2009年11月27日
1964年東京五輪の日本代表コーチを務め、「日本サッカーの父」とも呼ばれるデットマール・クラマーさんは練習中、実に一生懸命だった。例えば、選手がトラップを浮かせたとする。当時は土のグラウンドだったから、ボールが跳ねるのでトラップミスもしやすかった。クラマーさんは「一度でコントロールしなさい!」と、そのつど、必ず叫んだ。クラマーさんの説明はこうだった。「トラップが50センチ浮いたら、その間に相手DFが3メートル詰めてきて、コントロールできた時には自分にガンと来られてしまう。でも、1度で止めたらOKじゃないか。だから、トラップを浮かせたらダメなんだ」。もちろん、選手はわかっている。それでも、やはり浮かせてしまう。クラマーさんは絶対に放置しなかった。必ず、叫んだ。「一度でコントロールしなさい!」
以前、このコラムで、「監督があれこれと教えることは多くない。うまくなるための練習を積み重ねる習慣を付けさせることが監督の仕事だ」と指摘したが、その一方で、「ダメなことはダメ」とその場で言うことは、監督の重要な仕事だ。
例えば、こういうことだ。トラップでいえば、「インサイド(足の内側)でしっかり止めなさい」などとは、間違っても言ってはいけない。これは「あれこれ教える」という範疇に入る。確かにインサイドなら確実に止めやすいが、そんなことは誰が決めたんだ? アウトサイド(足の外側)でも、つま先でも、浮き球なら太ももでも腹でも、どこでも止められる。変な言い方だが、寝転がって止めても反則じゃない。逆にインサイドで止めると、ボールが懐に入ってしまって次のプレーが遅くなり、むしろマイナスになるケースがある。「その時その時の状況を見てどういうトラップがいいか考え、試しなさい」と言って、状況にふさわしいトラップ技術が習得できるような練習の習慣を付けさせることが監督の仕事であり、トラップの仕方まで形作ると、その選手は監督が何かを言わないと何もできないようになってしまう。
ただ、トラップミスをしたら、クラマーさんのように、必ずその時点で「ダメだ」と言う必要がある。選手に練習の習慣をつけさせるために意識して「ああせい、こうせい」とうるさく言わないことと、面倒くさいから言わないのは、違うことだ。選手がやってはダメなことをやった時は、嫌というほど言わなければいけない。幼児がライターを手に取ったら、パチッと手をはたいて「ダメ!」と言うだろう? 「危ないから、絶対にダメだ」と。その選手が自分で判断したプレーでも、監督の戦術に合わなければ、やはり言わなければならない。
そもそも、何がダメかを監督やコーチが判断すること自体、高いレベルが求められる。トラップを少々浮かせても、レベルが低い相手に対してなら次のプレーに与える影響は少ない。相手のレベルが低いから、ミスがミスにならないという状況だ。選手は自分がミスをしたと感じないだろう。しかし、そういう時こそ、それを指摘するのがいい監督やコーチだ。パスのスピードが遅い時も、相手がたいしたことなければ通用する。しかし、それでも「ダメだ」と言わなくては、上のレベルは望めない。
1944年、京都市生まれ。山城高から早大を経て、1967年にヤンマーディーゼルへ。日本リーグで通算最多の202得点。得点王には7度輝いた。日本代表としては、国際Aマッチ日本最多の75得点。1968年のメキシコ五輪では7ゴールをあげ、銅メダル獲得の原動力となった。1984年に引退。Jリーグ・ガンバ大阪初代監督、参議院議員、日本サッカー協会副会長などを歴任。