(制作 吉村真吾、上田悠、米澤章憲、中西鏡子、白井政行、太田英之)
「新幹線のお医者さん」と呼ばれることもある黄色の新幹線で、線路や電気設備を「健康診断」するために走りながら検査する。ドクターイエローの車内には設備を確認するための様々な測定機器が搭載されている。
やあ、こんにちは。私はドクターイエロー博士だ。記者が調べた新幹線の情報をまとめている。ドクターイエローを研究するなら私の話が役にたつだろう。きみはドクターイエローが好きなのかい?
はい、ぼくはドクターイエローが大好きです。「新幹線のお医者さん」と呼ばれているんですよね。お医者さんだから新幹線の調子が悪い時に面倒を見るのかなあ。博士、何か知っていますか。
うむ。ドクターイエローの正式な名前は「新幹線電気軌道総合試験車」という。新幹線のルートを走りながら仕事をしているんだ。
下のABCから答えだと思うものを選んだら、「答えを見る」を押してごらん。
ドクターイエローは新幹線を安全に走らせるために、高速で走りながら線路や架線などの電気設備に異常がないか調べているんじゃ。
走りながら色々なデータを集めていて、もしおかしなところを見つけたら、すぐに指令室に連絡する。設備を直す現場の人は、そのデータを分析して「この区間のここにこういった工事が必要だ」ということがわかったら、早いうちに直すのじゃ。
ドクターイエローは東海道・山陽新幹線の安全にだいじな役割をはたしているといえるだろう。
ドクターイエローは「幸せを運ぶ黄色の新幹線」と呼ばれているんだよね。見かけるとハッピーになれるといううわさもあるんだって。そういえば、よく見ると車体は全部が黄色じゃなくて、左右の青い線は残っているんだね。
緑色の東北新幹線、青色の北陸新幹線、赤色の秋田新幹線・・・新幹線それぞれに色の特徴があるが、やはり黄色の新幹線といえばドクターイエローじゃ。
元々、線路の点検や工事をする車両は、暗い夜に作業する時にも目立つよう車体に黄色が使われていることが多かったんだ。JR東海によると、新幹線の線路などを点検する保守作業車もやはり黄色だった。それがドクターイエローにも受け継がれたんだよ。
実はもう一つの理由があると言われている。それはドクターイエローはお客さんを乗せる新幹線ではないので、駅にとまっているときにお客さんが間違って乗らないために目立つ色にしているというものじゃ。(写真はJR東海提供)
それにしても走りながら仕事をしているなんて知らなかった。でもなかなか見られないんだよなあ・・・。いつも同じ所を走っているのかなあ。この間、家族みんなで時刻表を見たんだけれど載っていなかったし・・・。ねえ博士、ドクターイエローはいつ、どこを走っているの?
うむ。ドクターイエローはお客さんを乗せる新幹線ではない。特別な新幹線なので、実は走る日や時間は非公開なのじゃ。でも、わしはドクターイエローを運転しているJR東海に聞いて、どこを走っているのかを知った。
ドクターイエローは東海道新幹線と山陽新幹線の区間、つまり東京と博多の間を2日間かけて往復しているんじゃ。大体10日に1回ぐらいのペースで働いている。
もう少し細かく見てみよう。JR東海によると、ダイヤには2パターンある。途中駅を幾つも飛ばしながら東京と博多の間を往復する通称「のぞみダイヤ」は1カ月に3回の運転。新幹線駅をぜんぶ停まりながら往復する通称「こだまダイヤ」は2カ月に1回の運転じゃ。
ドクターイエローはJR東海所有のもの(T4編成)とJR西日本所有のもの(T5編成)の二つあり、東京の車両所を「基地」にしている。東京を出発して、1日目はJR東海の担当者が乗り、まず東京から新大阪まで線路を検査する。その後大阪府摂津市の鳥飼車両基地でJR西日本の担当者と交代。博多総合車両所まで行くよ。2日目は博多から東京を点検しながら帰るといった具合じゃ。
ドクターイエローはもう何年ぐらい走っているんだろう。えーっと、東海道新幹線の開業は1964年だから、そこから50年以上ずっと走っているのかな。
新幹線の線路や電気設備を点検する仕事は、東海道新幹線が走り出した時から続いている。最初に電気設備を確認していたのは「架線試験車」で、黄色い車体だった。いわばドクターイエローのご先祖様といえるだろう。形も新幹線とはちがい、ディーゼル機関車が引っ張る形で点検作業をしていたのじゃ。
その仕事を受け継ぐ形で走り始めた初代ドクターイエローは、これまでに何度か新型に生まれ変わっているぞ。
初代はT1編成と呼ばれた。団子鼻が特徴的な0系新幹線の試験車を改造してつくられた。電気で走るようになり、見た目も黄色の0系新幹線で今の「ドクターイエロー」のイメージに近くなった。電気関係を点検していたのじゃ。1964年から1974年まで活躍したぞ。
2代目はT2編成と呼ばれたもので、山陽新幹線が博多まで開業したのに合わせ1974年に登場した。2001年まで働いたのじゃ。車両は2代目と同じ0系だったが、車内の検査設備が新しくなり、電気設備と線路の点検が一緒にできるようになった。それまで線路は専用の測定車両が夜中に走って点検していたが、日中にできるようになったんじゃよ。
そして今走っているのが3代目じゃ。2001年から登場した。700系をベースに最新の検査設備を持った特別な新幹線じゃ。車両のフロント部に監視カメラを設置できる窓があるのも目立つポイントじゃな。2001年に登場したのはT4編成(JR東海所有)で、2005年には同タイプのT5編成(JR西日本所有)が登場した。今のドクターイエローは2編成あるのじゃよ。これまでのドクターイエローよりも鮮やかな黄色にしたこともあって、その美しさからファンも多いのじゃ。(写真はJR東海提供)
ドクターイエローにボクは乗れないのかなあ。駅にとまっていてもお客さんは乗れないんだよね。どんな人が乗っているんだろう。
そうじゃな。ふつう、ドクターイエローを運転しているJR東海の中でも専門的な仕事の人が乗っている。
ドクターイエローはきっぷも売られていない特別な新幹線じゃ。
中に乗っている人のことを少し教えよう。
まず運転士と車掌だ。この2人はドクターイエロー専門ではなく、ほかの新幹線などにも乗っているのじゃ。そのほかには、線路点検の技術者が3人、電気設備点検の技術者が4人乗車している。また、特別に視察する人たちが乗る場合がある。そんな時のために7号車には50人分の座席があるぞ。
というわけで、一般の人たちが乗れるチャンスはなかなかない。ただ、最近ではJRが年に1回ぐらいのペースで、一般の人がドクターイエローの車内に入ることのできるイベントを開いている。JR東海のホームページなどを時々チェックしてみよう!
ドクターイエローって検査しながら走るんだよね。やっぱりスピードはゆっくりなのかな。急いで目的地に着くのが目的じゃないもんね。
ふふふ、ドクターイエローの実力を知らないようじゃな。走るダイヤに「のぞみダイヤ」と「こだまダイヤ」がありどれも同じというわけではないが、
色々な検査データを取りながら270キロで走るとはずいぶん速いと思うかもしれないが、お客さんを乗せる状況に近い状態で走ることで線路や電気設備の状態がはっきり分析できるそうじゃ。
2代目ドクターイエローは最高速度210キロだった。今の3代目ドクターイエローは270キロで走れるのじゃ。
速く走るメリットがもう一つある。ドクターイエローはお客さんを乗せる新幹線と同じようなスピードで走ることができると、点検作業によるダイヤの乱れが起きにくいのじゃ。ドクターイエローが検査する東京~博多区間は毎日多くの新幹線が走っているので、同じ線路をドクターイエローだけがゆっくり走ることは難しいのだ。
だいぶドクターイエローのことが分かってきたなあ。そういえばこの間、いとこがドクターイエローをたまたま駅で見たって言ってました。窓には日よけが下ろされていて中は見えなかったんだって。ドアも開かなかったって言ってたよ。
うむ。ドクターイエローは様々な検査をする新幹線で、機密情報を扱っている車両だから中をのぞかれないようにしているのじゃ。それに、特別な機械や設備を載せていたり、窓が少なかったりする車両もあるのじゃ。
ドクターイエローは昔から7両で1編成(7両編成という)で走っているのじゃ。そして特別な設備があるぞ。ここで1両目から順に紹介していこう。
【1号車】電気検測室がある。3号車や5号車の観測ドームのカメラでとらえた映像がモニターで確認できるほか、電気設備のデータがここに集められる。外側のドクターイエロー前面には線路確認用のカメラ、横にはすれ違う新幹線を確認するセンサーがある。
【2号車】電気測定機器がある。車両の上には集電用と測定用のパンタグラフが2つあり、これを使って電線の状態を調べる。測定用のパンタグラフとレーザーにより電線の状態を検査する。
【3号車】上にパンタグラフ測定の観測ドームがある。上に向かった階段の先にドームと座席があり、2号車のパンタグラフの動きを人の目で監視できる。
【4号車】軌道検測室があり、線路(レール)のゆがみを調べる。床下にはレーザー装置が備え付けられていて、レールに光を当てて状態を調べる。データが走行中の揺れで不正確にならないように、床下の測定装置ができるだけ揺れない設計になっている。
【5号車】3号車と同じく上にパンタグラフ測定の観測ドームがあり、6号車のパンタグラフの状況を監視できる。ほかに休憩室もあり、折りたたみ式ベッドになるいすがある。
【6号車】ミーティングルームやデータ変換を行う高圧室のほか、資材の保管室もある。2号車と同じようにパンタグラフが2つある。
【7号車】50席ある添乗室がある。視察などがあるときに活用されるため、前方には大型ディスプレーがある。700系新幹線の客車と基本的に変わらない。ほかに1号車と同じく、ドクターイエロー前面には線路確認用のカメラ、横にはすれ違う新幹線を確認するセンサーがある。
普通の新幹線とはずいぶん違うことが分かったかな。特別な設備が色々あるんじゃな。(写真はJR東海提供)
ドクターイエローはやっぱり他の新幹線とは違う、技術がいっぱいある特別な新幹線なんだね。同じような仕事をしている仲間は他にいるのかな。
ドクターイエローの正式名称でもある「電気・軌道総合試験車」は他の鉄道でも活躍しているよ。例えば昔、東海道・山陽新幹線のほかにも黄色に緑ラインのドクターイエローが活躍していた新幹線がある。
2002年まで黄色の車体に緑色のラインが入った「ドクターイエロー」が東北・上越新幹線の区間を走っていたのじゃ。今では東北・上越などのJR東日本の新幹線では赤と白の「East-i」がドクターイエローと同じ仕事をしているよ。秋田新幹線や山形新幹線といった「ミニ新幹線」にも乗り入れできるんだ。
また、東海道新幹線を走らせているJR東海では、ドクターイエローのほかにも車体の揺れを測る装置を一般の新幹線に載せて使っている。「レイダース」という装置で、お客さんを乗せた新幹線が走っている時のゆれを自動的に測定するんだ。他に「レール探傷車」(写真、JR東海提供)もある。これは超音波でレールの傷を測定する車両だ。どちらもドクターイエローの仕事を手助けする大事な仲間といえるだろう。
博士、ドクターイエローのことがとてもよく分かりました!やっぱり特別な新幹線なんですね。東京駅に今度行った時にドクターイエローを探してみます。ありがとうございました。
ドクターイエローを見たという情報はネットでも色々と知ることができるので参考にするのも一つの方法だ。うまく見られるとよいな。
これは2015年7月25、26日に浜松であったJRのイベントの時の動画じゃ。再生ボタンを押すと映像が見られるぞ。この動画と下の記事(「ドクターイエロー、宙に浮いた 精密検査を浜松で公開」をクリック)で詳しい様子が分かるので見てごらん。新たな発見があるかもしれないぞ。
それでは私の話はここまで。これからも鉄道に興味を持ってくれたらうれしいな。