
2008年7月24日
ハリントン=田辺安啓氏撮影
全英オープン練習日。パドレイグ・ハリントン(36)の心境は最悪だった。手首を痛め、練習も9ホールが精いっぱい。棄権を迫られるところまで追い詰められたが、開幕前夜、専属スポーツ心理学者のボブ・ロッテラから言われた言葉が胸に響いた。
「勝てなくてもいいじゃないか。手首が少しばかり痛くても、4日間を戦い通すことはできるだろう?」
優勝を意識する必要はない。目標は72ホールの「完走」。そんなふうに考え方を変えたハリントンは、日を追うごとにじわじわとリーダーボードを上昇。終わってみれば2年連続で全英オープン覇者に輝いていた。
「手首を痛めたおかげでプレッシャーを感じることなくプレーできた」
ケガの功名? そうかもしれない。しかし、ハリントンの勝因は、それだけではなかった。
「プロゴルファーの寿命はせいぜい20年。20歳でプロになったら40歳で燃え尽きる」。そう信じていたハリントンは、母国アイルランドで数々のアマチュアタイトルを獲得する腕前だったが、すぐにプロにはならず、あえて大学へ進学。会計士の資格を取得して将来に備えた上で卒業後の24歳にプロ転向した。
最初から、きっちりと青写真を描いた。キャリアの限界が20年だとすれば、前半の10年は欧州ツアーで勝ち方を覚え、後半の10年でメジャー優勝を目指そうと決めた。
メジャーで優勝するための準備をするなら米ツアーに出るのが近道。そう考えて彼は34歳から米ツアーメンバーになった。
35歳の昨年、全英初制覇。36歳の今年、全英2連覇。面白いほど計画通りにことが運んだ背景には、ハリントンの用意周到な人間性があった。
最終日は最年長優勝が期待された53歳のグレグ・ノーマンとともに最終組を回った。72ホール目。ハリントンはノーマンに、こう言った。
「世の中の今夜の話題がキミのストーリーにならなくて、ごめんね」
ハネムーンの仕上げと翌週の全英シニアオープンの予行演習を兼ねて全英オープンに出場したノーマンが優勝争いを演じたことは、新婚ゆえの幸福感がもたらした偶然の産物。しかし、ハリントンの優勝は偶然の産物では決してない。
(在米ゴルフジャーナリスト)