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人力飛行機、自由に 10キロメートル突破、翼伸ばして日本新記録

 機械に頼らず、あくまで「自分の力」で飛びたい――。ライト兄弟の初飛行から来月17日でちょうど100年。ジェット機が世界を駆け、宇宙へと人が往復する時代になっても、人力飛行機への情熱は続く。長い翼でふわりと浮き、航続距離の国内記録も今年10キロを突破した。

 8月3日未明、琵琶湖岸。「チーム・エアロセプシー」のスタッフが、人力飛行機「極楽とんぼ」の組み立てを始めた。

 全長7メートル、翼長(両翼端間の距離)32メートルの大きさだが、重量はわずか32キロ。曇り空、風はほとんどない。ペダルをこぐ力だけで飛ぶ人力飛行機にとって、暑くなく穏やかで、まずまずのコンディション。午前8時すぎ。極楽とんぼは飛び立った。

 この日は、平均時速約26キロ、最高高度10メートル。約25分の空中散歩で、日本新記録の10.881キロを達成した。92年に当時の機体の極楽とんぼが記録した4.436キロを大幅に更新した。

 ●翼の長さがカギ

 現・極楽とんぼは、骨格がカーボンファイバーで、翼は、合成樹脂で補強したバルサ材の骨組みを合成樹脂フィルムで覆ったもの。強度を保ちながらできるだけ軽くした。空気抵抗を抑えつつ大きな揚力を得るために、翼をいかに長く、丈夫に作るかがカギだった。

 83年に製作した初代機は翼長12メートル。その後、14、18、25、27、30メートルと伸ばして32メートルにたどり着いた。

 「いくら軽い機体にしても、人間を乗せると約100キロ。この重さを支えるのは大変」とチーム代表の鈴木正人さん(44)。

 翼を長くすると重くなり、強度が必要となる。さらに、ねじれの力や、胴体との接続部分に働く力も大きくなる。こうした条件に耐えられるようになったのは、カーボンファイバーの進歩が大きい。強度や太さが違うファイバーを幾種類も組み合わせた。

 同チームは、ヤマハ発動機(静岡県磐田市)の技術者を中心とした同好会。日本大学在学中に人力飛行機づくりに携わった社員たちが集まって、83年に結成した。日大は日本の人力飛行機のパイオニア。77年には2.094キロの世界記録も保持していた。

 だが、その後の世界のレベルアップは著しい。88年には、米国の「ダイダロス88」(翼長30メートル余、重さ約32キロ)が、エーゲ海で3時間54分、115キロを樹立した。極楽とんぼは、翼も機体の構造も、ダイダロスを参考にしている。

 鈴木さんは「機体の能力に大差はないはず」と言う。問題は、エンジン役のパイロットの“空冷”にあるのでは、とにらむ。

 「窓から空気を入れて狭い操縦席の中を循環させるのは難しく、暑さによるパイロットの消耗が大きいかもしれない。今の日本記録は不本意。いずれ世界記録更新に挑みたい」と話す。

 ●「旋回」にも挑戦

 人力飛行機にとって、航続距離とは別に、360度の旋回飛行も課題だ。

 旋回の際、回転の内側になる翼と外側になる翼は、同心円の軌跡を描くが、翼が長いだけに両者の速度差は大きい。このため速い外側の揚力は大きく、遅い内側の揚力は小さくなって、コントロールが難しい。

 360度の旋回は、世界ではすでに達成されているが、日本では、まだ公式の達成例はない。これを目指しているのが、女性パイロットを擁する市民チーム「アクティブギャルズ」(兵庫県伊丹市)だ。

 同チームの「チック2000」の翼長は26.6メートルと少し短め。旋回を意識してのことだ。

 動力による飛行機では、旋回時の左右翼端の揚力差は、補助翼(エルロン)で調整する。人力飛行機ではワイヤで翼をひねるのだが、同チームのリーダーで建設会社社員の吉川俊明さん(49)は、「少しでもバランスを崩すときりもみ状態に入ってしまう。操縦が難しい」。

 360度の旋回を達成するまで、もうしばらくかかりそうだ。

 ○翼断面に浮く仕組み ジェット機も同じ原理

 人力飛行機も、プロペラやジェットの飛行機も、空中に浮かぶ原理=図の右下=は共通だ。

 前方から来て、翼上面の膨らみに沿って流れる空気の方が、翼下面に沿って流れる空気より速度が速くなる。すると翼上面の気圧が下がり、翼を上に吸い上げる揚力が発生する。

 水道の蛇口から流れる水の中に、スプーンを縦に入れると、丸い背の方にスプーンが振れる。これと同じ原理だ。この原理による飛行機の概念を初めて具体的にまとめたのは、英国のケーリー(1804年)。その約100年後にライト兄弟の挑戦が始まった。

 日大航空宇宙工学科の川島孝幸教授によると、兄弟は、どんな形の翼が最も安定して揚力を得られるかを知るため、風洞実験を重ねた。「気流に乱れの少ない風洞をつくる技術など、航空機の翼を研究するための基礎を築いたところがすごい」と高く評価する。

 ◇ライト兄弟の復元機を展示

 ライト兄弟による「フライヤー」号での初飛行から100周年にちなんで、朝日新聞社は、西日本航空協会が復元した「ライト・フライヤー」号を、12月27、28日と1月4〜12日、東京本社・浜離宮朝日ホールのロビーに展示するほか、「こども航空教室」などの催しを開きます。問い合わせは本社航空部(03・5541・8648)へ。

 ◆人力飛行機関連の航空史

 1804年 ケーリー(英国)が「航空のメカニックの原理に関する試論」(固定翼で飛ぶ飛行機の原理)を発表

 1903  ライト兄弟(米国)が動力付き飛行機で初飛行。36.6m

 1959  英国実業家がクレイマー賞(人力飛行機での8の字飛行達成者に賞金)を提案

 1961  世界で初めて人力飛行機(英国)が飛行に成功。45m

 1966  日本で初めて人力飛行機(日本大学)が飛行。43m

 1977  人力飛行機「ストークB」(日本大学)2.094kmの世界最高記録を達成

       「ゴッサマー・コンドル」(米国)がクレイマー賞を獲得

 1988  「ダイダロス88」(米国)が115kmの世界記録を達成

 1992  「極楽とんぼ」4.436kmの日本記録

 2003  新「極楽とんぼ」が日本記録を更新 10.881km

 (記録はいずれも、水平な地面からの離陸を含め、すべて人力による飛行機で達成)  (03/11/15)







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