2009年1月9日
年が明け、Jリーグ各クラブの契約更改も大詰めを迎えている。FWの評価基準の最重要項目はもちろん、何点入れたかだ。シーズン34試合で10ゴールを挙げたとしても、野球に例えれば、打者で打率2割台、投手で5勝程度だよ。実際に選手たちがどんな提示を受けたかは知らないが、僕に言わせれば10得点、11得点で現状維持。7点、8点ならダウンや。ちなみに、昨年J1で10点以上取った日本人は9人しかおらん。
FWは極端な話、チームの勝利より、自分が点を取れたかに重きを置いていい。以前、大リーグ・シアトルマリナーズのイチロー選手が同じようなことを言っていた。作家村上龍さんと対談していた時だ。村上さんが「5打数5安打で負けた時と、5打数無安打で勝った時、どっちが嬉しいか」と尋ねると、イチロー選手は「勝ったとしても5打数無安打なら、自分は仕事をしなかったということ。でも、負けたとしても5打数5安打なら責任は果たしたことになる。負けたのはしょうがないと、満足感は得られる」と答えていた。
それを聞いて、僕もかつてそうだったなと思った。自分が2点とって2−3で負けたなら、「自分の役割は果たした。3点取られたのはしょうがない」と思えた。でも、2−0でチームは勝ったけど自分が点を取っていないなら、味方と手をたたいて喜んではいても、心持ちはもやもやしていた。
そんな勝負心は幼い時から自然と植え付けられていくものだが、今は家の中に競争がなく、FWらしい精神性が育ちにくい環境かもしれない。兄弟は少ないし、食事もおかずは一人一人のお皿に盛って出てくる。それを残しても親は何も言わない裕福な時代。勝ちたいという思いが家では生まれないんだ。僕は5人兄弟で、一番上の兄は9歳離れていた。イモ一つとっても、ゆっくり食べていたら、二つ目を取ろうとした時にはもう兄がそれを食べている。競争の原理が家の中にあった時代だった。
過当競争とのバランスは難しいけど、競争の原理がどこかにないと貪欲な勝負心は育たない。孫が通う中学校は、学力テストの成績が1位から200位まで全部出る。これはいいことだよ。よく孫とは成績の話をする。「爺、ふた桁台に入ったら、何か買ってくれる?」と言うから、「それなら、好きなシャツを買ってあげよう」とか。評価が出るから努力できる。
サッカーも一緒だ。成績が良ければ給料がもらえるし、悪ければもらえない。競争の原理そのものだ。だからFWなら、自分がゴールを上げられるようにするために何でもやらなければいけない。僕は現役時代、チームが勝つため、そして自分が点を取るため、味方に「ああせい、こうせい」という傾向が強かった。自分が点を取れるよう、こういうパスをこういうタイミングで出せ、といった主張を相当強くした。でも、今思えば、その味方の選手もそれでうまくなっていた。釜本のためにいいパスを出そうと努力したから。
プロ選手のコミュニケーションとはそういうものだ。今の選手は仲間内でそういうことをどれだけ言い合っているかなあ。合宿でも部屋に帰ってゲームばかりやっているから。
1944年、京都市生まれ。山城高から早大を経て、1967年にヤンマーディーゼルへ。日本リーグで通算最多の202得点。得点王には7度輝いた。日本代表としては、国際Aマッチ日本最多の75得点。1968年のメキシコ五輪では7ゴールをあげ、銅メダル獲得の原動力となった。1984年に引退。Jリーグ・ガンバ大阪初代監督、参議院議員、日本サッカー協会副会長などを歴任。