取材:笹円香 取材協力:マイナビ、リクルートワークス研究所
制作:米澤章憲、中西鏡子、小林由憲
2015年春に卒業した大学生の就職率(4月1日時点、就職希望者に対する就職者の割合)は96.7%となり、4年連続で改善された。リーマン・ショック前の08年春卒とほぼ同じ水準(96.9%)。16年春卒の就職活動は、さらに「売り手市場」と言われる。景気の動向や社会情勢に大きく左右される新卒採用の歴史を、データとともに振り返る。
就職希望の大学生のうち就職した人の割合を示すのが「就職率※1」だ。15年3月に大学を卒業した人の就職率は96.7%で4年連続で上昇した。今期の就職活動は、景気の回復にともなって企業側が採用数を増やす姿勢を示しており、学生に有利な「売り手市場」と言われている。
※1「就職率」は、文部科学省と厚生労働省が全国の大学、短期大学、高等専門学校、専修学校のなかから一部を抽出調査し、発表する。
しかし一方で、全大学の卒業者の進路を調べた文部科学省の「学校基本調査※2」をみると、卒業した人で就職も進学もしていない人が14年春卒で約15%(アルバイトなど一時的な仕事についている人も含む)いることがわかる。
※2「学校基本調査」は、文部科学省が全国の学校を対象に実施する。
(%)
(人)
景気が回復してきたここ5年間をみてみると、毎年8万~10万人ほどが大学を卒業後、就職も進学もしていない。いまの大学生の親世代が就活をしていた30年前と比べると、その数は約2.5倍だ。
大学をでても安定した仕事につかない人数が増えている背景には、大学卒業者そのものの増加がある。2014年春の大学卒業者数は約56万5千人。この30年で約1・5倍に増えた。
(人)
少子化で若者の数が減っているにもかかわらず、大学に進学する人は増え続けている。
就活情報を扱う「マイナビ」によると、1980年代後半から女性の大学進学率が上がり、女性の深夜労働や残業の規制を撤廃する97年の男女雇用機会均等法改正などを経て、女性が4年制大学をでて働くことが一般的になった。
一方、2003年の大学設置認可制度の規制緩和などで、4年制大学の新設や短期大学からの移行が続出。学生を受け入れる大学側も裾野が広がった。
(%)
(学校数)
4年制大学
短期大学
雇用の場も大きく変わった。「学校基本調査」で大学卒業後の就職先を産業別に追うと、ここ30年で第2次産業(鉱工業・建設業など)から第3次産業(運輸・通信・商業・金融・公務・サービス業など)へと大きくシフトしていることがわかる。
1495人
913人
1203人
(-292)
9万2383人
6万9635人
6万4919人
(-2万7464人)
18万9509人
22万3235人
32万3239人
(+13万3730人)
2056人
6935人
5484人
(-3428人)
1990年代半ばまで大きな雇用の場だった自動車や電機といったメーカーは、グローバル化にともなって海外に工場を移転させてきた。半面、国内の求人を減らしてきた。国内自動車メーカーの場合、90年代のバブル崩壊を起点に国内生産拠点を徐々に縮小。海外での生産を増やし、08年のリーマン・ショック後は国内生産台数を超えた。
リーマンショック
(08年9月)
東日本大震災
(11年3月)
国内
海外
国内と海外の生産台数が逆転
文系学生の就職先として人気の高い銀行も、その数を大きく減らした。「三菱UFJフィナンシャルグループ」「三井住友フィナンシャルグループ」「みずほフィナンシャルグループ」の三つのメガバンクは、全国銀行協会によると、13の都市銀行を含む約30行(1989年時点)が、合併や再編などをへて集約されたものだ。
リクルートワークス研究所によると、金融業界全体では合併により極端に採用人数を減らしたわけではないものの、逆に景気回復を受けても大きく採用を増やすことは少なく、就職希望者1人あたりの求人数を示す「大卒求人倍率」は0.2%前後にとどまる「超人気業種」だ。
一方、深刻な人手不足に悩む業種もある。
同研究所の調査では、2016年春卒の大学生・院生への民間企業の求人数は前年比で5.4%増。就職希望者1人あたりの仕事の数を示す求人倍率は1.73倍と、数字だけみれば就職できないという環境ではない。
バブル崩壊
(91年)
リーマンショック
(08年9月)
東日本大震災
(11年3月)
全体1.73
しかし、東日本大震災後に人手不足が続く建設業界や、新規出店攻勢をかける小売業界は、学生側から「厳しい仕事」と見られがちで求人倍率は高止まりしている。
東日本大震災
建設業、流通業は人手不足が続く
就
活
生
優
位
企
業
優
位
企業の規模によるミスマッチもある。2016年3月卒の大卒求人倍率は、5千人以上の大手企業が0.55倍。一方、300人未満の企業では3.59倍だ。
同研究所によると、学生には「景気が良くなれば大企業も採用を増やす」という意識が根強くあるものの、1990年代前半に新卒採用を積極的に増やした大手企業の多くが、バブル崩壊後に採用を極端に絞らざるをえなかった反省から、景気の良しあしにかかわらず新卒採用の人数を一定に保つようになっているという。
学生の求める「働きがい」や就職先の選び方も、景気の動向や世相を反映している。
マイナビが就職活動中の学生に、仕事に求めるものや希望する就職先を聞いた調査では、この10年ほど、「プライドの持てる仕事」や「夢のため」に働くと答える自己実現志向の学生が減少傾向にある。一方、2011年の東日本大震災後には「人のためになる仕事」を求めたり「社会に貢献したい」と考えたりする学生が増えている。
また、好景気な時ほど仕事に「楽しさ」を求め、逆に景気が悪い時は「生活と仕事を両立させたい」とプライベートの充実を望む学生が増える傾向もうかがえる。
東日本大震災
(11年3月)
東日本大震災
(11年3月)
景気は企業選びにも影響し、就職難が続くと、現実的に就職先を考え「ヤリガイのある仕事であれば中堅・中小企業でもよい」と考える学生が増えるという。
ただここ数年は、中小企業に目を向けるよう学生に指導する動きが大学に広がり、景気回復をうけた「大企業志向」はこれまでのようには増えないのでは、との見方もある。
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