙権の導入に伴う46年ぶりの緩和は、何をもたらすのか。
教科書は国のチェックでここまで変えられるのか。文部科学省が発表した教科書の検定結果を取材して驚いた。
日本の教師はどう変わっていくのだろうと考えさせられる調査だ。